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2009年12月

2009年12月31日 (木)

一年の最後に 更新をスピードダウン

今年も今日一日だけ。
いろいろなことがありました。
幸いなことに、たまたま、再発しないでここまで来ました。

コメントをくださった多くの方、コメントはなくても定期的に閲覧に来られた方。
そういった方の存在によって、このブログを続けることができ、ブログを書くことで自分のがんを客観的に見つめることができました。

ありがとうございました。

来年も、今年と同じ状態が続くことが希望です。

今日はN響の第九でも聴いて、一年の締めくくりにしようか。

【連絡】
しばらく忙しくなりますので、3月中旬まではブログの更新が少なくなりそうです。
気が向いたら、あるいはどうしても書きたいことがあれば更新をしますが、これまでのように頻繁には更新できそうもありません。あしからずご了承のほどを。

2009年12月30日 (水)

食事療法について

食事療法でがんが治るのか。これについては賛否両論ある。骨折ならすぐに外科治療あるいは整形外科を受診すべきだろう。しかし高血圧なら、一時的に血圧降下剤が効くにしても、根本的には生活スタイルを変え、食事を変え、運動をする必要がある。なぜなら高血圧は慢性病であり、生活習慣病だからだ。それではがんは急性の病気なのだろうか慢性の病気なのだろうか。一個のがん細胞がCTで見つけることができる直径が1cmの大きさになるまでには5年から40年かかるといわれている。

多くの疫学調査によれば、がんの発症率の高い地域と低い地域の人々において、何が大きく違うかといえば、食物である。乳がんの発症率が低いアジア系の人がアメリカに移住したのち2世代を経ればその子孫の乳がんの発症率はアメリカ人と違いがなくなる。食事が欧米化するためだと証明されている。日本でも長寿県といわれた沖縄で、昔の沖縄特有の諸記事が廃れた結果、長寿県ではなくなってきている。カロリー制限をすれば、がんを予防できるというエビデンスもある。

アメリカ対がん協会が、がんになった人の食事療法についての指標を公表している。指標は次の7段階で示されているが、

  • A1…利益が証明されている。
  • A2…おそらく利益があるが、証明はされていない。
  • A3…利益の可能性があるが、証明はされていない。
  • B…利益やリスクについて結論するだけの、十分な知見がない。
  • C…利益の可能性を示す知見と、有害な可能性を示す知見が、両方ある。
  • D…利益がないことを示す知見がある。
  • E…有害なことを示す知見がある。

公表された表に使われているのはA1はなく、A2,A3,Bの3種類である。そして、欄外には「低脂肪食や野菜、果物の摂取は積極的に取り入れる価値がある」と書かれている。

現状では疫学調査もデータも不十分である。緑茶のように、あるときは「がんの隣接した組織への進入と血管新生を抑制する」という調査があるかと思えば、より大規模な調査でそれが否定されたりもする。何が本当であるかは、証明できるほどには確かなデータがない。

こうした時、がん患者は何を頼りにどのように対処すればよいのだろうか、ということが私自身にとっても重要な問題である。

こうした現状と、がん患者の不安、何か自分でもできることに取り 組んでい ないと心配だという心境につけ込んで、多くの食事療法の本が出版されている。書店に行けばある消化器外科医の著作が平積みされている。彼の著作の変遷をたどると、『おいしく食べて直す腎臓病』『おいしく食べて治す糖尿病』からはじまり、『日本だけなぜ、がんで命を落とす人が増え続けるのか』となり、『いまあるガンが消えていく食事』と続く。さらに屋上屋を重ねるように、『今あるガンが消えていく食事〈実践レシピ集〉』『がん再発を防ぐ「完全食」』『今あるガンが消えていく食事 超実践編』『ガンを消す食材別レシピ完全版』と、丁寧というか、しつこいというか、いま一番売れっ子の食事療法家である。がんの再発を防ぐ完全食があるのなら、私としては飛びついて実践しなくてはなるまい。(あるはずがないが)

アマゾンの彼の著作のレビュー欄に書かれた投書にこんなのがあります。肯定的なレビューが多いのですが、実際にこの先生の診察を受けた患者はすべて否定的なレビューです。

この著者は本の中で、今でも病院で治療を行っているように書いています。この方の勤務するS県にある病院に入院すれば、通常より少ない量の抗がん剤治療と、入院中から野菜ジュースを中心とした食事療法が受けられるといった内容を匂わせています。そして患者の体験談のコーナーでは、必死になって訪れた患者を受け入れ、精一杯の治療を行うことを匂わせています。私も、入院中に姉から差し入れられてこの本を読み、意を決して退院し、この先生の病院を受診しました。しかし、待っていた現実は、東京にあるクリニックで高い検査をさせられ、前の検査結果やデータは一切見ず今回のデータと比較してもらうこともしてもらえず、事前の問診表に書いた内容を再度一から聞かれました。検査もPET検査を含め、2週間前に行った検査を全てされました。PET検査で放射能を2週間ごとに体内に入れることはかなりの不安でした。たぶん、前の病院のデータや事前の問診表には一切目を通していないのでしょう。また、3分ぐらいの食事指導をA4一枚の紙で行い、あとは自分が過去に雑誌に投稿した資料を手渡されて終わりました。結局、元の病院で元通りの治療を受けるように言われ終わってしまいました。意を決して飛行機を乗り継いで来た私にとって、あんまりの仕打ちでした。本や雑誌で名前を売り、東京のクリニックで検査代で儲けようとされている構造があまりにも露骨に見えました。
 私の所属している患者の会でも、この著者の本に踊らされて被害を受けた人は多く、問題となっています。
*********************************

本の内容では、病院で今も治療に当たっているように書かれていますが、現在は全く医療行為を行われていません。藁にでもすがりたい患者の気持ちを悪用して いるのではないでしょうか?私の妻が今年の春にこの本を基に受診しましたが、冷たくあしらわれ、家族共々悲しい思いをしました。結局必要のない高額な検査 を受けさせられただけで終わりました。この著者のお金儲けに利用された、妻の気持ちを考えるといたたまれません。
 今後、このような被害者が出ないように、この本を買われる方は、治療目的で行かない方がいいと思います。

 この著者の行為は、私の妻が所属している患者の会でも問題になっています!! 患者の会の中には、前の病院をやめて著者のクリニックを訪れたこ とが分ると、「なんでそんなことをしたんや!あんたは悪い患者や!!」と怒られた人もいたそうです。埼玉にあるS病院とこの著者は、どうやら関係が切れて いるようです。また別の会員は「立派ながんですね。」と鼻で笑われ、深く傷つけられたそうです。患者の精神的な落ち込みや絶望感を、この著者はあまり理解 されていません…。

この先生が院長を務めるクリニックに関しては、こんな事実も知っておくべきでしょう。何しろ日本におけるPET診断の草分けであり、一度自己破産したクリニックです。

PET専門診療所が倒産
 西台クリニックが開業したのは2000 年10月。当時、PETはあらゆる臓器の癌の早期発見に有効であると大きな注目を集めていた。しかし、機器が高額な上、保険適用になっていなかったことから導入する施設はほとんどなかった。そこに目を付けたのが、医療コンサルティング会社の(株)Methods(今年3月に破産)。同社は、清志会と協力してPET 検診専門の西台クリニックを開設。高額な検診料で収益を上げるモデルを考案した。
 Methods は建物の賃貸やPET 機器のリースなどを通じ、実質的にクリニックを経営していた。開設時には1台約3 億円する米国・ポジトロン社製のPET 専用機3 台とサイクロトロンを導入、国内最大級のPET 検診施設としてマスコミの注目を集め、開設から半年足らずで1日約20人の受診者を確保した。さらに、2001年には、同じくポジトロン社製の専用機を2 台追加して計5台に拡充。ところが、これが過剰投資となった。
 検診の場合、受診料は1回10万円以上かかり、費用を負担できるのは一部の人に限られる。複数のPET施設の開設に携わった経験を持つあるコンサルタントは「通常、機器1台で1日10人前後の検査を行わないと、PET 事業の採算は合わない。検診の需要を考えると、5台は重装備すぎた」と話す。

時代はPET-CTへ
 さらに追い打ちをかけたのが、PET の保険適用とPET-CTの普及だった。02 年、18FDGを用いた検査が保険適用となり、翌03 年には、X 線CT 検査も同時にできるPET-CTが国内でも発売された。
 これを境にPET 施設が全国で急増、競合が激化するとともに、PET検査は保険診療が中心になっていった。02 年6月に開設したPET 施設の厚地記念クリニック(鹿児島市)院長の陣之内正史氏は、「保険による癌の検査の市場は検診よりはるかに大きいが、それを取り込むには高性能のPET-CTを装備し、専門病院などから癌患者を紹介してもらうことが必要だ」と話す。実際、同クリニックも04 年にPET-CTを導入している。
 これに対して、西台クリニックは既に5台のPET 専用機を所有しており、最新のPET-CTを導入するだけの資金力はなかった。ただ、01年に専用機2 台を追加した時点でも、PET-CT が近々登場することは分かっていたはずだ。これについて院長だった宇野公一氏は、「Methodsが開業前からポジトロン社製の専用機5台の導入を決定しており、私の意見を受け入れてもらえる状況ではなかった」と語る。

そして8ヶ月後に再開することになります。

破産から8カ月…
PET検査の西台クリニックが再スタート
個人の診療所として、引き続き画像診断に注力

わが国のPET検診施設の草分けながら、今年3月に破産した医療法人清志会の西台クリニックが、11月上旬、リニューアルオープンしたことが分かった。今後は、院長を務める済陽高穂(わたようたかほ)氏が開設する個人の診療所として、PETによる癌の総合検査を中心に、従来どおり画像診断センターとして運営される。

 同クリニックは、2000年10月、PET検診専門の施設として東京都板橋区にオープンした。国内最大級のPET施設としてマスコミにもたびたび登場、 PET検査の普及・啓蒙に貢献した。しかし、5台のPETを導入したことによる過剰投資のほか、PET検査の保険適用やPET-CTの発売をきっかけに始まった競合激化による収入の伸び悩みで経営状況が悪化、経営していた医療法人清志会は、約22億円の債務超過に陥って破産に追い込まれ、西台クリニックも休診していた。(関連記事[PDF]:2008.5 PET専門診療所が倒産)

 それを済陽氏が引き継いで、このほど再開にこぎ着けたわけだ。西台クリニックのパンフレットなどによれば、同氏は千葉大学医学部出身の消化器外科医。都立荏原病院や都立大塚病院に勤務した後、埼玉県の医療法人松弘会が今年6月に開院した認知症専門病院、トワーム小江戸病院の院長を務めていた。

 実施する検査の価格は、PETと生化学検査、メタボ検診を組み合わせたコースが10万8000円。PETにX線CTや骨盤部MRIなどを加え、結果説明も受けるコースは18万3000円に設定されている。

 約8カ月と比較的短い休止期間での再スタートとなった西台クリニック。PET施設がいくつも存在する首都圏で、老舗としての知名度を生かして患者を集め、採算を合わせられるかどうか、今後に注目したい。

