« 2010年1月 | トップページ | 2010年3月 »

2010年2月

2010年2月25日 (木)

『代替医療のトリック』サイモン・シン

代替医療のトリック 代替医療のトリック
サイモン シン エツァート エルンスト Simon Singh

新潮社  2010-01
売り上げランキング : 7887

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

ビッグバン宇宙論 (上) 』『フェルマーの最終定理―ピュタゴラスに始まり、ワイルズが証明するまで 』『暗号解読―ロゼッタストーンから量子暗号まで 』のサイモン・シンが代替医療を科学する、これだけで迷わず買った本です。

本書と扉を開くととすぐに「チャールズ皇太子に捧ぐ」という献辞がが飛び込んできた。チャールズ皇太子は統合医療財団を設立し、「代替医療にもっと研究資金を-代替医療は研究に値する」と題する論文をタイムズ紙に寄稿している。この献辞は著者らの皇太子に対する辛らつな皮肉です。

この本のもうひとりの著者であるエツァート・エルンストは永年代替医療に関わってた代替医療の専門家であり、代替医療分野での世界初の大学教授となった人物です。このふたりが「代替医療は、病気の治療として効果があるのだろうか」という疑問に、何の先入観も持たずに科学的に追求し、"真実を探る"ことを目的として書いています。(というふれこみです)

第一章は『科学的根拠にもとづく医療(EBM)』の考え方、その歴史の説明に当てている。なぜなら著者らは代替医療をEBMに沿って検証しようとしているからであり、そのためにはEBMの考えのなかった時代の医療がどのようなものだったかを明らかにする必要があると考えているからです。例として瀉血を取り上げています。瀉血が広まりだしたのは古代ギリシャのころであり、19世紀の初頭まで中心的な医療行為でした。アメリカの初代大統領ジョージ・ワシントンが「13日の金曜日に引いたちょっとした風邪」をこじらせて、4回の瀉血による失血死をしたことはあまりにも有名です。水夫の壊血病がビタミンCの欠乏によるものだということを歴史上初めての「対象比較試験」で明らかにしたジェイムズ・リンドの業績は忘れられていたのですが、1809年にアレクサンダー・ハミルトンが瀉血が効果のある治療法なのかどうかという患者をランダムに振り分けた対象比較試験を行ないます。その結果は明白でした。瀉血を受けた患者の死亡率は瀉血を受けなかった患者のそれの十倍にのぼったのです。

これらの先駆的な試験により明らかになったのは、「科学的根拠に基づく医療」が生まれる前の医療は、病気から回復した患者は、治療のおかげで回復したのではなく、治療を受けたにもかかわらず回復したのである。また、ナイチンゲールは社会統計学の知識を使って、病院の衛生状態、環境の改善が医療における重要事項であることを証明した。こうして今日「科学的根拠に基づく医療(EBM)」によりたくさんの人命が救われているのだということが最初に強調されています。

著者らはEBMの考えに従って、主立った代替医療について考察します。

鍼、ホメオパシー、カイロプラクティック、ハーブ療法については詳細に検討し、それ以外の代替医療に関しては要約と結果を示すだけにしています。

鍼療法については、擬似鍼が発明されたことにより二重盲検法による比較試験が可能になったことを示し、気・経路が解剖医学的に何の根拠もないと断言するのです。1972年のニクソン訪中に先立つキッシンジャーの訪中に同行したニューヨークタイムズ記者レストンが自身の体験を書いた「北京での手術体験」はアメリカにおいて鍼に対する関心を呼び起こしたが、著者らは「中国における外科手術デモンストレーションは、局所麻酔や大量の鎮静剤などが使われており、まやかしだった可能性が極めて高い」と指摘する。2003年にWHOが鍼治療に好意的な報告書を出したことを「虚偽誇張があり、政治的判断が加味されている」と、手厳しい。

コクラン共同計画のレビュー、いわゆる「コクラン・レビュー」によれば、鍼治療の効果について、

  1. 鍼の有効性は臨床試験から得られた科学的根拠によっては指示されない。
  2. 臨床試験がずさんであるため、鍼の有効性について確かなことは何も言えない。
  3. 研究方法がずさんで件数も少ないため、系統的レビューを行なうことさえできない。

とし、鍼治療に関しては「プラセボ効果」以上の治療効果はない、という結論になっている。

ホメオパシーについては更に手厳しい。ハーネマン自身は有能で誠実な医者であったことは認めている。ハーネマンは当時医療の主流だった瀉血を施すことはしなかったし、瀉血を「人殺し」だと激しく批判したのである。しかし、彼の人格と、その確立したホメオパシーとは別の問題である。科学的に検討されなければならない。ホメオパシーについては、このブログでも何度か取り上げているので、これ以上は触れないが、有効性を示す科学的根拠は一つもなく、逆に効果がないことを示す科学的根拠は多数ある、ということです。

  • カイロプラクティック
  • ハーブ療法
  • 代替医療の食事療法-ゲルソン療法(本ではゲーソン療法としている)
  • アーユルベーダ
  • アレクサンダー法(楽器演奏者の間で静かなズームのようです)
  • アロマセラピー
  • オステオパシー
  • 催眠療法
  • サプリメント-唯一「魚油」が優れたサプリだと。「がんと炎症との関係」参照
  • 指圧
  • シュタイナー医療(人智学医療)-ミヒャエル・エンデが推奨している
  • 瞑想(メディテーション)
    「ガンなどの重い病気に、瞑想が直接的影響を及ぼすかのように言うものもいるが、そうした主張を裏付ける科学的根拠はない」