倒産したクリニックを(たぶん)安く引き継ぎ、いまでは旧式となったPETを使って、相談にきた患者には必ずPET受診をさせている。(クリニックのウェブに「PETを用いて、体幹部の細胞の働き具合を調べることで、がんの有無や位置を調べ、CTで体幹部を、MRIで骨盤部を調べます。」と分けて書かれているので、旧式を使っているのだと推定しています)

○ がん食事指導の内容

1.PET検査および腫瘍マーカー検査:現在の病状(腫瘍の病期・位置、転移の有無など)を把握するために検査を行います。

PET検査の意味・意義:
医学的な根拠が必要なので、PETおよび腫瘍マーカーの検査により、現在の病状を把握した上で、食事指導を行います。定期的* に上記検査をすることで、治療効果を判定すると同時に、病状に応じて食事指導の内容を変更します。

* 病状により異なりますが、6ヶ月に一度、PET検査を行います。

食事療法や治療をするのではないのですね。「食事指導」をするのだということ。しかも、食事指導をするについては、「必ずPET検査をうけてもらう」。驚いた経営方針です。検診費用もグランドコースで249000円。自由診療は診療費が「自由」に決められるのですから違法ではないですが、こんな金額を出せる患者が多くいるのでしょうか。

食事療法でがんが治るかのような本を出版し、それを見て来院した藁をもつかみたい患者の全員に旧式のPETでの検査を強制する。(半強制的に販売する)
こうした商法を『バイブル商法』というのです。

私の食事療法に対する基本的なスタンスは、

  1. なるべくエビデンスのしっかりした方法を採用する(完全なデータはないのだから)
  2. 無理のない食事である
  3. 長く続けられる方法である(続けられない方法では効果がない)
  4. 臨機応変に

ということでしょうか。原則は玄米菜食です。しかし、白米は絶対にだめというわけではない。寿司を玄米でいただいても食えやしません。肉は鳥だけにしていますが、これも臨機応変。家族で外食した場合にはみんなに合わせて牛肉を食べることもあります。控えめにはしていますが。玄米がおいしいと感じないなら、無理には実行しない方がよいです。がんと闘うのは結局は「体力」です。体力を維持できないような食事では勝てません。

幸い、私の場合は玄米もおいしく感じられるし、続けることで確かな効果を感じています。では、玄米菜食が本当に効果があったと言えるのかと問われると、「分かりません」としか言いようがない。

玄米菜食にした、瞑想もしている。可能な運動もやっている。マルチビタミンも摂っている。さて、どれが効果があったのかは分からない。証明することができない。それに、相関していることと因果関係があることとは別のことだ。「○○を摂ったらがんが消えました!」というがん関係の本が多いが、これはせいぜい(書いてることが真実だとしても)相関があるということ。真の原因は別にあるかも知れない(その場合が多い)のです。

私はいま膵臓がんが再発しないでいる。私は東京都の水道水を飲んでいる。私のがんが再発しないのは、東京都の水道水を飲んでいるからである。これがおかしな論理だとすぐ分かりますが、同じような相関関係と因果関係を(故意に)混同した本が多いですね。

先の先生の著作にも食事指導の結果をまとめていますが、この先生は少量の抗がん剤治療と併用しているらしいのです。だとすると、食事療法の結果なのか少量の抗がん剤投与による結果なのかは分からないはずです。少量の抗がん剤治療(いわゆる休眠療法)でも、あの程度の成績はでるのではないでしょうか。

食事とがんの関するエビデンスは不足している。かといって、十分なエビデンスがそろうまで待っていることはできない。予後の悪いがんであるから、あれもこれも試してみるだけの時間的余裕もない。だとすれば、自分でよく考え、可能性のありそうなものに賭けることしかできない。何が信頼できそうかは、いま時点でのデータから「推測」するしかない。「これなら確実にがんが治る」という言葉には、先ず信頼がおけないと肝に銘ずべきだろう。彼らが勧めている食事がだめだということではなく、多くは健康的な食事であるのだが、「これでがんが確実に治る」と言っているところがだめなのだ。他の治療法を放棄させるから罪作りだということだ。

ゲルソン療法もだめ、がんの患者学研究所もだめだ。半数のがんが治ると言われてるのですから、100人、1000人の「治ったさん」を集めることくらい簡単なことであるはずだ。治らなくて亡くなった患者が何人いるのかのデータを出すべきだ。ようするに分母がいくつかを明らかにしないで、分子だけを公表している。たくさん集めれば分子はいくらでも大きくすることができる。大事なのは分母は何人なんだ、ということだろう。

この説明に反論するのであれば、膵臓がんの患者何人が食事療法をして、何人が治ったかを明らかにしてみればよい。彼らの公表したデータですら、膵臓がんの患者では惨憺たる結果ではないのか。

  がんは食事療法では治らない。
  しかし、がんは食事療法をしなければ(たぶん)治らない。

私の心中でのひとまずの結論はこんなところだ。

関連記事「ゲルソン療法では膵臓がんは治らない


今あるガンが消えていく食事 (ビタミン文庫) 今あるガンが消えていく食事 (ビタミン文庫)
済陽高穂

今あるガンが消えていく食事〈実践レシピ集〉 (マキノ出版ムック) 日本だけなぜ、がんで命を落とす人が増え続けるのか―消化器外科の権威がすすめる驚異の栄養・代謝療法 今あるがんに勝つジュース 今あるガンが消えていく食事 超実践編 (ビタミン文庫) 乳がんと牛乳──がん細胞はなぜ消えたのか

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2009年12月28日 (月)

がん患者の人生プラン

来年の手帳は購入しなかった。今年の手帳を開いてみても、ほとんど使っていなくて、せいぜい病院の定期検査の予定とか、薬をもらう日が書いてあるだけだ。がんになる前は手帳が真っ黒になるほど書き込んでいた。しかし、がんになってからは、時間を惜しんで効率的にこなすことを止めた。そんな考え方が、がんになった一因かも知れないと考えたからだ。仕事の予定、ToDo、検査の予定程度ならOutlookで間に合う。メモ書きならlinoというオンライン付箋サービスが役立ってくれる。

手帳は買わなかったが、計画まで立てないというわけではない。29日のNHKスペシャル「働き盛りのがん」で紹介されていた関原健夫さんの闘病記、『がん六回 人生全快』に、関原さんが最初の大腸がんを告知された時、同じニューヨークにいて乳がんと闘っていた千葉敦子さんからこんな手紙をいただいたという箇所がある。

癌患者はふた通りの人生設計を持たなければなりません。治療が失敗した場合と成功した場合と。そのふたつの仮定に立って、いま自分にとって何が一番大切か、を選ばねばならないのです。もし、五年生きられたら、本当にもうけものなのですから。・・・・・・・・私は一年と六ヶ月のプランもつくっています。最初の六ヶ月生きられたあとの喜びは忘れられません。

実は私も膵臓がん手術の入院中に退院後の計画を立てたのだった。膵臓がんの場合は6ヶ月の計画でも長すぎる。手術の適用がない患者では3ヶ月で半数の人が亡くなる。幸い手術ができた私のような幸運な患者でも、6ヶ月ことに半数が亡くなる。ところが私は2年と4年の計画を立てた。千葉敦子さんの計画は、「5年生きられたらもうけもの」を前提とした計画だ。しかし、私の計画は「治癒するための計画」という考えだった。サイモントン療法を解説した川端伸子さんの著作『がんのイメージ・コントロール法』にある「2年間の健康プラン」に勇気を与えられて立てたものだったからだ。千葉さんの計画は、治癒した場合と治癒しなかった場合の計画であり、「治癒するための計画」がない。実際はあったのかも知れないが、この手紙では触れられていない。

治癒するための計画の内容は、このブログで書いてきたとおりのことで、歩くこと・チェロを楽しむこと・玄米菜食・たくさんの古典や科学の本を読むことたくさんの楽しい時間を持つこと、生きがいを持つこと、希望と夢を持つこと。そして最も大きな夢が「自宅を建て替える」ことだった。私が死んだあとの家族の生活を考え、自宅を賃貸・貸店舗併用住宅にしてか細い年金でもひとり残された妻が暮らしていけるようにという計画だった。退院してすぐの2007年9月に業者を呼んでプランを立てさせた。ただし、完成するまで私は生きていない可能性が大きいから、それを了解して欲しい。契約までに再発したら、この計画は中止にします、という約束で始めた。もちろん私としては、完成するまでは絶対に死ぬことはできない、という決意だった。

業者選びと設計には1年をかけた。もちろん癌患者に住宅ローンは貸してくれないから、事業ローンにした。これなら団体信用生命保険に入る必要はない。この間、家族全員で設計プランを練りに練った。この時間が一番幸福で豊かな時間だったような気がする。幸い、再発はしなかった。今年の2月に自宅を解体して仮住まいになった。9月には完成して新居に戻ってきた。テナントも全て満室になり、ローンの返済も心配はなくなった。これが私の2年のプランだった。

4年のプランは、年金を満額もらえるまで生きてやろうということだ。64歳になるまでなにがなんでも生きて年金をもらわなければ悔しいではないか。それと、チェロで市民オーケストラに参加する夢も、4年後までには実現したいと欲張ってみた。(こちらはかないそうにない。上達が遅すぎる)

千葉敦子さんの「がん患者はふた通りの計画を」はその通りだと思う。更に私が付け加えたいのは、どちらの計画にも「治るためにするべきこと」と、治っても治らなくても「自分の本当にやりたいこと、大切だと思うこと」を必ず入れるべきだ。桜を見ても紅葉を見ても、本を読んでも、すべて「一期一会」だという思いで体験してみることだ。

再発もなしで、計画達成した我が家で迎える新年は、我が人生で一番輝いていたと言える新年になるに違いない。そして、来年の計画と希望は、がん患者にとって一番贅沢な希望、

   今年と変わらない新しい一年でありますように

ということです。

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2009年12月26日 (土)

年賀状の図柄を考えて・・・

風天 渥美清のうた 年賀状の図柄を何にしようかと思案していたが、来年は寅年だから「寅さん」ではどうかと思い当たった。もちろんあの「ふうてんの寅さん」である。インターネット上で無料のイラスト素材を探したが、これといったものがない。あちらこちらネットサーフィンをしていたら、『風天 渥美清のうた』という本に行き当たった。

渥美清が俳号「風天」で多くの俳句を残していることはあまり知られていない。「アエラ句会」に永六輔らとともに参加していたが、「壁に向かってひとり沈黙し、終わると黙って出て行った」というふうな様子だったらしい。渥美清は肝臓がんが肺に転移した転移性肺がんで亡くなっている。私生活を一切公にしない彼らしく、がんになったことも世間には知らせることなく闘病していた。

   お遍路が一列に行く虹の中

これが渥美清の代表作であり、辞世の句といっても良い作だといわれている。これは『カラー版新日本大歳時記』の春の巻に、高浜虚子の「道のべに阿波の遍路の墓あはれ」らと並べて載せられている(らしい)から、アマチュアの域を脱している。私の気にいったいくつかを挙げると、

   好きだからつよくぶつけた雪合戦

   だーれもいない虫籠の中の胡瓜

   どんぐりのポトリと落ちて帰るかな

   少年の日に帰りたき初蛍

   背伸びして大声あげて虹を呼ぶ

   股ぐらに巻き込む布団眠れぬ夜

   扇子にてかるく袖打つ仲となり

   そば食らう歯のない婆(ひと)や夜の駅

   立小便する気も失せる冬木立

   冬の蚊もふと愛おしく長く病み

「好きだから・・・」なんて、そうそう、という気がしますね。私は南国育ちですからドッチボールでしたが。

この本を書いた森英介さんも、今月14日に膵臓がんで亡くなっています。がん患者が詠んだ俳句集を来年出版の予定を待たずにお亡くなりになったと報じられました。

樋口強さんの『貴方 最近笑えてますか』にこんなくだりがあります。「仕方なくもらったがんという”印籠”ですから、うまく使いましょうよ。私がんなんです、この印籠が目に入らぬか、とやったら、たいがい通りますよ。」

しかしね、二人に一人ががんになる時代ですよ。「私、がんなんです」と言ったって、「それがどうした。二人に一人は男だよ」と言われますよ。男が珍しいはずはないように、がん患者は珍しくもないわけです。「水戸黄門の印籠」のようには通用しません、最近は。最初のころは効きましたよ、確かに。難しい仕事は回ってきませんでした。家族も気を遣ってくれました。しかし、2年半もがん患者をやっていると、相手も慣れてくる(忘れているというのが本当のところ)のでしょうね。最近では会社でも仕事量は前と同じです。いっこうに減る気配がない。

しかし、これも考えようです。がんは安静にしていれば治るという病気ではない。むしろ、多くの方が言うように、使命感や生きがいを持つことが重要です。普通に扱っていただくことが(若干の配慮もお願いしたいですが)、治療にはよいのではないかと、あらためて周囲の皆さんに感謝する次第です。

年賀状の図柄のことを書いていたのだった。結局図柄はありふれた虎の絵にしました。

風天 渥美清のうた (文春文庫) 風天 渥美清のうた (文春文庫)
森 英介

おかしな男 渥美清 (新潮文庫) きょうも涙の日が落ちる―渥美清のフーテン人生論 渥美清の伝言 忘却の力―創造の再発見 人生に、寅さんを。 ~『男はつらいよ』名言集~

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2009年12月23日 (水)

買って損した『癌では死なない』

二人に一人ががんになり、三人に一人ががんで死ぬ時代ですから、がんは珍しくもない病気です。医者の数は約29万人といわれていますから、半分の15万人ほどががんになっても不思議ではない。博士号を持っていない医者も希でしょうから、がんになった博士号を持った医者だって珍しくもない。しかし、世の中、がんになった医者が書いた本が、さも権威あるかのように出版され続けています。医学博士の肩書きでも載せておけば更に権威が増すかのようです。

癌では死なない~余命宣告をくつがえした医師たちの提言~ (ワニブックスPLUS新書)

新刊.net」というサイトがあり、キーワードで「がん 癌」などと登録しておくと、 癌に関する新刊書籍を表示し、メールで知らせてくれます。ブログの情報源の一つなのですが、ここに『癌では死なない 余命宣告をくつがえした医師たちの提言』という本が12月8日に発売になったと表示されました。おもしろそうなので買ってみたのですが・・・・。

3人の著者が書いていて、みんな癌の経験者。最初の著者は松野哲也氏。国立研究機関で基礎医学研究に従事後、米コロンビア大学癌研究センター教授を勤める。現在はノエティック・サイエンス研究室主宰。プロポリスを永年研究してきた人。癌は怖い病気ではない、抗癌剤治療は危険な賭け、抗癌剤の有効・奏功と治ることは関係ない、などまともなことも書いてあります。まぁ、近藤誠氏の本の焼き直しに近い内容と思っていただければ間違いない。しかし、読み進めていくと、義母の子宮頸がんにプロポリスを塗ったらがんが消えたという。本人もS字結腸がんになり、プロポリスと足裏マッサージで治ったそうだ。でも幾分”良心的”でもある。「プロポリスを飲んでいればがんは必ず治る」などとは言わないからだ。プロポリスのような良質のサプリメントを摂りながら、「今」を大切に生きましょう、というのだから。

ノエティック・サイエンスとは、「精神科学」となろうが、アメリカの「ノエティック・サイエンス研究所」は超心理学の研究で有名です。オカルトだし、それと関係があるのか?

二人目は鶴見隆史氏。鶴見クリニック院長。病院のサイトのトップページに自書の一覧が出てくるというおもしろい医院です。自由診療(健康保険が利きません)、完全予約制。本を買う前にこのサイトを見ておけば買わなかったのに、後悔先に立たずです。免疫強化療法・断食・鍼灸・遠赤外線療法、放射線ホルミシスもやっています。鍼灸師の施設とどこが違うんだろうといぶかるばかりです。「腸をきれいにすれば癌が消える」「精白糖は癌の栄養」「高GI食が癌を育てる」・・・これも『がんに効く生活』などからのパクリでしょう。「植物ミネラルマグマについて」論文を出したということでPDFのリンクが張られていますが、「植物ミネラルマグマと私」が正式のタイトルらしい。論文に「私」、こんなタイトルがあるのか?どの雑誌に出したとも書いていない。雑誌のコピーでもない。「論文」を書いたという権威付をしたい思惑が透けて見えてきます。ホメオパシーの同類である放射線ホルミシスという、決着の付いていない仮説をさも正しいことでもあるかのように扱っている。1~100マイクロSv/hの放射線を照射するのだという。その一方でがんの放射線治療は危険だというのだから、矛盾も甚だしい。当人にいわせれば、低線量の放射線と高線量では影響が違うのだということになるのだろう。近藤宗平氏の『人は放射線になぜ弱いか』が日本でのハシリだと思うが、最近また「微量の放射線は身体にいい」というトンデモ科学が台頭してきている様子。しかも、身体にいい→がんが治る、と一気に飛躍してきたようだ。

圧巻は三人目の稲田芳弘氏。ご自身が、男性には珍しい乳がんになったそうで、しかし抗がん剤治療も一切拒否して、玄米菜食と足もみで治したという。まぁ、それはよい、乳がんは放っておいても治ることの多いがんだ。だからといって、それが「千島学説」が正しいことの証明にはならないだろう。この人は「千島学説」の信奉者であるらしい。癌死が増えたのは誤った細胞分裂説により、がん細胞が際限なく増殖すると勘違いした医者が、抗がん剤や手術をするからだ、という主張だ。千島学説についてはリンクを参照してください。ここでは「赤血球には核がないが、がん細胞には核があることを千島学説では説明できない」とだけ触れておきます。

さらに、ガストン・ネサンの謎の微少生命体ソマチッド(DNAの前駆生命であり、永遠の生命を持つ)に、ソマトスコープ、75%の末期癌患者が治ったという「714-X」という免疫強化剤。トンデモ科学満載です。私もクリストファー・バードの『完全なる治癒』は読みましたよ。ネサンの裁判の記録ですが、私の興味はソマトスコープの詳細が知りたかったのです。しかし、簡単な図が載せられているだけ。こちらの動画の方がまだましです。(既にリンク切れ)「ガストン・ネサンのソマチッド・ソマトスコープ」

これについてもいろいろと突っ込みを入れたいが、(光学顕微鏡で電子顕微鏡並みの分解能があるのか、ゼーマン効果を利用しているというが、ゼーマン効果は磁場中の原子に対する現象であって、放射された光に関する現象ではないなど)関わっているときりがないので・・・。

そして、やはり出てきました。「波動」です。「音響免疫療法患者の会」というNGOも関わっている様子で、彼の奥様が一所懸命に勧めているようです。「弦の激しい波動エネルギーの響きが身体を発熱させ自己治癒力を高め」るそうです。

私がチェロを1時間も引いていると、身体もぽかぽかとしてきますが、それはチェロからの波動がエネルギーとなって伝わってくるわけではなく、両手を使って弦を押さえ、弓を弾き、身体全体でチェロを弾いているから暖まってくるというだけのことです。弦の振動エネルギーと体温を1°上げるに必要なカロリーを計算してみれば簡単に分かることです。もちろん弦の響きが身体に心地よいですよ。でもね。何で「波動エネルギー」を持ち出す必要がある?売ろうとしている音響機器や音源も高そうですね。

それぞれに何かを売りたい下心がありそうですね。プロポリス・酵素を使った免疫療法、自分の著作や音響機器。もちろん本に書かれていることが全部が全部ウソというわけではないです。そんな本なら誰も見向きもしないから、8割は本当(らしい)ことを、根拠のありそうなことを書いています。その部分だけを読むのなら何らかの役に立つこともあるでしょう。トンデモ本の特徴は、ある条件で起きた例をそのまま一般化する、否定的な現象には目をつむるということでしょう。

3人の鼎談部分にサブタイトルとして「怪しい癌ビジネスに気をつけろ」と書かれています。自分たちのことでは?と笑っちゃいました。

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2009年12月22日 (火)

NHKスペシャル『働き盛りのがん』

12月29日(土)21:00から、NHK総合テレビでのNHKスペシャル『働き盛りのがん』(仮題)に、樋口強さんがスタジオトークで参加されるようです。内容はドラマ仕立てのようですが、先日のブログ「最近、あなた笑えてますか」を覚えている方はスイッチを入れてみては・・・・。

日本対がん協会の常務理事であり、著書『がん六回 人生全快』を種パンされている関原さんのがんとの闘いにも興味があります。元気をもらえそうです。

いま増え続ける働き盛りのがん。この番組はあるビジネスマンが6回のがんと向き合った25年間の軌跡を軸に、現在働きながらがんと向き合う人々の現実を織り交ぜながら、彼らの前に立ちはだかる壁とは何か、それを乗り越えるには何が必要かを問いかけるドキュメンタリードラマである。関原健夫さん(64歳)はNY駐在中の39歳の時、進行した大腸がんを告知され、その後肝臓、肺への転移、肝臓への再転移などを繰り返しながらも生き延び、当初の「5年生存率20%」を身をもって打ち消してきた。仕事に打ち込み家族を守りながらがんと正面から対峙(たいじ)し、絶望と希望を繰り返しながら生きようとした軌跡は、いま、がんと直面する人々への普遍的な伝言である。関原氏の軌跡をドラマで辿ると共に、いま実際にがんと向き合いながら働く20代から50代までの働き盛りの人々が繰り広げるスタジオトークを別途収録。ドラマとトーク、ドキュメント映像を自由に行き来する新しい演出のNHKスペシャルである。
(キャスター:俳優・児玉清)

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2009年12月20日 (日)