等が取り上げられています。

最期にアンドルー・ワイルに関する記述を紹介します。

チョプラや、彼と同業の医療グルたちが、代替医療の複音を広めるようになって十年以上になる。医療グルは大きくメディアに取り上げられ、人気のテレビショーに出演し、膨大な人数の聴衆に向かって講演を行なってきた。否定仕様のないそのカリスマ性に、実業家としてのプロ意識が加わって、絶大な影響力を持って大衆に代替医療を普及させてきた。こういう医療グルたちは概して、それでなくても誇張された誤った主張に説得力を与えている。
たとえば、アメリカで最も成功している代替医療の推進者、アンドルー・ワイル医師は、・・・・・彼のアドバイスのなかには、運動をしましょうとか、タバコは控えましょうといった有益なものもある。しかしそれ以外の多くのアドバイスには意味がない。意味のあるアドバイスとそうではないアドバイスとの区別がつかないことだ。たとえばワイルは、2004年に出版された『ナチュラル・ヘルス、ナチュラル・メディシン』という著作のなかで、関節リウマチに処方薬を使うのはやめるようにさかんに説いた--薬のなかには、明らかに病気の経過を変え、身体が不自由になるような変形を防止してくれるものがあるというのに。
ワイルは、効果のある通常医療をしばしば中傷する一方で、ホメオパシーをはじめ効果のない代替医療を奨励する。そして病気をもつ人たちに向かって、さまざまな代替医療を試してみて、自分に合うものを見つけようなどとアドバイスする。
ワイル博士の、「実地に試してみる」という哲学は、代替医療の分野で本を出している著者の多くに共通する立場だ。

代替医療に懐疑的な患者、もしかすると効果があるものだって存在するのではと思っている患者、一読の価値のある著作だと思います。少なくとも、代替医療について何かを言おうとしたとき、無視してはいけない著作の一つには違いないでしょう。

私もワイル博士の主張には共感する部分もたくさんありますが(実際彼の推奨するマルチビタミンを摂っている)、オステオパシーを何の疑問もなく、彼の実体験からの結論として書いていることには首をかしげてしまいます。

ただ、サイモン・シンがEBMを万能のように取り上げている点には疑問も残ります。遺伝子解析による「がんの個別治療」や「テーラーメイド医療」が提唱されている現在、統計的な比較試験がどこまで適用できるのだろうかという問題があるからです。

『21世紀の医療を担うのは日本ホメオパシー医学会だ!という気概をもって、エネルギー場の時代を邁進して いく所存です。』と述べている日本ホメオパシー医学会理事長の帯津良一先生には、ぜひ読んで欲しい本です。せめて帯津三敬病院においてホメオパシーを対象 として「ランダム化比較対象試験」の結果を発表してください。多くの著書のある帯津先生ですから、こんなことはたやすいことに違いないと思うのです が・・・。

続きを読む "『代替医療のトリック』サイモン・シン" »

2010年2月24日 (水)

進行大腸癌に対するペプチドワクチン療法、フェーズ2臨床試験開始へ

昨日に続いての「癌Experts」からの記事です。膵臓がんではなく、大腸がんですが、がんペプチドワクチン療法に関する情報です。

進行大腸癌に対するペプチドワクチン療法、フェーズ2臨床試験開始へ

<以下抜粋>
 進行大腸癌患者に対するペプチドワクチン療法のフェーズ1試験で、全生存率は治療開始から約半年間は低下するものの、その後改善傾向がみられ、特に3種以上のペプチドに特異的細胞傷害性Tリンパ球(CTL)反応を示した場合に予後が良好であることが示された。2月 20日に都内で開催された第7回日本免疫治療学研究会学術集会で、山口大学大学院消化器・腫瘍外科学の硲彰一氏が発表した。

 硲氏らは、東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターの中村裕輔氏らと共同で、特異的能動免疫療法として大腸癌を中心とする癌ペプチドワクチン療法の研究を行ってきた。

 同大でペプチドワクチン療法を行いOSを評価した16人では、最初の半年間はパニツムマブ投与群、BSC群と同様にOSは低下したが、その後は改善傾向がみられ、生存期間中央値(MST)は12.3カ月だった。

  2種以上のペプチドにCTL反応を示した患者は、CTL反応がないかCTL反応が1種のみの患者に比べて予後が良好で(p=0.084)、さらに3種以上のペプチドにCTL反応を示した患者は、CTL反応がないかCTL反応が2種以下の患者に比べて有意に予後が良好だった(p=0.027)。

 硲氏らは、FOLFIRI、FOLFOXに併用するベバシズマブまたはセツキシマブに代わる治療として、癌ペプチドワクチン療法を進行・再発性大腸癌のファーストライン治療として検討する多施設共同のフェーズ2試験を実施中である。


こんなニュースもあります。金があろうが、力(地位)があろうが、膵臓がんの前にはみんな平等で、生存率曲線に従って死んでいくんですね。「風のガーデン」を思い出しました。

指定暴力団稲川会(本部・東京都港区)の角田吉男会長(77)が23日午後、東京都文京区の病院で死亡したことが分かった。警察当局によると、死因は膵臓(すいぞう)がんとみられ、昨年末から入院していたという。


2010年2月22日 (月)

がん医療対談「膵臓がんは最も大きな変化が期待できるがんです」

「癌Experts」の本日付に非常に興味深い記事が載りました。

膵臓がんの遺伝子改変マウスモデルを確立したことで有名な、英国Cambridge大学Cambridge研究所のDavidTuveson博士との対談です。

「膵臓がんは最も大きな変化が期待できるがんです」←全文はこちらをクリック

膵臓がんは平均生存期間3~5カ月という難治がんの筆頭。近年、モデル動物が完成、分子生物学の最先端の知見を動員した新規治療法の開発ラッシュが始まろうとしている。この動きの世界的に著名な研究者でこのほど日本生化学会の招きで来日したDavid Tuveson氏と膵臓がんの信号伝達経路の研究から新規薬物の可能性を追求してきた古川徹氏に、膵臓がん研究の進歩と臨床応用への展望とを語り合っても らった。
<以下、抜粋>
私たちの遺伝子改変マウス膵臓がんモデルは、ヒトの膵臓がんでよく見られる遺伝子変異である変異Kras遺伝子、変異Trp53(p53)遺伝子を人為的 に導入することで作られています。このマウスモデルに発生する膵臓がんは病理学的にヒトの膵臓がんによく似ていることが確認されています。

このモデルにより、何が膵臓がんの原因になっているか、どのようにすればこのがんを治癒させることができるか、また、どのようにすれば効率よく診断することができるか、さらには、どのようにすればこのがんを予防できるかを知りたいと私たちは考えています。

マウスモデルでは投与したゲムシタビンが腫瘍に十分に到達していないという結論に達したのです。それは、膵臓がん組織中の血流が乏しいため、がん組織に到達するゲムシタビンが正常組織と比べて非常に少ないからです。そこで私たちがとった戦略は腫瘍の血管を増やすというものです。