ルイ茶長さんの再発、余命宣告

同じ膵がん患者の茶長さんのブログに「再発しました。余命半年です」という書き込みがあり、驚いています。私と同じステージⅢの膵がんで膵頭十二指腸切除を昨年の10月にされて、術後1年を無事に達成された矢先でした。今年9月の定期検査でも腫瘍マーカもCTも「異常なし」であったものが、その後身体全体の激しい痛みが起きていた様子はブログにも書かれていました。しかし、ご本人もまさか再発しているという可能性は想像していなかったのでしょう。3ヶ月前には「異常なし」のお墨付きをいただいていたのですから。

膵がんの「足の速さ」は想像を絶するものがあります。ダブリングタイムが3~4週間ということですから、5mmの直径のがん細胞があり、CT等の検査にはかからなかったとしても、3週間で2倍になるとすれば3ヶ月では2^4で12倍、直径は2.3倍になります。5mmが12mmとなって立派ながんの固まりに成長するのです。実際は人によってはもっと早いこともあり得るのですから、あらためて膵がんの怖さを再認識させられました。

ルイ茶長さんの落胆はいかばかりかと、かける言葉もありません。もはや完全治癒の可能性はほとんどないでしょうが、それは統計的に言えばというだけのことです。「余命宣告」なんぞは、無視してください。神でもない、たかが一介の医者が他人の余命を宣告するなどということは傲慢なことに違いありません。医者はこれまでの経験から推し量って宣告するのでしょうが、例外的な長寿者は必ず存在してきました。私の母も肺がんで余命半年と宣告されてから7年も生きて、独り暮らしで立派に生活していました。余命宣告ほど当てにならないものはないと思っています。

ルイ茶長さんは、これからの治療方針を「無治療」と決めているようです。そのように担当医にも宣言された由。それも立派な決断でしょう。がんは局所の病気でもあると同時に全身の病です。再発しやすい者は結局再発しやすい。膵臓がんに顕著に効く抗がん剤など存在しないのですから、所詮は毒を盛られて死ぬか、がんで死ぬかの違い。数ヶ月(ときには数日)の延命効果のために、つらい副作用に耐えるのか。そのように考えれば「無治療」で痛みの緩和だけをするというのも、私は良い決断であろうと思います。

ただし、これは誰にも同じ抗がん剤を見境亡く投与するという「標準治療」を考えた場合です。QOLを維持できる程度の抗がん剤での休眠療法という考え方もあるし、延命していればあと1年程度でがんペプチドワクチンが膵がんに保険適用されるという可能性も大きくなっています。(がんペプチドワクチンの現状での私なりの評価は以前に書いています。現状ではあまり多大な期待は禁物という評価なのですが)それまではつらい副作用にも耐えてチャンスを待つ、これも立派な決断でしょう。

がんにならないために、あるいはがんを治療するために捧げた人生のようなものは実につまらない人生に違いない。世間では「がんと立派に最後まで闘って、他の患者に希望を残した」とか、「末期がんの患者を温かく見守った家族」というテレビドラマになるような「美談」が溢れていますが、そんなものはマスコミが稼ぐ道具にされているだけのこと。お涙ちょうだいの美談になんか金輪際するつもりのない私としては、茶長さんの「無治療」という選択も、よく考えた結果であるのなら大賛成です。「闘わない」という選択肢も立派な治療法でしょう。

そもそも「がんと闘って」いる患者はいるのでしょうか。いや、実際は闘っているのではなく「耐えている」のいうのが実情ではないでしょうか。副作用に耐えている、死の恐怖に耐えている。抗がん剤を投与して闘っているように見えますが、身体の中では正常細胞も同じように攻撃され、その副作用に「耐えている」のです。「死」と闘っているわけではないでしょう。そんな相手と闘っても負けるに決まっている。400万年の人類の歴史上、死と闘って勝ち残った者は一人もいません。「死」の恐怖に耐えている。負けるに決まった戦はしないというのは戦略の一番の基礎です。

ジェムザールが効かなかった患者がTS-1に変えたら劇的に効いたという例、休眠療法で膵がん再発後7年以上も元気だという例、あるいは死を納得して「もう結構です。治療はしません」と決めたら、とたんにがん細胞が消えてしまったという例。がんもいろいろです。一人ひとり違うから、統計データを見て判断するなんてことは難しい。統計はあくまでもある傾向を表わしているだけ。どうなるかは「やってみなければ分からない」これが本当のところでしょう。がんの治療方針を決めるのに、これから先は統計の大数の法則も、ベイズ理論も役には立ちません。同じ膵臓がんでさえ人によって様々に違うのだから、そもそも母集団が均一という統計の基礎が成り立っていない。ベイズ理論に基づく確率にしたって、私の生きる可能性を計算はするが確約してくれるわけではない。

ギャンブル的に一発逆転をねらうか(それで成功した例もいろいろな本に書かれています)、あえて無治療という選択をするか、標準治療でエビデンス通りの結果でよしとするか、その人の価値観と哲学、持っている情報の量と質に基づいて選択するしかないし、自分が選択した治療法が「最適」な治療法だといって良いと思います。(「最適」だったかどうかの検証のしようがない)

「がんばってください」という言葉はがん患者が一番聞きたくない言葉だといいます。「これ以上どうやってがんばるの?」といわれたら返す言葉がないでしょう。ですからルイ茶長さんにも「がんばれ」なんて脳天気なことはもうしません。ご自身の納得できる道を選んでください、とそれだけです。「ここまで来たら誰に遠慮なんかいるものか、好きなようにさせてくれ」で良いのです。でも、希望はまだあるのですから、それだけは忘れないようにしてください。

どういうふうに死ぬかということぐらいは自分で決めさせて欲しい。世の中余計なお節介が多すぎるように思うこのごろです。

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2009年12月17日 (木)

定期検査 2年6ヶ月経過

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今日は癌研での定期検査。術後2年6ヶ月になる。人身事故で電車が遅れて、検査の予約時間ににぎりぎりで間に合った。人身事故の半分はがん患者だという話をどこかで聞いた記憶がある。病気を苦にして、あるいは治療での経済的な悩みが原因だろうか。がん患者になれば医療費が生活を圧迫する。政治が変わっても庶民に恩恵が及ぶのはいつのことになるのやら。

造影CTの結果は「異常なし」。肝臓にも、残された膵頭部にもおかしな影はまったくなし。肝臓の写真なんかは、一定のコントラストできれいなものでした。腫瘍マーカの値も、CA19-9が21.8、CEAが4.1と、正常値の範囲に収まっている。転移するとすれば肝臓で、肝機能に関する数値に真っ先に異常が現われるはずだ。しかし肝機能も全て良好。血液検査の40項目の値全てが正常値の範囲内だから、この検査結果だけを見れば、他人はがん患者だとは思わないに違いない。私ほど健康な人間はいないんじゃなかろうか。がん細胞があるかも知れないけれど。

「生存期間中央値の2年3ヶ月はクリアですね。次は半年後にしましょう」と先生が言われる。「3ヶ月おきの血液検査はどうしましょうか?」と質問したら、「仮に再発しても、治療の開始が3ヶ月早かろうが遅かろうが、残りの生存期間に差はないというデータがあります」との回答。

全生存率(OS)には確かに差がないというエビデンスがある。しかし、それは再発後TS-1かジェムザールの標準治療をする場合という条件が付いているはずだ。がんとの共存を計ろうとする休眠療法や、免疫細胞療法を選択する時にも同じことが言えるかどうかは疑問だ。膵臓がんのダブリングタイム(体積=がん細胞数が2倍になる期間)は3~4週間だといわれている。他のがんに比べて格段に成長が早い。3ヶ月のあいだには8倍、6ヶ月なら64倍と、計算上はなる。このように考え、途中3ヶ月で念のため血液検査だけを入れていただくようお願いした。私は多分再発・転移したばあい、癌研での標準治療は選択しないだろうと思う。無治療という選択をするかもしれない。

AHP(階層化意志決定法)を使って、再発後はどの治療法を選択するかも考えて準備万端だったが、また役に立たなかった。これはこれでありがたいことだから、文句を言う筋合いではあるまい。寿命が半年延びたと思えば、感謝してもしすぎることはない。これから半年はがんのことなんかは忘れて、忘れることが難しければ一番最後に考えることにして、のんびりと暮らし、幸せを感じる時間を増やすことだ。

今夜は今年最後のチェロのレッスン日。ベートーベンの「御身を愛す Ich liebe dich」が今の練習曲だが、2番パートも初見で難なく弾けてしまう。確実に上達していることは間違いない。五十肩の影響かどうしても1ポジションで腕が下がり気味。音程が高くなりがちになる。カザルスの「鳥の歌」の楽譜を、ピアノ伴奏付きのCDで買ってある。少し弾いてみたが、私にも十分弾けそうだ。正月までにこれをマスターしよう。フォーレの「夢のあとに」だとか「リベルタンゴ」など弾きたい曲がたくさんある。バッハの無伴奏チェロ組曲も一曲ぐらいはマスターしたい。まだまだ死ぬのはもったいない。

2年半経って再発しなければアコースティックのチェロを買いたいと思っていた。さてその条件は満たしたが、あいにくと40万円のあてがない。樋口強氏は『最近、あなた笑えてますか』で、「欲しいものには妥協しない」と言っていたよなぁ。私ほどがん治療に金をかけていない患者も少数派だろうと思うが、さてどうしたものか。

2009年12月16日 (水)

中島梓と良寛の死

転移

中島梓(栗本薫)さんが5月に膵臓がんで亡くなっています。その最後の日記が『 転移』という本になり出版されています。

自分でも「記録魔」と言うくらいですから、しかも作家の本性でしょうか、毎日の食事のこと、演奏会のことや小説のことなど、闘病のあいだも精力的に生きている姿が書かれています。

日記の最後がすさまじいです。亡くなる数日前からパソコンでは打てなくなり手書きになっているのですが、最後の日、5月17日はパソコンに向かったらしく、このように記録されています。

Wshot200081

これを見た時、背中に電流が走るような感覚を覚えました。「まだ生きている」と書こうとしたのでしょうか。「まだ死にたくない」と書こうとしたのでしょうか。

私は彼女の小説はまったく読んだことがない。「グイン・サーガ」だとかあるらしいが、私の興味の対象外の作品だという印象だ。今回の『転移』が始めて読む彼女の作品だから、彼女の創作活動に関して何かを言う資格は、もちろんない。

癌は一般に死ぬ直前まで意識がはっきりしていると言われるが、本当にその状況が、苦しくて、だるくて、激痛ではないがずっと続く痛みが生きようとする意欲を萎えさせるということが、記録から伝わってくる。亡くなる数日前は、ご主人も癌で手術をするという苦境のさなかに命の火が消えていくのが、心残りだったに違いない。

読み始めた時は、「やっぱり私は贅沢が好きだ。きれいな場所、贅沢な場所、おいしいもの、きれいな着物、ちやほやされること、大事にされること、VIPとして扱われること・・・・そういうことがとても好きなのだ」という言葉に「違うんじゃない?」と感じたりした。経済的に苦しい状況でも高価な着物を衝動買いしたりすることにも呆れたりした。