ヘッジホッグ信号阻害剤(hedgehog signaling inhibitor)が間質を退縮させ、血管を増加させる。それによりがん組織にゲムシタビンや他の薬剤を効果的に行きわたらせることができると考えられました。実際に、この阻害剤とゲムシタビンを併用投与すると、膵臓がんが退縮して数週間も延命しました。

進行膵臓がん患者を対象にした研究でabraxane(アブラキサン)とゲムシタビンとの併用が膵臓がんに対し効果があることが示されました。第2相臨 床試験の結果も非常に有望な化合物であることを示すもので、私たちを期待させるものでした。現在、米国と欧州において、abraxaneとゲムシタビンと の併用効果を確認する第3相試験が行われています。さらに、米国ではエルロチニブとabraxaneを併用した臨床試験も進められています。私たちのマウスモデルでもこの薬剤について研究しています。

KRAS遺伝子の変異がほとんどの膵臓がんで見られるわけで、この変異こそが膵臓がんの発生、進展過程で大きな役割を果たしていると考えられます。変異KRAS遺伝子が発現すると細胞内の活性酸素が減少することを発見したのです。活性酸素はがんの原因の1つと考えられていたので、これは腫瘍細胞の生理現象に大変重要な意味があると気づきました。つまり、活性酸素を減らすことはがんを進展させる可能性があるのです。

私が日本に来て驚いたのは日本における膵臓がんの研究資金の額が非常に限られているということです。年間7500人程の膵臓がん罹患者数の英国における研究資金に比較して年間24000人程が罹患する国(日本)における研究資金のレベルではないということです。一般の人に膵臓がんが重大な問題であることを認識してもらう必要があります。生存期間はわずか半年程なのですから。研究の進展によって、人々が膵臓がんになった時に恩恵を被ることができるようになるのです。

ここ1~2年で膵臓がんの診療は劇的に進歩する可能性があると思います。そのためにもよりよい研究を効率よく進めることが必要です。


「活性酸素を減らすことはがんを進展させる可能性がある」と聞いて、抗酸化作用のあるサプリメントを有害だ、と判断するのは性急すぎるだろう。「膵臓がん-->変異KRAS遺伝子がある、変異KRAS遺伝子が発現-->細胞内の活性酸素が減少」。これはこの文章を読む限りでは「相関」があるということであり、因果関係があるかどうかは明確ではないからです。「相関がある=因果関係がある」とは多くの場合、そうは言えないのです。因果関係があるというためには、もっと詳細な情報が必要です。

続きを読む "がん医療対談「膵臓がんは最も大きな変化が期待できるがんです」" »

2010年2月21日 (日)

がん患者が考える生と死(2)

死」はなぜあるのか

ヒトはどうして老いるのか―老化・寿命の科学 (ちくま新書)

20世紀の生命科学が明らかにした事実のなかに、「ヒトは進化の過程で可老可死を選択した生物から生まれてきた」ということがある。私たちは生命サイクル のなかに「死」を組み込んだ生物の末裔なのです。

細胞の「死」には3つの形態がある。

  • ネクローシス-「事故死」。遺伝子に支配されない突発死
  • アポトーシス-遺伝子による「自死」
  • アポビオーシス-非再生系細胞の死:「寿死」=個体の死

火傷などにより細胞が壊死するのがネクローシスで、遺伝子が関与しない突発的な死であり、ウイルスや放射線等の影響を受けて再生不良となった細胞が、自ら遺伝子に組み込まれたプログラムを発動して自発的に死んでいくのがアポトーシスである。神経細胞、心臓の心筋細胞のように、生涯置き換わることのない細胞の死をアポビオーシスという。遺伝子にプログラム化された2種類の細胞死を備えることによって生物の個体は有限の命をセットされているのです。

遺伝子の夢―死の意味を問う生物学 (NHKブックス)

再生系細胞には分裂寿命がある。だいたい50~60回分裂すると、それ以上分裂増殖できなくなります。その仕組みは、染色体の末端にあるテロメアという特殊な構造がカウンターの役割をしているようなのです。核のなかの染色体はDNAとタンパク質の複合体で、ヒトの場合23対46本があり、母親と父親から受け継いだ二重らせん状のDNAのひもが入っています。この二重らせんの末端に「TTAGGG」という六文字の塩基配列の繰り返しが百回ほども続いています。細胞が分裂するたびにこの「TTAGGG」の単位が約20個ずつ短くなることがわかっています。そしてこの長さが半分ほどになると、染色体の構造が維持できなくなり、やがて細胞は死ぬことになります。つまりテロメアは「命の回数券」のようなものです。

一方で非再生系の細胞は、徐々に機能が衰えて老化し、ある時間を経 過するとこれも遺伝子に組み込まれたプログラムによって死んでいく。これは「命の定期券」といってもよいでしょう。

アポトーシスとアポビオーシスにおける細胞死においては、DNAがきちんと切断されている。つまり、細胞の持っている情報がすべてリセットされ消去されている。アポトーシスによる細胞の死によって、生体の中で余剰に作り出された細胞、機能を果たし終え老化した細胞、がん細胞などの有害となる異常な細胞を除去するという生体防御の役割を果たすことができ、固体の生が保証されます。また、アポビオーシスによる細胞死とその延長線上にある固体の死によって新しい遺伝子の存続が保証されるのです。遺伝子が新たな遺伝子として存続していくためには、細胞及び個体レベルで確実に古い遺伝子を無にすることが必要なのです。

死はどのように生じたか

死の起源 遺伝子からの問いかけ (朝日選書)

細胞が遺伝子に死を宿すようになったのは、進化における有性生殖の獲得過程で死が必要になったからだと思われます。減数分裂によって精子と卵子ができるが、そのときランダムな遺伝子の組み換えが起きる。精子と卵子が合体して新しい受精卵が生まれ、その中から環境に適さない遺伝子を持った固体が自然淘汰されます。「死」を遺伝子に組み込むことで新しい環境に適用した固体を残すということが可能になり、この戦略を持った生物が現在生き残っている、言い換えれば種の生存という目的に最もかなった戦略として「死」を選択した遺伝子が勝ち残っているのです。。

無性生殖の方が遙かにエネルギーが少なくて済み、安全である。にもかかわらず有性生殖を持つ生物が進化的に発展してきたのは、遺伝子のシャッフルによって多彩な遺伝子を持った固体が生まれ、その中には環境の激変にも適応できるものが生じてきたからです。5億4000万年前に第1回の種の大量絶滅期があり、4億4000万年前に2回目、3億6700万年前に3回目(これは隕石の衝突によるとされている)、2億5000万年前には火山噴火による大量絶滅期、6500万年前には小惑星の衝突によると思われる6回目の大量絶滅期を、地球の生物は経験している。しかし、それでも生き残る種があったから今日の地球上の生物がある。有性生殖と新しい遺伝子を生成する「死」があったからこそ、今日我々は生存しているのです。環境の激変にあっても子孫を残すという生物の目的のためには「性」と「死」を獲得することが最も合理的な戦略だったということです。

無性生殖をする生物に限れば、ドーキンスが言うように遺伝子は「利己的」なのかもしれないが、有性生殖をする生物ではむしろ、自己が死ぬことで種を生存させるのであるから、遺伝子は「利他的」な存在ということができよう。「死」を避けて生き続けようとすることは、「生」そのものに反する行為であり、遺伝子の存続と生物の多様性を否定することでもあるのです。細胞死による利他的な自己消去能こそが生命の摂理の根底にあり、「死」なしでは新たなアイデンティティを持った固体の創生は望めないし、存続もできないことになります。

死の遺伝子が本来的に利他的であるとするならば、私たちの固体も、究極的には他のために生きるべくして生まれてきたと言えるのではないでしょうか。人間は自分の子孫の繁栄ばかりではなく、他者もそしてすべての生命を救うことを目的として生きる「命」を与えられた存在であることを、「死」の遺伝子は語っているのかもしれません。

有性生殖と「死」による遺伝子のシャッフルがなければ、「個」のアイデンティティも生まれようがなく、「個」のアイデンティティの時間的蓄積が「死」によって完結することを考えれば、「死」は「生」の別名だということになります。

可老可死のなかで自分の夢を追求し、与えられた時間のなかを自由に生きることで、人間の本来の姿が見えてくるのではないでしょうか。だとするならば、不老不死を願い身体を再生することを願うのではなく、こころを再生することが、がん患者に限らず全ての人間にとって「命」を生きることになるはずです。「今、ここに生きよ」と多くの賢人が言ってきたことが、最近の生命科学の観点から「死」をとおして眺めてみると、より一層理解できるような気がしてきます。

ヒトは、進化の過程で可老可死を選択することで生き残ることができた生物の末裔なのです。


遺伝子の夢―死の意味を問う生物学 (NHKブックス)
田沼 靖一

4140018119

関連商品
ヒトはどうして老いるのか―老化・寿命の科学 (ちくま新書)
アポトーシスの科学 (ブルーバックス)
アポトーシス―細胞の生と死 (UP バイオロジー)
爆笑問題のニッポンの教養 ヒトはなぜ死ぬのか? 生化学 (爆笑問題のニッポンの教養 5)
脳は美をいかに感じるか―ピカソやモネが見た世界
by G-Tools

続きを読む "がん患者が考える生と死(2)" »

2010年2月20日 (土)

がん患者、お金との闘い

新しい抗がん剤が次々に開発され、がん患者の余命にいくらかは寄与するようになってきました。しかし、病院の窓口で支払う抗がん剤治療の高さにはびっくりします。私の場合、術後補助化学療法でジェムザールを半年間投与しましたが、一回の患者負担額が4万円以上。これが月に3回ほど続くのですから、吐き気止めなども入れると毎月15万円くらいになりました。高額療養費を請求すれば返ってくるとはいえそれは3ヶ月ほど後になります。

今は再発・転移もないから医療費は月に1万円以下ですからそれほどの負担にはなっていませんが、再発・転移した患者さんなら、例えばGEM+TS-1の投与を受けるようになれば月に20万円以上の負担額になることもあるはずです。しかし、こうしたがん患者の経済的負担の問題があまり論議されることはありません。それは一つにはがんが「生活習慣病」といわれるように、患者にも自分の生活態度が招いた病気だという負い目を感じているからではないでしょうか。その意味で「生活習慣病」という言い方には疑問を感じます。確かに生活習慣が原因の一つでしょうが、二人に一人ががんになる時代、社会生活ががんになるような生活を強いてきたという側面もあるはずです。

がん患者、お金との闘い 』は札幌テレビ放送取材班が、がん患者の経済的負担に苦しんでいる状況をレポートしたもので、これまであまり陽の当たらなかった部分に焦点を当てたよい企画だと思います。

がん患者、お金との闘い
がん患者、お金との闘い 札幌テレビ放送取材班

岩波書店  2010-01-23
売り上げランキング : 16195

おすすめ平均  star
starみんなで考える問題
star読者に希望をくれる本
star治療費の事知りませんでした

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

大腸がんと診断された金子明美さんの経済的苦境と、家族でそれを支え合い、奮闘する姿が印象的です。経済的負担に耐えかねて「離婚して生活補助を受ければ、医療費もかからない。家族にも迷惑がかからなくなる」とまで思い詰めた金子さんです。しかし、離婚は「子供たちにウソはつけない」と断念する。そして患者会を組織して、北海道に署名誓願をして知事にも直接訴える。国のがん対策協議会のメンバーにも選ばれて国会議員にも患者の経済的苦境を訴えるが、しかし、その声はなかなか届かない。

海外ではすでに承認されている抗がん剤が日本では未承認で使えない。いわゆる「ドラッグ・ラグ」の問題がある。個人輸入してでも使える患者はまだよい。働き盛りががんになればたちまち経済的に行き詰まる。「ドラッグ・ラグ」以前に、承認された抗がん剤でさえ経済的理由で使えないで、自ら治療を断念していく患者がたくさんいる。「新しい抗がん剤といったって、わずか数ヶ月の延命のために家族の生活を犠牲にし、子供の進学を断念する。そんな価値があるのでしょうか?」この問いは重い。医療費は誰が負担すべきなのか、海外の事情も紹介して我々に問題を突きつける本である。

私はパンキャンなどのアンケートにはいつも「がん患者に障害者手帳を」と書いている。がん患者には一律に障害者手帳を交付すれば、経済的負担がどれほど軽くなるかと思うからだ。しかし、実はがん患者が「障害年金」を受けることができるということは、あまり知られていない。本に登場する金子さんも実は知らなくて、あるソーシャルワーカーから教えてもらったそうだ。社会保険事務所の窓口の担当者ですら、その知識がない。