しかし、最後の1ページを見た時、それらの全てを肯定的に捕らえ直すことができるような気がした。そう、ヒトそれぞれの人生だ。自分の価値観で必死に生きたことには違いあるまい。それでいいじゃないか、と思えるのだ。肝臓に転移した膵臓がんに「ガン太郎、ガン次郎、ガン三郎」という名前を付けて、「大きくならないでおとなしくしていてね」と語りかける彼女は、死ぬことを受け入れようとしながらも、やはり「生きたい、生きたい」と思い、最後に見た大崎の桜を来年も見ることを夢見ていた。

手毬 (新潮文庫)

瀬戸内寂聴の『手毬』は貞心尼を通してみた良寛を描いている。最後にこんな 一節がある。良寛さんは、たぶん大腸がんではなかったかといわれているが、その最期のときの描写である。

正月四日になって由之さまが見えられたときは、数日の間にまたげっそりと面変わりされたと愕かれていた。
由之さまと交代でお伽をしている時、私はさりげなく、
「お心にかかることはございませんか、御心持ちは如何でしょうか」
と申し上げた。良寛さまは薄目をあけて、真っ直私の目を捕らえ、
「死にとうない」
とつぶやかれた。聞きちがいかと、一瞬目を大きくしたが、その私の表情をごらんになって、うっすらと微笑され、
「死にとうない」
ともっとはっきりいわれた。
「こんなに優しい人たちに囲まれているのだもの、もっとこの娑婆にながらえたい気がする」
もはや薬も食事も自ら断たれているようなので、私も覚悟を決めていった。
「御時世は」
良寛さまは半分眠ったようなうつらうつらとした声音で、
「散る桜、残る桜も散る桜」
とつぶかかれ、そのまま引き込まれるようにすとんと眠りに入られた。理につきすぎて良寛さまらしくないお歌だった。やはり時世というのはまだ神経のしっかりしている時につくっておくのがいいのだろうか。

辞世の句は本当だが、死ぬ時に「死にとうない」といったかどうかは定かでない。しかし、良寛さんらしい言葉だと思う。

騰々(とうとう) 天真に任す
囊中(のうちゅう) 三升の米
炉辺 一束の薪
誰か問わん 迷悟の跡
何ぞ知らん 名利の塵
夜雨 草庵の裡
雙脚(そうきゃく) 等閑(とうかん)に伸ばす

中島梓と良寛、二人の最後のすがた。悟ったとか悟らないとか、そんなことはどうでも良い。優しい人に囲まれた楽しい人生をもっと堪能したい、ただそれだけだよ、と言っているようだ。中島梓も自分の仮想世界を描くことで、生きることを楽しんだ、そんな人生だったに違いない。

しかし、治療法についてはもっと考えても良かったのではないだろうか。TS-1で効果がなくなった後も投与を続けて副作用に苦しむことはなかったのではないか。ニューシティ・大崎クリニックでの高活性NK細胞療法という効かない(わずかの延命効果しかない)治療法を選ぶことが良かったのか。少量での抗がん剤でいわゆる「休眠療法」を選んだ方が遙かにQOLも良かったのではないか、などなど、明日は我が身かと考えると、このリアルな闘病日記は参考になります。

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2009年12月15日 (火)

芋焼酎「竜馬」

日曜日に、自宅である雑誌の取材を受けました。仕事ともガンとも関係のない雑誌の取材ですので内容は省きますが、編集者(インタビューア)の方とカメラマンが二人。私の出身地を書いた名刺を渡したら、カメラマンの方が「自分の親父も高知県の出身で、安芸市には親戚が住んでいます」という話になりました。ひとしきり写真の話題を交わしましたが、スペインに一週間ほど行ってガウディを撮りまくったとうらやましい話。写真集か個展を考えているということでした。

後で彼の名詞を確認すると「川谷」と書かれています。聞くのを忘れましたが、川谷拓三と血の繋がりがあるのか、顔つきが似ていました。(川谷拓三の本名は仁科だから、これは私の思い違い) 「葬儀用のいい写真がないから、後でメールで送付してください」と頼んでおきました。プロの写真家に撮ってもらっておけば、遺影に関しては準備万端です。すぐに使う予定もそのつもりもありませんが、5年先ならまだこの写真が十分使えて役に立つかもしれません。

(このブログを見た高校時代の同窓生が川谷拓三さんの近くに住んでいたことがあり、彼女から「川谷拓三さんは本名です。仁科は奥さんの苗字だと思います。私の実家の近所に住んでいまして、妹さんとは遊んだこともあります。拓三さんのお父さんは若いころ映画界で働いていたカメラマンだったということも聞いています。拓三さんのお兄さんは自作の映画も作っていたと聞いたこともあります。だから訪ねた方は血縁関係があるかもしれません。拓三さんは兄弟が多かったですし。」というメールをいただきました。すると、もしかしてカメラマンの方は拓三さんの血縁のある方かもしれません。

近くの酒屋に行って「変わった焼酎はないですか」といWshot00075うと、これどうですか、と「竜馬」を出し てくれました。安芸市の菊水酒造の芋焼酎で、500ミリリットルが1000円でした。写真のラベルの筆跡は坂本竜馬の自筆署名だとか。竜馬は良寛のような細い筆遣いですかね。もらって帰って早速晩酌に一杯。「竜馬」はまろやかでいい香りの焼酎でした。医者からは醸造酒よりも蒸留酒にしておきなさい、ただし、ほどほどに、と言われているのですが、それを都合良く解釈して毎晩飲んでいます。ワインと日本酒は飲んだあと気分が良くありません。やはり醸造酒は膵臓のない者には合わないのかもしれん。医者の言うとおりですね。まだ日本酒の方は、お燗すれば影響がない気がします。まぁ、焼酎とウイスキーなら体調も悪くならないし、自分の身体だし、誰に遠慮が要るものか、これもQOLだ、文句があっても、誰もあの世までは追いかけてこないだろう。と開き直っている。

最近どういう風の吹き回しか、田舎に関する出来事が多いようです。同窓会も続いていますし。NHKの大河ドラマの影響でしょうか、坂本竜馬や岩崎弥太郎が人気です。「坂の上の雲」を大宣伝していますが、私は観る気がしません。司馬遼太郎が映画化に反対していたという作品です。反対の理由は軍国主義を美化して描かれる畏れがあるということで、彼の遺言でした。

月島慕情 (文春文庫)

トイレにおいてあった浅田次郎の『月島慕情』を読み終えた。トイレにはこんな文庫本の短編小説集がよい。ちょっと長居をする時にページを開いてみて、前回の続きを読むというのも風流だ。長編小説だとか難しい哲学だとかは似合わない。シューシャインボーイ、雪鰻、めぐりあい、どれも時代は昭和初期の古き良き時代を彷彿とさせるような短編。浅田ワールドはトイレに限る? 風呂には「おふろで読む文庫」を置きたいのですが、1冊1050円で名作が100冊でている。それが価格改定で1冊525円、半額になっている。中原中也詩集だとかガリバー旅行記などがあり、気にかかっている。風呂で身体をゆっくりと温めて好きな本を読む、こんな幸せはないだろうなぁ。体温を上げれば免疫力が高くなり、どんな病気も治る、という風な本が、このごろ本屋にいくつも並んでいて驚いた。
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2009年12月14日 (月)

最近、あなた笑えてますか

最近、あなた笑えてますか

樋口強さんが肺がんを告知されたのが1996年、43歳の時。膵がんに負けず劣らずの最強といわれる肺小細胞がんである。3年生存率5%、5年生存率・・・・データがない。13年経った今、「生きてるだけで金メダル」だという。大量の抗がん剤治療を選択して一命を取り留めたが、副作用で全身がしびれた状態が今でも続いている。

全日本社会人落語協会副会長でもある樋口さんは、「笑いは最高の抗がん剤」だともいう。そして一年に一回、がん患者とその家族だけが参加できる「いのちに感謝の独演会」を東京は深川で開催している。

樋口強さんのオフィシャルウェブはこちら

『最近、あなた笑えてますか』には付録CDに、昨年の独演会で演じた「病院日記:一診一笑」 が納められています。早速モバイルオーディオに入れて歩きながらの通勤で聴いてみた。にやにやしながら歩いている私を見た人は不審に思ったに違いないでしょうね。

明日が来るのは当たり前、手帳にスケジュールを書き込みことに何のためらいもない。来年がやってくることは疑わない。これが普通の人です。

ところががんという病気に出会うと、このことが当たり前ではなくなります。明日という日の確かな保証がなくなります。そういう気持ちになるのです。

ここから、自分に一番大切なものって何だろう、って考え始めます。すると、この「変わらないことやもの」がとても愛おしく見えてきます。かけがえのない宝物のように輝いて見えます。

だから、「お変わりありませんか---」で高座を始めるのです。一年に一度というのも理由があります。がんに負けずに、来年もまたきっと来ようね、という希望につながることを願っているのですね。

生きるはずのないがんを乗り越えて、いのちの喜びを知った人たちは、再発や転移の時限爆弾を抱えながらも自分流に二つ目のいのちを楽しんでいます。

生きることに肩の力が抜けて空に突き抜けるような笑顔があります。こんな人たちこそ、「健康ないのちを生きている」っていうんでしょうね。

笑える本ですが、それだけではないんです。飼い猫のピーちゃんの生き様を見習いながら、がん患者もそのように生きよというのですね。「いのちを心豊かに、そして伸びやかに生きるための極意」です。

  • 欲しいものには妥協しない
  • 明日よりも今日
  • 論理よりも直感を信じなさい
  • 居場所を確保せよ
  • 自分に正直であれ
  • 自分の力を信じなさい

がん患者ですから、いのちは惜しいです。再発・転移は何とか自分を避けていって欲しい、と痛切に思います。でも、じゃ、再発・転移しないで生きながらえたあなたは、その命で何をしたいの?と問われると、即答できる人は少ないのではないでしょうか。

1年生きて何をしたいのですか、5年生きて何をしたいのですか?ただただ、死にたくない、というだけですか。がんであろうがなかろうが、いのちを楽しく生きませんか、という本です。CDに納められた「一診一笑」も笑えます。

私も今このブログ、古今亭志ん生の十八番「火焔太鼓」を聴きながら書いています。落語に始めて大笑いしたのは小学生のころでした。今でも覚えています。「平林」という前座話。平林という医者のとこへ使いに行く定吉、読み方を忘れてしまう。道行く人に訊くのだが、みんな違うことを教えるのですね。全部まとめて節を付けて、「タイラバヤシか、ヒラリンか、イチハチジュウノモークモク、ヒトツトヤッツデトッキッキ」。「トッキッキ」は上げ調子で読んでくださいね。下げは忘れましたが、この部分は今でも覚えています。この落語にはお腹が痛くなるほど笑った記憶があります。”寿限無、寿限無、五劫の擦り切れ、海砂利水魚の水行末 雲来末 風来末・・・・・・”も覚えてますが、長くなるので止めておきましょう。