がんサポート情報センター 「障害年金はさまざまながんで受給できる場合がある
障害年金を受け取るために必要な条件

金子明美さんのブログ「(旧)最期まで諦めない 癌と共に
              「(新)最期まで諦めない がんと共に
*******************************

                                                                                                                                                        
悪 性新生物(ガン)による障害の程度は、組織所見とその悪性度、一般検査及び特殊検査、画像検査等の検査成績、転移の有無、病状の経過と治療効果等を参考に して、具体的な日常生活状況等により、総合的に認定するものとし、当該疾病の認定の時期以後少なくとも1年以上の療養を必要とするものであって、長期にわ たる安静を必要とする病状が日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のものを1級に、日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を 加えることを必要とする程度のものを2級に、また、労働が制限を受けるか、又は労働に制限を加えることを必要とする程度のものを3級に該当するものと認定 するとされています。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     
  障害の程度 障害の状態
国年令別表 1級 身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であって、日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの
2級 身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であって、日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの
厚年令別表 3級 身体の機能に労働が制限を受けるか、又は労働に制限を加えることを必要とする程度の障害を有するもの
                  悪性新生物(ガン)による障害の区分
                  ア 悪性新生物そのもの(原発巣、転移巣を含む。)によって生じる局所の障害
                  イ 悪性新生物そのもの(原発巣、転移巣を含む。)による全身の衰弱又は機能障害
                  ウ 悪性新生物に対する治療の結果として起こる全身衰弱又は機能障害
                  

                  
                  <一部例示>
                  
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     
障害の程度 障害の状態
1級 著しい衰弱又は障害のため、身の回りのこともできず、常に介護を必要とし、終日就床を強いられ、活動の範囲がおおむねベッド周辺に限られるもの
2級 衰弱又は障害のため身の回りのことはできるが、しばしば介助が必要で、日中の50%以上は就床しており、自力では、屋外への外出等がほぼ不可能となったもの、又は、歩行や身の回りのことはできるが、時に少し介助が必要なこともあり、軽労働はできないが、日中の50%以上は起居しているもの
3級 著しい全身倦怠のため歩行や身の回りのことはできるが、時に少し介助が必要なこともあり、軽労働はできないが、日中の50%以上は起居しているもの、又は、軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行、軽労働や座業はできるもの
                  
悪性新生物そのものによるか又は悪性新生物に対する治療の結果として起こる障害の程度は各障害ごとの認定要領によるとされています。

続きを読む "がん患者、お金との闘い" »

2010年2月19日 (金)

EPAの臨床試験、パンキャンで膵臓がんブックレット発刊

2月9日のブログ「がんと炎症の関係」で紹介したEPA補助栄養成分に関連する情報です。

がん患者のあきらめない診察室」でエパデールSという動脈硬化の薬を投与希望者を募集しています。

栄養成分EPAを軸にした新機軸の栄養療法は
 がん悪液質に有効か ~新栄養療法希望者募集

*********************************************

パンキャンジャパンが『膵臓がんの概観』を今月中旬に発刊し、配布します。

■ブックレットの内容構成
 1  膵臓がんになるということ        東京女子医科大学  羽鳥 隆 先生 
 2  膵臓とは                名古屋大学病院 横山 幸浩 先生
 3  がんを知る               東北大学大学院 下瀬川 徹 先生
 4  膵臓がん                京都大学大学院 土井隆一郎 先生
 5  膵臓がんの症状             東京女子医科大学 白鳥 敬子先生
 6  膵臓がんの危険因子             九州大学大学院 田中 雅夫 先生
 7  診断と腫瘍計測の方法            愛知県立がんセンター 山雄 健次 先生
 8  膵臓がんの治療             名古屋大学大学院 中尾 昭公 先生
                        名古屋大学大学院 竹田 伸 先生
 9  治療に伴う副作用            九州がんセンター 船越 顕博 先生
 10   疼痛治療・緩和療法           都立駒込病院  唐澤 克之 先生
 11   臨床試験                国立がんセンター  奥坂 拓志 先生
 12   医療チーム                     同           
 13   担当の医師や医療チームへの質問         産業医科大学   山口 幸二 先生
 14   用語集                 大阪府立成人病センター 石川 治 先生

 巻末インフォメーション
  *肝胆膵外科専門病院とがん薬物専門医がいる病院
  *有益な情報源 インターネット
  *有益な情報源 書籍 
  *有益な情報源 各種相談窓口

パンキャンジャパンの会員以外の方、現在、Web会員、ボランティア会員の方で、ブックレットをご希望の場合は、下記、事務局までお問合せください。

■パンキャンジャパン事務局
 電話 03-3221-1421     メール     sfurutani@pancan.jp

続きを読む "EPAの臨床試験、パンキャンで膵臓がんブックレット発刊" »

2010年2月18日 (木)

京都大学医学部附属病院に最新鋭ピンポイント放射線装置

三菱重工ニュース

2010年2月17日 発行 第 4905号

京都大学医学部附属病院から高精度放射線治療装置を受注

2008年4月の市場投入以来、5台目の受注

 
三菱重工業は、京都大学医学部附属病院から最新鋭の放射線治療装置(線形加速器システム MHI-TM2000)を受注した。がん患部の位置を正確に把握し、ピンポイントで照射できる先端医療マシンで、周辺の身体組織への放射線障害を極力回避 しながら高精度のがん治療を簡便に行うことができるのが特徴。納入は7月の予定。これにより、同装置の受注累計は2008年4月の市場投入以来、国内で4 台、海外で1台の計5台となる。

【放射線治療装置「MHI-TM2000」】
【放射線治療装置「MHI-TM2000」】

 京都大学医学部附属病院は1899年設立のわが国を代表する総合病院。放射線治療科は日本の放射線治療をリードしており、先進的ながん放射線治療を積極的に行っていることで名高い。

  放射線を用いたがん治療では、体内の見えない病巣へ正確に放射線を当て、周辺の正常組織への副作用をいかに抑えるかが課題となる。MHI-TM2000 は、エックス線撮像装置を2基装備し、世界最高レベルの精度の正確な放射線照射を可能としたことにより、正常組織への副作用を極力回避するだけでなく、従 来装置では患者が乗った寝台を旋回させることで生じる位置ずれリスクを、患者側ではなく装置側を旋回させることで極小にした。また、これまで熟練した放射 線技師が時間をかけて行っていた患部への位置合わせを自動でも可能とし、より簡便に実現することで、患者・医療スタッフ双方の負担を大きく軽減している。

 当社は、現在、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の支援を受け、肺呼吸や消化器の働きにより揺れ動くがん病巣をリアルタイム で追尾しながら連続的に照射する世界初の「動体追尾放射線照射」機能(薬事未承認)を有す装置の開発を進めるなど、製品の幅を着々と広げつつある。 当社は今後も、医療機器の開発・製造・販売を強力に推進していく。

http://www.mhi.co.jp/news/story/1002174905.html

製品ページ

******************
放射線装置はライナックですね。一般の医療用エックス線装置に比較して高エネルギー(6MeV)のエックス線が出せます。6メガエレクトロンボルトとは驚きです。重粒子に匹敵するようなエネルギーでしょう。1MeVでもエックス線は100mm以上の鉄を透過します。6MeVでは数百ミリの透過能力。よほど精密に位置制御をしないと、腫瘍以外の部位への影響は大きいということでしょう。

 

2010年2月16日 (火)

がん患者が考える生と死(1)「生きて死ぬ智慧」

元気なうちに死について真剣に考えることができるのは、がん患者の特権です。誰しも死について考えることはあるに違いないが、がん患者は、数ヶ月先、運が良ければ数年先に手の届くところにある死を、我が身に確実に起こる事象として認識せざるを得ない。
私の弟は交通事故で即死だったから、死について考えることも、準備もする余裕もなく逝ってしまった。しかしがんならじっくりと考える時間がある。せっかく与えられたチャンスだ。存分に使わなければもったいない。

生きて死ぬ智慧

柳澤桂子さんが『生きて死ぬ智慧 』をいう本を出している。2004年の初版を持っているから、その当時買ったのだろうが、深く読みもせずに埃をかぶって放ってあったものを引っ張り出してきた。
般若心経を彼女なりに「心訳」した本である。生命科学者である彼女は、マウスの遺伝子研究で世界的な成果を出そうとしていた矢先に原因不明の難病に冒される。どこの病院でも原因が分からず、「心身症だ。症状が多彩で医学的にあり得ない。気のせい、気持ちの持ち用だ」と言われ続けて、絶望的になり、最後は寝たきりになる。尊厳死まで考えるようになったとき、友人の紹介で精神科医である大塚明彦医師の往診を受ける。大塚医師は彼女の話を聞いただけで、「慢性疼痛、脳の代謝異常です」と診いのちの日記 神の前に、神とともに、神なしに生きる断。抗うつ剤を投与して劇的に回復した。病名が付くまでに30年も経過していた。
こうした経緯は『いのちの日記 神の前に、神とともに、神なしに生きる 』に詳しく書かれている。

あるとき、神秘体験をする。一冊の本『人間の生きがいとは何か』(橋本凝胤)を夜が白々と明けるころまで読んでいたときのこと、

白く浮かび上がった障子を眺めていた私は、突然明るい炎に包まれた。
熱くはなかった。ぐるぐると渦巻いて、一瞬意識がなくなった。
気がついてみると、それまでの惨めな気持ちは打ち払われ、目の前に光り輝く一本の道が見える。
私は何か大きなものにふわりと柔らかく抱きかかえられるのを感じた。その道はどこへ行くのかわからなかったが、それを進めばよいことだけははっきりわかった。
「そうだ。生きるのだ。仕事をしなくたってきっと生きられる」

生命科学者である彼女は、しかし、「一般に、動物が強いストレスにさらされたときに、脳内快感物質が出るということは十分に考えられることである。たくさんの快感物質が出たときに、・・・・感覚が生じても不思議ではない。神経の過度の緊張は、火となって感じられる可能性がある。したがって、神秘体験は、神秘ではなく、科学で十分に説明のつく現象であろうと私は考える。」と冷静である。

しかし、そうした彼女も「癒しようもないほどに病んだ肉体とは裏腹に、今を必死に生きようとしている私のいのちの感触を、こころの奥に探り当てる。もはや滅び去る身とされた者が、救いを希求するこころの形見のような信仰への激しい渇望を、そこに実感する。」と書いて、信仰を求めていく。ただ、「手近にある教団や教祖にすがりつくような宗教のかたちには満足できなかった」彼女が行き着いたのが「般若心経」の「空」の考え方でした。

Pdvd_053_2

ひとはなぜ苦しむのでしょう・・・・
ほんとうは
野の花のように
わたしたちも生きられるのです
**************

お聞きなさい
私たちは  広大な宇宙のなかに
存在します
宇宙では
形という固定したものはありません
実体がないのです
宇宙は粒子に満ちています
粒子は自由に動き回って  形を変えて
おたがいの関係の
安定したところで静止します
**************

お聞きなさい
あなたも 宇宙のなかで
粒子でできています
宇宙のなかの
ほかの粒子と一つづきです
ですから宇宙も「空」です
あなたという実体はないのです
あなたと宇宙は一つです

 

Pdvd_032

「空」と「粒子」と彼女が言うとき、「空」は量子場のエネルギーであり、「粒子」は物質の粒子であるが、物質が粒子と波動の二重性を持っているということを暗示しているように思える。真空場(波動)からあらゆる粒子が生まれ、そして真空場に帰って行く。光も電子もその他の粒子も波であり粒子でもある。これについては後日再び触れることにして、彼女の生命科学者の面を見てみる。

われわれはなぜ死ぬのか―死の生命科学

われわれはなぜ死ぬのか ――死の生命科学 (ちくま文庫) 』では「死」を生物学的に考察している。多細胞生物が雌雄の別を持ち、つまり性を得ることによって、雌雄の間で遺伝子のシャッフルができる。こうして多彩な遺伝子を持った固体が生まれることにより、変化する環境に適応していく可能性が大きくなる。現在において性を持った多細胞生物が繁栄しているのは、進化の過程において性を得て、他の生物よりもより順応してきた結果である。そして遺伝子がシャッフルされた新しい個体が生まれると同時に、元の個体は死ななければならない。そうでなければ古い遺伝子と新しい遺伝子の合体が生じることになり、種の繁栄という性の目的に反するのである。

つまり、「性=生」が生じたことにより「死」は必然的に現われるようになった。われわれの感覚では、生きているものが死ぬのであるが、生物学的に見れば、死ぬことによって、そうした戦略をとることによって種の繁栄が確実になるのであるから、「死ぬから生きることができる」のである。ひとつの個体が永遠の命を持たないことによって、種としての生が保証されるのである。