年末にはスーさん、浜さんの「釣りバカ日誌」があります。残念ですが今年で最期だそうです。前回の釣りバカ日誌も涙が出るほど笑っちゃいました。今年も笑いすぎてがんが消えるほどに笑ってきます。来年9月は「いのちに感謝の独演会」です。それまで「お変わりなく」過ごしたいものです。

インターネット落語会もユーチューブに移動しています。


生きてるだけで金メダル 生きてるだけで金メダル
樋口 強

つかむ勇気 手放す勇気 いのちの落語―がんになって初めてわかった家族を愛すること、あたりまえの日常の大切さ 最近、あなた笑えてますか 笑いの医力 (think book) がん患者学〈1〉長期生存患者たちに学ぶ (中公文庫)

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2009年12月13日 (日)

がん患者のためのインターネット活用術 (12)

がん患者のためのインターネット活用術 2017年 第2版: 私はこれで膵臓がんを克服した ネットの情報はすぐに古くなります。Kindle本『がん患者のためのインターネット活用術 2017年 第2版: 私はこれで膵臓がんを克服した』では最新の情報に書き直して出版しています。


前回の続きです。

4個の一対比較表ができました。この一対比較表を行列と見なしたとき、行列の固有ベクトル(正確には最大固有値に対する正規化した固有ベクトル)が、目的に対する”重み(重要度)”となります。固有ベクトルの計算は、『Excelで学ぶAHP入門』の著者、中島信之さんがウェブ上に公開されているので、それを利用します。

中島信之さんの「AHP」計算ウェブ

このページにはAHPの利用法なども紹介されていますので興味のある方はご覧ください。

「AHP」ページの「AHP Web(CGIを使ったAHPの重要度計算ソフトウェア)」が固有値計算のページです。

Wshot00063

■評価基準の重要度計算

評価基準は3個ですから、行数・列数に「3」を入力し、「一対比較行列の入力」ボタンをクリックします。

Wshot00064

ここに、用意しておいた(下の)評価基準の一対比較表の値を入力していきます。

Wshot00061

実際には表の右上半分だけ入力すれば、左下の値は自動的に計算してくれます。

Wshot00065_2

値を入力すれば、左のようになります。

「重要度の計算」ボタンをクリックします。

*

*

*

*

Wshot00066 計算結果が出ます。

評価基準のそれぞれの重要度が、

費用:0.0639
QOL:0.7438
生存期間:0.1923

となりました。

これをExcelのシートにコピーしておきましょう。

コピーするにはテキストファイルと書かれた部分をクリックします。テキストファイルの利用法の説明も参照してください。

*

*

*

*

■代替案の重要度を計算する

次に評価基準から見た代替案の重要度を計算します。表は前回表示していますから、ここでは省略します。

1. 「費用」から代替案を評価した重要度

Wshot00067

2. 「QOL」から代替案を評価した重要度

Wshot00068

3. 「生存期間」から代替案を評価した重要度

Wshot00069

整合度(C.I.)は一般に0.15以下が望ましいといわれています。これ以上になった場合、一対比較値を見直した方がよいようです。0.15以上になっていますが、今回はこのまま計算を続けます。

見やすくExcelの表としてまとめました。

Wshot00070

■総合評価値の計算

あとは重要度どうしをかけて、その総和を求めるだけです。上の表の色分けした部分(重要度)を、下の同じ色の部分のコピーします。

Wshot00071

次に、(評価基準の)重要度を代替案毎の重要度にかけ算していきます。(積和を計算)

代替案の横の総和が「総合評価値」になります。Excelの計算式で表示するとこんな感じです。

Wshot00073

■治療法の評価

さて、結果が出ました。再発したら治療なんかはしない、無治療が一番の選択肢という結果です。QOLを重視したためだと思われますが、C.I.(整合度)が幾分大きいので、再度評価値を見直した方が良さそうです。

しかし、この結果でもある程度の考えをまとめることができます。

  1. がんペプチドワクチン療法は白血球の型が合わない限り治験に参加できないのですから、型が合わなければ選択肢とはなり得ない。
  2. 同様に免疫細胞療法は、高額な治療費を用意できなければ選択肢にはなり得ない。
  3. 標準治療は、ほとんど考慮の余地なく、私の選択肢にはなり得ない。
  4. となると、残されたのは「休眠療法」と「無治療」です。

1と2も、再発が確定した時点で一応チャレンジはしてみますが、現状では治験に参加できるかどうかは50%程度の確率でしょう。2は金が工面できるかどうかという現実的な問題です。年末ジャンボに当選すれば問題はないのですが。

説明すると難しそうですが、やって見れば意外と簡単です。AHP法、がんと闘う戦略に迷ったら試してみてはいかがでしょうか。

以上の例はAHPを説明するための仮定です。多くの部分は私の価値観に基づいていますが、結果が私の治療法の選択肢だということでもないし、何らかの治療法を推奨しているわけでもないことをご承知ください。

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2009年12月12日 (土)

がん患者のためのインターネット活用術 (11)

がん患者のためのインターネット活用術 2017年 第2版: 私はこれで膵臓がんを克服した ネットの情報はすぐに古くなります。Kindle本『がん患者のためのインターネット活用術 2017年 第2版: 私はこれで膵臓がんを克服した』では最新の情報に書き直して出版しています。


来週は癌研での定期検査:造影CTがあります。手術後2年半の検査です。いつものことですが、術後の定期検査の前は少々不安になります。「統計的にいえば、手術可能だった膵がん患者の9割は再発・転移する」というデータが脳裏をかすめるわけです。「もうそろそろかな?」という予感を持って診察に臨むのですが、幸い、これまではその予感ははずれきました。

再発・転移という状況が、いつ自分に起きてもおかしくはないわけで、そうなると、さて再発後の治療方針を考えておかねばなりません。診察室で慌てないためにもね。

そのためには、取り得る治療方針としてどのようなものがあるのかを列挙し、それぞれの効果あるいは有効性、副作用の程度とQOL、経済的負担などの要因を考慮して、いくつかの選択肢から自分にとって最適の治療法を選ぶということになります。しかし、人間の思考は、こうしたとき堂々巡りをしがちです。あれこれと迷ってなかなか意志決定ができない。「Aは効果がありそうだけど、治療費が高くて負担が心配」。「Bはある程度有効だというデータはあるが、副作用がひどそうだ」「CはQOLは良さそうだが、果たして私のがんに有効だろうか」などなどです。

Excelで学ぶAHP入門―問題解決のための階層分析法

AHP(階層化意志決定法)を使って再発後の治療方針を考える

このような、いくつかの候補から選択したり、順位付けする必要がある場合に有効な手法の一つとしてAHP(Analytic Hierarchy Process)があります。「階層化意志決定法」と訳されています。一般に、評価基準は複数あり、しかもすべての基準を同時に満たす決定ができることは希です。(金もかからず確実にがんが治り、しかも副作用がない治療法があるのなら、AHP等使う必要がなく、あれこれ考える必要すらない) こうしたとき、どの評価基準をどれだけ重視するかなどを、「一対比較法」と呼ばれる測定法を援用して、質問に対する答えから計算で数値化し、その重み付けした評価基準と代替案の評価から最適な優先順位の決定を行おうというのがAHPです。トーマス・サーティが開発した手法で、1996年12月17日のペルー日本大使公邸の人質事件の解決にも応用されたといわれています。

孫子の兵法の数学モデル―最適戦略を探る意思決定法AHP (ブルーバックス)

この手法の特徴は、あいまいな情報をもとに、評価者の感性や好み・価値観という数量化が困難な定性的な要素を定量的に扱うことが可能であること。しかも手順が比較的わかりやすく、ステップ毎に単純化して判断して いけば、数学的に合理的な結果が得られるというハイブリッドな点です。

計算の過程では、行列の固有値や固有ベクトルの計算が必要ですが、それはインターネットの計算サイトを利用すればよいし、数学的な理論や手法の難しいことは分からなくても、とりあえず手順を踏んでやっていけばきちんとした答えが出ます。ですから、数学的な説明や計算方法などは省いて、具体的な問題で説明します。より詳しく数学的に知りたいとか、興味のある方は右の書籍を参照してください。

孫子の兵法の数学モデル 実践篇―意思決定支援ソフトAHPがすぐ使える (ブルーバックス)

以下の例はAHPを説明するための仮定です。多くの部分は私の価値観に基づいていますが、結果が私の治療法の選択肢だということでもないし、何らかの治療法を推奨しているわけでもないことをご承知ください。

■解決すべき問題(目的)
私の膵臓がんが再発したとき、どのような治療法を、どのような選択順位で選べばよいか。

■評価基準

  1. 費用
  2. QOL
    副作用だけでなく、治療を続けながら働くことができるか、家族との楽しい団欒が持てるか、好きな旅行に行けるのかといったこと。もちろん人それぞれに内容は違う。
  3. 生存期間
    腫瘍縮小効果とかも基準となりうるが、がんが大きくなるか小さくなるかではなく、患者としては何年生きられるのか、が切実な問題です。

■代替案
治療法のことです。例として次の5つを挙げましたが、「私は食事療法で治すのだ」とか「枇杷の葉温灸で直すのだ」、あるいは「ゲルソン療法もやってみようか」という人は、それらが代替案に含まれるということになります。どのような代替案を用意するかは、結局その人がどれだけの情報を持っているかということと、その人の価値観に依存します。

  1. がんペプチドワクチン療法
    中村祐輔教授らのペプチドワクチン。阪大・久留米大のWT-1も可能性としてはあり。
  2. 免疫細胞療法
    一般にNK細胞療法といわれる様々な治療法の中で、私が比較的信頼できると思っているものを想定しています。
  3. 休眠療法
    いわゆる少量の抗がん剤を使ってがんとの共存を図るという治療法です。治すのではなく、引き分けに持ち込んで天寿を全うすることを目指すということ。
  4. 標準治療
    膵がんの場合、ジェムザールもしくはTS-1を標準量投与する。エビデンスに基づいた延命効果が得られ、生存期間中央値が数ヶ月延びる。
  5. 無治療
    緩和ケアだけで、積極的な治療はしない。

■階層構造を書く
上に挙げた内容を階層構造に書いてみます。下のように目的と評価基準、代替案が決まりました。

Wshot00058

■一対比較値

一対比較値は次のように決めます。AがBより少し良いなら「3」というふうに決めておきます。(これがAHPでの一般的な値です)

副詞 一対比較値
同じくらい 1
少し 3
かなり 5
大いに 7
圧倒的に 9

■評価基準の一対比較表をつくる
評価基準の費用・QOL・生存期間について、評価基準どうしでの一対比較用アンケートを作成します。自分の価値観に基づいた値を決めるのです。右が重要なときは値が分数になっています。