  三六億年の生命の歴史のなかに時をおなじくして自己意識と無を認識する能力をあたえられ、死の刻印を押されたものとして、また、死をおそれることを知ってしまったものとして、おたがいに心を通わせ合い、深く相手を思いやることが、生の証のように思えるのである。
  死ばかりでなく、老いもまた避けることのできない私たちの運命である。個体の寿命がのびたことによって、老いの苦しみを感じる期間も長くなっている。老いていく人々の苦しみを思いやるとともに、そこから多くのものを学びたいと思う。
  私たちは、死を運命づけられてこの世に生まれてきた。しかし、その死を刑罰として受けとめるのではなく、永遠の解放として、安らぎの訪れとして受け入れることができるはずである。また、死の運命を背負わされた囚人として生きるのではなく、誇りと希望をもって自分にあたえられた時間を燃焼し尽くすこともできるはずである。今日も私たちは死にむかって百を歩んだ。夕日に向かってその百を思うとき、死への一日としての重みにたえる時を刻んだということができるであろうか。

同じ主張は、田沼靖一がより多くの著作で展開している。それを考えてみる。

3月中頃までは超多忙だと書いておきながら、こんなことを考えている。困ったものだ。

Pdvd_044

続きを読む "がん患者が考える生と死(1)「生きて死ぬ智慧」" »

2010年2月12日 (金)

ビターチョコで血管新生を押さえる

【2月12日 AFP】赤ワインとチョコレートはがん治療薬になりうるとする研究結果が、米カリフォルニア(California)州ロングビーチ(Long Beach)で10日開催されたTEDコンファレンス(TED Conference)で発表された。

 米マサチューセッツ(Massachusetts)州のNPO組織、血管新生基金(Angiogenesis Foundation)は、腫瘍(しゅよう)に栄養を運ぶ新しい血管ができないようにする物質を含む食品の特定を進めている。血液を供給させないことで、がん細胞を「餓死」させられるという。ブルーベリー、ニンニク、大豆、お茶にこのような抗血管新生特性があることが知られているが、発表した同基金のウィリアム・リー(William Li)総裁によると赤ワイン用ブドウとダークチョコレートにもこの効果があることが分かったという。

 腫瘍に栄養を運ぶ血管の新生を阻害する薬は、すでに10種以上が医療現場で使用されている。同基金が一部の食品と承認されたがん治療薬の効果を比較したところ、大豆、パセリ、赤ワイン用ブドウ、ベリーなどで薬と同等またはそれ以上の効果が確認されたとしている。これらの食べ物を一緒に食べた場合、効果はさらに上がったという。

 また、遺伝的に肥満になりやすいマウスに抗血管新生特性のある食品を与える実験をしたところ、体脂肪が減って平均的な大きさになったという。

 リー総裁は、調理したトマトを週に数回食べる男性の前立腺がんリスクは30~50%低いとした米ハーバード大医学部(Harvard Medical School)の研究も紹介し、「医療革命はわれわれの身近で起こっている。また、だれもががん治療薬を買えるわけではないので、こうした食事療法が多くの人にとって唯一の解決策となり得るだろう」と話した。(c)AFP
*************************************************Wshot200129
私の机の引き出しにはカカオ70%のビターチョコがいつも入っています。精製糖や甘いものは「がんの栄養」だと指摘する『がんに効く生活』でも、ビターチョコは唯一推奨されています。玄米菜食で食事療法をしていると、甘いものが摂りたくなりますが、このチョコはそうした要求を満たしてくれます。

続きを読む "ビターチョコで血管新生を押さえる" »

2010年2月11日 (木)

久留米大学 ペプチドワクチンに関するレビュー

久留米大学の「ペプチドワクチン事務局」にワクチンに関する2件のレビュー(PDFファイル)がアップされています。ペプチドワクチンの現状と限界に関しても正直に書かれています。

がんワクチンについて 久留米大学 免疫・免疫治療学講座 伊藤恭吾

  1. がん治療のためのワクチン療法はまだ日常診療では利用できませんし、進行がんへ強く効く治療法ではありません。
  2. 現状においてはまず、通常のがん治療(特に抗がん剤治療)にて免疫抑制をきたさないことが現状での最良の選択といえます。目安としてはリンパ球数の減少症をきたさないことが推奨されます。
  3. がん細胞はとても丈夫で元気です(頑健といいます)のでそれと戦うためには抗がん剤、ホルモン剤や放射線治療との組み合わせや複合的な治療法を併用することが必要です。がん細胞と戦うためには患者さんご自身も丈夫で元気でないといけません(免疫力の維持)。
  4. リンパ球は免疫の主役です。1000 個/mm3 を維持してください。
  5. 従って抗がん剤などのがん治療により強い免疫抑制をきたしてはいけません。免疫力の維持向上について主治医にいつもご相談してください。
  6. ご自分でしっかり考えて今のがん種や病期に適合した治療法を選択することが大切です。

がん治療薬の薬効評価について がんワクチン分子部門 山田亮教授

4.がんワクチンでは延命効果が認められています
久留米大学グループで過去に実施されたテーラーメイドがんペプチドワクチン 療法の臨床試験では、奏功率は10-20%前後と低い結果となっており、抗がん剤では通常70-80%という高い奏功率が得られることと比較すると効果な しと思われるかも知れません。しかし、全生存期間や無増悪生存期間をがんワクチン治療を行わなかった場合と比べると1.5 倍から2 倍程度の延命効果があるという結果が得られています。この成績は抗がん剤がきかなくなった末期がん患者での成績ですので世界的にも大変注目されています。 ただし、厳密にコントロールされた試験結果ではないために、今後実施される「ランダム化比較試験」によって検証される必要があります。

2010年2月 9日 (火)

がんと炎症の関係

がんと炎症との関係について、私がその重要性を知るようになったのはシュレベールの『がんに効く生活』という書籍でした。「私のがん攻略法」には、これ一冊あればがん治療対策は十分だと書いて紹介しています。また、昨年12月1日の立花隆の『思索ドキュメント がん 生と死の謎に挑む』というNHK番組の紹介記事でも炎症とがんの関係について、『がんに効く生活』の内容を紹介しました。そして、日本では多くの医師がまだ炎症とがんとの関係については知識が乏しい、患者は自分で炎症反応について学習する必要があるとも書きました。