<アンケート>

Wshot00059

私の価値観では、少々費用がかかってもQOLが「かなり」重要であり、費用がかかっても生存期間が長い方が良いに決まっているが、さりとて家族の生活を脅かすほどにはお金は使えないということです。そして副作用があって何もできずにただ生きているという状態なら、そんな延命には意味がないと考えています。従ってQOLは生存期間に対して「圧倒的に重要」だということです。もちろんこの値は人それぞれです。とにかく生きていさえすればあとは何にも問わないという考え方も有り得ます。そういうひとは「生存期間がQOLよりも圧倒的に重要」という欄に○を入れることになります。

これをもとに一対比較表をつくります。慣れてくれば「アンケート」なしで一対比較表に入力できます。

<評価基準の一対比較表>

Wshot00061

費用とQOLでは1/5という値です。アンケートと評価基準の一対比較表では水色のセルどうしが対応しています。そして、対象の位置にあるセル(黄色のセル) には逆数が入ります。

■評価基準ごとの代替案に対する一対比較表をつくる

次に「費用」という評価基準から見た各代替案の一対比較を行ないます。このとき大事なのは、途中で基準を変えないということです。「費用は安い方がよい」として代替案の評価を始めたが、途中で「免疫細胞療法は効果がありそうだから高くても仕方ないよなぁ」などという評価をしてはいけないということです。

「費用」の基準では、「無治療と休眠療法はどちらが安いか?」のように、他の評価基準は無視して評価していきます。

Wshot00062

これで一対比較表の作成は終わりです。あとは行列の固有値などを計算するのですが、インターネットのそうしたサイトを使えば数学な知識は必要ありません。安心してください。

一対比較表を作成するには、それぞれの治療法についての知識が必要だということが分かります。どれにどれくらいの費用がかかるのか? その治療法ではどの程度の副作用があるのか、AとBではどちらが生存期間が長いのか? でも統計データのない場合もあります。医療機関が宣伝のためにいう生存期間を信用していいのかどうかも分かりませんね。『がんとの闘いは情報戦である』と、やはりここでも言えます。AHPのよいところは、いい加減でも良いということです。えい!やっ!で決めてもまぁまぁ妥当な結果が出るものです。ものは試しにやってみてください。

長くなりました。続きは次回に・・・・

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2009年12月 9日 (水)

久留米大学ペプチドワクチン 開発中止か?

P1000884


【追加情報】

2009年12月10日

受け付け可能ながんのステージを拡大しました(その他のがん種でも相談可)。

申込必要書類を追加しました(血液検査詳細情報)。

と久留米大のペプチドワクチン事務局の更新情報に表示されています。
大学独自の治験はこれまで通りということのようです。

久留米大学先端がん治療研究センターの山田亮教授よりコメントをいただいたように、12月25日の閣議で復活し、22年度以降も継続することが決定したそうです。


読売オンラインによれば、久留米大学のがんペプチドワクチン療法が中止になりそうです。政府の事業仕分けにより「ムダ」だと認定されたとことによります。読売オンラインでは下のように報道されていますが、「久留米大学ペプチドワクチン事務局」のホームページには現在までそれに関するお知らせなどは記載されていません。

「がん研究が無駄とは…」事業仕分けで「廃止」 久留米大の臨床試験中止に

2010年度政府予算の事業仕分けで、「廃止」や「予算縮減」が相次いだ科学技術分野。久留米大(福岡県久留米市)が中心となって取り組むがんワクチン研究も「廃止」とされ、波紋が広がっている。今月始める予定だった臨床試験は「見通しが立たない」として中止になった。年末に予定される予算編成で「復活」はあるのか。関係者は注視している。

今月4日、久留米大病院。前立腺がんを患う佐賀県内の男性(70)の太ももに、看護師が「がんペプチドワクチン」を注射した。免疫細胞を活性化し、がん細胞を攻撃させる狙いがあり、抗がん剤や放射線治療に比べ副作用は弱いとされる。

がん細胞表面にある「ペプチド」と呼ばれるアミノ酸結合物と、同じタイプのワクチンを接種する仕組み。久留米大は患者の免疫細胞の性質に合わせ、最も効果的なものを接種する方法を確立、2005年、前立腺がんなどのワクチンの実用化に向け治験が始まった。

医薬品として承認されていないため、公的医療保険は適用されず、1回の治療(6回接種)で約60万円かかるが全国から患者が訪れる。男性は「副作用がほとんどなくありがたい」。だが「廃止」の動きに、「研究が進めば、保険を使って多くのがん患者が接種を受けられるようになるのに……」と漏らした。

今回廃止とされたのは、肺がん、ぼうこうがん、肝臓がんのワクチンの効果を検証する共同研究。新産業創出を目指す文部科学省の「知的クラスター創成事業」に採択された。今年度から5年間、毎年3億円の補助金を受ける予定で、久留米大など全国の約20大学で今月、患者約300人に接種を始めることにしていた。

ところが、知的クラスター創成事業は、事業仕分けで「廃止」とされた。「経済産業省の分野ではないか」「規模が小さく成果が生まれない」。仕分け人は研究の中身に踏み込まず、事業の枠組みなどを問題視した。

前立腺がんの治験は継続されるが、肺がんなどのワクチン研究が宙に浮く形になった。ワクチン開発は各国がしのぎを削っており、久留米大の山田亮教授(がん免疫学)は「先に特許を取られれば、計画は頓挫する。研究の停滞は致命的だ。国民の2人に1人ががんになる時代に、無駄と判定されるとは」と嘆いた。

事業仕分けでは、「都市エリア産学官連携促進事業」も「廃止」。九州保健福祉大(宮崎県延岡市)などが取り組む認知症予防の研究は、この事業の補助金を受けていた。チョウザメに豊富なアミノ酸結合物「カルノシン」に予防効果があることを突き止めており、企業と連携し健康食品などへの応用を探る予定だった。

両事業は地方の科学技術振興を目的とし、全国43地域で最先端の研究が進む。「廃止」への反発は強く、33道府県知事が先月30日、緊急共同声明を発表。文科省には、研究者らから廃止への反対意見が500件以上寄せられているという。

宮崎県工業支援課の担当者は「県内は中小企業ばかりで、自前の研究開発は難しい。国の支援がなければ、地方はますます衰退してしまう」と訴えている。

閣僚からも異論

各省庁による概算要求の中から無駄を洗い出す事業仕分けで、科学技術予算は幅広い分野で厳しい評価を受けた。次世代スーパーコンピューター開発予算(概算要求268億円)は「事実上の凍結」。文部科学省には、抗議などのメールが800件以上届き、閣僚からも異論が出た。

官民共同の中型ロケット「GX」エンジン研究開発(同58億円)は「予算計上見送り」、若手研究者の育成に充てる競争的資金(同626億円)は「予算縮減」。要求通り認められたのは国際熱核融合実験炉(ITER)の研究開発(同33億円)だけだった。(2009年12月7日  読売新聞)

一方で、朝日新聞福岡版にはこんな記事もアップされています。

がんワクチン学べ

2009年12月08日

 ■久留米大講座に医師ら
 久留米大学医学部が中心となって研究を進めているがんペプチドワクチン療法を全国の医師らが学ぶ「がんワクチン開発人材育成講座」が7日、久留米市旭町の同大学で始まった=写真。

 同療法では、がん細胞の表面にある特有のペプチド(分子)を患者ごとに特定。ワクチンとして患者に投与すると、免疫細胞がこのペプチドを覚えて攻撃を始め、同じペプチドを持つがん細胞も集中的に攻撃させることができる。患者の免疫力を高めてがん細胞のみを攻撃するため、抗がん剤や放射線治療より副作用が少ないとされる。

 同大学では患者ごとに最適のワクチンを投与する「テーラーメード型」の治療法の確立を目指しており、今年4月に全国初の「がんワクチン外来」を設置した。

 講座には岡山大学や弘前大学などの医師や看護師、研究者約10人が参加。この日は開講式の後、さっそく久留米大学の教授らがワクチン療法について説明し、研究室を案内した。講座は11日までで、治療を見学する研修もある。同大学の先端癌(がん)治療研究センターの山田亮所長は「この機会を利用して知識をそれぞれの施設に持ち帰り、ワクチン療法の開発に生かしてもらいたい」と話した。

 同大学を中心に、県や久留米市、民間企業が共同でワクチン療法について研究する事業は今年7月、文部科学省の「知的クラスター創成事業」に採択され、年間約3億円の委託費が5年間支給されることになっていた。ただ、先月の行政刷新会議の事業仕分けでは「廃止」とされたことから、山田所長は「新薬を待ち望んでいる人に一日も早く薬が届くように研究している。ぜひとも事業を継続させてほしい」と話している。

「知的クラスター創成事業」は中止になるが、大学独自の治験はこれまで通り行なっていくということなのでしょうか。詳しいことが分かりませんが、がんワクチンに期待している患者は多いはずです。こんな事業も「廃止」するという「事業仕分け」とは何なんでしょうか?

がん患者としては民社党の「事業仕分け」に大いに疑問を持っているところです。

何よりも「ムダ」を削ると言いながら、最大のムダである5兆円の軍事費は聖域扱いであること。米軍への思いやり予算の削減がニュースになっていたが、日本人従業員の給与関係のほんの一部であり、大本には手を着けようとしないこと、それに反して「生活が第一」という選挙公約とは裏腹に、生活関連予算にはばっさばっさと大鉈を振るっていること。

選任された民間有識者?といわれるメンバー一覧を行政刷新会議のWebから見てみればその方向性が分かろうというものです。これは小泉流の構造改革路線の復活であり、「小さな政府」路線の復活になるのは当然でしょう。行政刷新会議事務局長の加藤秀樹が選任された時点で、こうなることは予想されてしかるべきでした。小泉改革時代の「聖域なき構造改革」(実際は軍事費は聖域であり、ターゲットは我々の生活・命を削ることであることは、上のニュースを見れば明らかです)を形を変えて遂行すること。つまり、新自由主義者による政府予算の支配であり、新自由主義の原理を一層押し進めようとするのが事業仕分けに他ならないのです。

マスコミは「事業仕分け」に対して、始めてオープンになった、さも画期的な政策であるかのように報道してきましたが、その本質がはっきりしてきたということでしょう。

2009年12月 5日 (土)

がん哲学

「がん哲学」という聞き慣れない言葉を最近知った。順天堂大学医学部教授、 樋野興夫氏の造語だという。

先日放映されたNHKスペシャル『立花隆 思索ドキュメント がん 生と死の謎に挑む』の冒頭に立花隆の膀胱がんを説明する病理医として登場していました。

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「がん哲学外来」とは何ですか、との問いに、樋野氏は「偉大なるお節介」だと答える。がん患者が自分のがんについて安心して話せる場がない。家族や友人がいても、お互いに気を遣って病気の話題はあえて避けることが多い。一番の相談相手は主治医であるべきだが、主治医が忙しいのは患者もよく分かっている。運悪く相性の合わない主治医に当たると、悩みを聞いてもらうどころか、主治医との関係そのものが悩みの種になっていることもある。がん患者、徳に末期のがん患者が抱える悩みは病人としての悩みではなく人間としての悩みではないだろうか。がんという大病を得たとき、それを背負って人間としてどう生きるのかという深い悩みに違いない。それはホスピスや終末医療で言う「心のケア」というレベルではなく、自分という人間の存在全てを問う領域であろう、との考えで、試験的に「がん哲学外来」を始めたそうだ。多分閑古鳥が鳴くような状況になるだろうと予想していたのが、思いもかけず予約が一杯で、申し込みを断わらざるを得ないほどの盛況だった。がん患者の多くが「人間としてどう生きるべきか」という問に深く関心を抱いていることを改めて認識したと言う。

そうだろうと思う。がんと告知されたら病状や予後の重い軽いに関係なく、自分のこれまでの人生やこれからの時間、妻子などのことを考えない患者はあるまい。身近に迫った「死」までの時間がカウントできるようになる。明日も今日と同じように続くことが当然であったものが、近い将来にはそうはならなくなるということに気づいて愕然とする。

主に末期がんの患者に、樋野先生が「がん哲学外来」で話した言葉のいくつかを紹介する。

人生いばらの道、にもかかわらず宴会
病気であっても人生を楽しむことはできるんだ。このブログでも同じような言葉を書いたことがある。「将来は悲観的に、現在は楽観的に

人間死ぬのは確実、いつ死ぬかは確率
人は100%死ぬのです。しかし、いつ死ぬかは誰にも分からない。余命宣告など当たったためしがない。

あいまいなことはあいまいに考える
腫瘍マーカーの数値に振り回されない。世の中の測定値には必ず測定誤差がつきまとう。誤差の範囲もあれば、測定ミスだってある。エビデンスといったって、統計的に処理して始めて何らかの違いが分かる程度のもの。逆に言えばほとんど違いがないものを説得するために統計的手法が存在する。誰が見たって一目瞭然でAよりもBの治療法が優れているのであれば、二重盲検法や統計的手法など必要ない。だから、あいまいにしか分からないことに対してはあいまいに考えておけばよい。

「今日が人生最後の日」と思って「今」を生きる
死を考え、未来のことをあれこれ思い悩むのは人間だけ。犬や猫を見てごらん。目下の大事、えさをねだる。おいしいものを夢中で食べる。寝るときは誰に遠慮もしない。何とも幸福そうではないか。花や草は明日台風が来るだろうかと気をもんだりはしない。そのときはそのとき。だめなら散ればよいという潔さがある。
それに、今日が人生最後の人思えば、明日再発・転移するかしないかなんて問題にならない。

がんを忘れて生きなさい
そうそう、その通り。私も普段はすっかりがんのことなんかは忘れている。忘れろなんて簡単に言うな! という人は、夢中になれることを探せばよい。無我夢中に何かをやっているときにはがんのことなんかは忘れているはずだ。そしてその時間は至福の時間であるはずだ。結局人生の目的とは、金でも地位でも名誉でもなく、幸福を体験することだと思うがいかがだろう。がんについて考えるのは、最後でいい。

2冊の著作を読んで、我が意を得たりとひざを打つような内容だった。しかし、私の考えは樋野先生とは少し違う。樋野先生は、治癒が難しいがん患者を対象にして、いずれ死を迎えることを前提に考えている。私は、治癒が難しいと予想される(多分再発するだろうと思っている)膵臓がんであっても、治すために「哲学」が必要だと考えている。ここに大きな違いがある。治らないと思われるがんであるなら、なおさらがんを哲学的に考えることが必要だと思う。命とは何か、なぜ死なねばならないのか、死とは何か、生とは何か。こうしたことへの答えを用意する。もちろん答えはすぐには見つからない。生涯見つからないかも知れない。しかし、過去の偉大なる先人に先導されながら考えてみる。自分の命の価値を計り直してみる。そして心平安にがんとつきあう、あるいは闘う。がん治癒への道、がんサバイバーへの道を探し当てるには、がんとの哲学的な付き合いがなくてはならないと思う。そうすることが、結局は心を平安にし、免疫力を高めてがん細胞との闘いを有利に進めることが可能となるはずだし、そのように生きてきた。

このブログでは恥ずかしげもなく良寛や兼行や道元のことを書いてきた。セネカや老子を読んできた。複雑系生物科学や宇宙の成り立ちやリーマン予想と素数について書いてきた。なぜなら、これらの全てが、私が哲学的にがんと人生を考えるために必要だったからだ。「死」を受け入れ、がんとの折り合いを付けるためには、先人の知恵を借りるのが近道だからである。

がん哲学外来入門 がん哲学外来入門
樋野 興夫

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2009年12月 1日 (火)

立花隆の『思索ドキュメント がん 生と死の謎に挑む』

1週間前の放映であるが、NHKスペシャル『立花隆 思索ドキュメント がん 生と死の謎に挑む』でこんなシーンがあった。立花隆が一昨年に膀胱がんを告知され、NHKはその手術の様子や治療の経過を密着して追ってきた。(立花隆のたくましさには頭が下がる) その映像の中で、立花隆が幾種類ものサプリメントを服用しているシーンである。「たくさんの方が、これがいい、あれがいいとサプリメントを送ってくるので、義理で飲んでいるんだよ」と言っていた。勧める方は善意のつもりで送っているのだろうが、それを義理ででも飲んでいると言うから呆れてしまった。

番組の内容は、さすがはNHK、よく取材している。民放の「これでがんが治る」というワイドショー的な番組とは大違いだ。がんの狡猾さ、治癒の難しさはよく分かった。しかし、それでもどうすればがんを治すことが可能なのか。その一端でも触れてほしかったが、立花隆では期待する方が無理か。タイトルは「思索ドキュメント」だが、立花隆の思索パターンでは、多分自分の膀胱がんも治せまい。

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それは別にして、番組の内容は一部興味のあるものだった。がん細胞が転移や浸潤をするとき、人間が進化の過程で獲得してきた能力を活用しているというのである。

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例えばHIF-1という遺伝子。がん細胞は分裂して大きくなるに従い、その中心部には十分に酸素が行き渡らず、低酸素状態になる。しかし低酸素状態でも細胞が生きていけるようになるのがHIF-1(低酸素誘導因子)である。HIF-1はVEGF、bFGF他40以上の血管新生促進因子の産生スイッチを入れる『マスタースイッチ』である。だからHIF-1をブロックしてやれば、がん細胞は死ぬはずである。膵がんのがんペプチドワクチンがVEGF2をターゲットにしているのとは比べものにならないほど強力なブロックになるはずだ。しかし、実はHIF-1は生物が胎児のころに重要な役割を果たしている。胎児の細胞がまだ低酸素状態の時にHIF-1が重要な働きをしているのである。HIF-1をブロックした胎児マウスは正常に出産することができないで、死んでしまうのである。

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『がん細胞が低酸素の環境でも生きのびる能力を持っているのは、生命進化の大いなる記憶によるものである。』

がんに効く生活―克服した医師の自分でできる「統合医療」

また、がん細胞は人体の治癒メカニズムを悪用し、自らの成長を支えるため、炎症を引き起こそうとする。これに関しては、私がよく引用する『がんに効く生活』に詳しいから、長くなるが引用してみる。

近代病理学の父と言われるウィルヒョーは1863年、殴られた場所や靴や 仕事の道具などで繰り返し摩擦された部位にがんができた患者が何人もいることに気づいた。顕微鏡で見るとそれらのがん性腫瘍の中に大量の白血球が認められた。そこで彼は、がんは悪化した傷口を治そうとした試みの結果なのではないかという仮説を発表した。しかし、彼の理論は現実離れしたものだと、理解されなかった。

約120年後の1986年、ハーバード大学医学部の病理学教授ハロルド・ドヴォルザークは、この仮説を見直し、説得力のある論拠を掲げた。「腫瘍:癒えない傷」というタイトルの論文の中で、彼は、傷の修復に必要な炎症によって働くメカニズムと、がんの形成過程には驚くべき類似点があることを証明している。

この革新的な論文が発表されてから20年経ったが、がん専門医のあいだでは見過ごされがちだった炎症の研究に関する報告書が、ようやく国立がん研究所によって発表され、がんの成長において炎症がはたす役割が注目され始めた。そのレポートは、がん細胞が人体の治癒メカニズムを悪用するプロセスを正確に説明している。損傷した部分を補修しようと動きだす免疫細胞とまったく同じように、がん細胞も、自らの成長を支えるため、炎症を引き起こそうとする。そこでがん細胞は、すでに見てきたように、傷口の自然治癒において重要な役割を果たすサイトカイン、プロスタグランジン、ロイコトリエンといった炎症性因子を大量につくりはじめる。これらの物質は、細胞の成長を促す化学肥料のような働きをする。がんは、自分の増殖を引き起こすとともに、周りの壁を浸透しやすいものにするために、それらの物質を利用する。こうして、損傷部分を修復して体内に潜む敵を徹底的に追い払うはずの免疫システムは、がん細胞によって本来の道をはずれていく。がん細胞は、免疫システムを乗っ取ることによって自ら増殖し、体内に蔓延していくのである。炎症作用のおかげで、がん細胞は隣接する組織に侵入し、血液の流れの中に紛れ込み、植民地をつくるために遠征に出る。これが転移である。

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↑ マクロファージががん細胞(右側)の先導している。

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↑ がん細胞が炎症性因子を放出し、マクロファージが集まってくる。

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↑ がん細胞が移動能力を獲得し、「旅に出る」

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↑ マクロファージが先導して周囲の正常な細胞壁を突破しようとする

番組で、立花隆はこのようなメカニズムがあるからがん細胞は無敵であるかのような説明に終始していた。なまじ多彩な知識を詰め込んでいる立花隆の限界だろう。

しかし、がん克服をあきらめていないがん患者が考えるべきことは、体内に隠された慢性的な炎症状態が、健康にとって決定的な要因であることを理解することである。さらに精神的ストレスが炎症性物質の生産を加速させる要因であり、感情的になったり、怒ったり、パニックに陥ったりするたびに、体内では多量のノルアドレナリン(闘争か逃走反応のホルモンとして知られている)と、代表的ストレスホルモンであるコルチゾールが分泌される。これらは傷を負ったときの準備をし、修復に必要な炎症性因子を刺激する。こうしたことを理解すべきである。

炎症ががんに及ぼす研究は、最近(2005年以降)の成果である。従って多くの医師が炎症をコントロールする必要性に無関心であり、巷のがん関連本でもほとんど炎症について触れられていない。

がん細胞がこのように巧妙に免疫システムを乗っ取っているからといって、解決法がないと悲観することはない。がん細胞の巧妙さは、逆に”弱点”にもなり得る。がん細胞に炎症性因子を利用させないために、私たちにできる自然な解決方法がある。それは、炎症を促進する毒素を生活環境から排除すること、がんに対抗できる食物を摂ること、感情のバランスに配慮し、適度な運動をすることである。炎症という側面から、玄米菜食や瞑想、運動が説明できるようになったのである。心を穏やかにして生活することが、治癒には”絶対に”必要なのである。

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