「癌Experts」に「悪液質への介入-浮上した炎症制御の重要性」という記事が掲載されました。(2010.2.8) 日本でも炎症反応を制御することとがん治療の関係について、少し関心が高まってきたようです。

記事内容紹介

癌研有明病院の向山医師が登場します。悪液質の症状の多くがインターロイキン-6(IL6)やIL1、腫瘍壊死因子(TNF)αなどの炎症性サイトカインの作用として説明できるようになってきた。IL6が肝臓の薬物代謝酵素の活性を抑制する結果、「抗がん剤やオピオイド鎮痛薬の有害事象が発現しやすくなる」ことも分かってきた。

炎症とがんとの関係を長年にわたって研究してきた三重大学教授の三木誓雄氏は、「がんの組織がIL6とともにIL6受容体をも高発現していることに注目してきた。その結果、 IL6が中心となってがん悪液質が発生、しかもがん組織自ら産生したIL6を自ら受容して増殖する患者にとっては大変迷惑な循環現象が起こっていると捉え るようになった。」「食べても、食べても痩せる」という悪液質の特徴の背景には炎症があると三木氏はいう。がんに由来する炎症マーカー(CRP)値上昇はがんが発見される何年も前から続くことになり、結果的に大きなダメージを患者の身体に与えている。

「悪液質」というと、進行した末期癌患者だけの問題と考えがちだが、「炎症」というキーワードで考えると、「がん全般に関わる可能性も出てきた。言い換えると、がんとは炎症をベースに進行する病気の1つであるという点だ。がんが炎症を引き起こし、それが薬剤の代謝をかく乱し、疼痛などがんに付随して表れる多彩な症状の原因となっているのだ。がんと炎症は不可分の関係にある。」

そこで最近注目されているのが2009年6月に一般食品として市販された飲料「プロシュア(キャラメル味)」(販売元:アボットジャパン)。1日2パックを通常の食事に加えて取るWshot00104 ことによって、エイコサペンタエン酸(EPA)を2.2g摂取することができる(亜鉛やビタミンC・ビタミンEも入って1パック300kcal)。魚油に含まれるEPAは、その代謝過程において抗炎症性の物質を産生することから、炎症性の症状を改善する効果が認められている。三木氏は直腸がんで多発肺転移を起こしたstageⅣの患者に摂取してもらい、50kgに減った体重が4ヶ月後に58kgまで増加し、当初無理だと思われたFOLFOXをフル用量で投与できるまで回復した症例があるという。向山氏もこの食品が有効かどうかの臨床試験を準備していると述べている

EPAに関しては「健康食品の素材情報データベース」にこれまでの臨床試験の結果が紹介されている。安西さんの「米国統合医療ノート」にもオメガ-3やEPAに関する記事があり、

このように、血中のEPAを高く維持するのは、とても大切なことのようです。しかし1番目の研究のように、EPAだけをサプリメントで飲んでもいい効果が得られるとは限りません1。

(今日のまとめ)
サプリを盲信し、それだけに依存するのは賢明とは言えないようです。まずは肉を減らし、魚をたくさん食べ、他の食事内容や生活習慣にも気を配ること。それができたらサプリメント、という順番でしょうか。

1 サプリでは効果がない、と早とちりしてはいけません。効果が認められたという報告もあります。
今月はじめオンライン版のランセットに、数千例の慢性心不全の患者にオメガ3を投与し、約4年間追跡した研究が発表されました。この試験ではオメガ3服用群が、プラセボ群より有意に死亡率が低いという結果が出ました。同じグループが平行して同じ計画で高脂血症治療薬ロシバスタチンの効果も検討しましたが、この薬の服用群の死亡率はプラセボ群と差がありませんでした。

と書かれている。

新・現代免疫物語 「抗体医薬」と「自然免疫」の驚異 (ブルーバックス)

炎症性サイトカインであるIL6の働きを止める薬として、関節リウマチに劇的な効果があるIL6受容体抗体トシリズマブ(中外製薬)をがん治療に適用拡大することにも期待している。この薬は『新・現代免疫物語』(ブルーバックス)でその開発秘話が紹介さ れている。私もブログで「薬・抗体医薬」のタイトルで取り上げている。

中外製薬は、国立がんセンター中央病院、同東病院(千葉県柏市)と共同で、切除不能膵がんにたいして、標準治療薬であるゲムシタビンにトシリズマブを併用した臨床試験(第1相/第2相)を開始している。

「ターミナルケアばかりではなく、これまで考えられていた以上に早期の抗炎症治療介入の重要性が明らかになりつつある。まだ、がんと炎症との関係に注目した研究は少ない。一部の動きに過ぎない。しかし、がん治療の新しい1ページを開く気運が出てきたことは確かなようだ。」と結んでいるが、今後の積極的な研究を期待したい。

ただ、IL6の働きは単純ではない。プラスとマイナスの働きがある。IL6の炎症性サイトカインという側面だけを見て、単純に働きを止めると副作用が問題になろう。

  • 発熱・炎症を起こす
  • リウマチの症状を引き起こす
  • 肝細胞を刺激する
  • 血小板を作る
  • 悪液質にも影響する
  • 骨を吸収する
  • 骨髄腫細胞を成長させる

さて、我々がん患者はどのように対応すればよいか?「プロシュア」は27パックが11,730円であり、1日2パック摂取するとして、1ヶ月26,000円あまりの費用がかかる。これが負担にならない患者は飲んでみればよい。相当甘いから辛党は音を上げるかもしれないが・・・。EPAは青みの魚に多く含まれている。26,000円でサバかイワシを買えば相当量のオメガ-3とEPA,DHAが摂取できるだろう。寿司屋に行っても、中トロは止めてサバかイワシにしておく。財布にも優しい。私はもっぱらこの方法で摂取することにしているが、米国ではオメガ-3不飽和脂肪酸とEPA、DHAを含んだサプリメントや魚油を精製した錠剤が盛んに購入されているようだ。サバとイワシを積極的に摂っていればサプリメントは必要ないだろう。私は「プロシュア」は買わない。

EPAの含有量:

  • さば1切れ(80g)     1.5g
  • まいわし(1尾 80g)  1.1g
  • さけ1切れ(80g)     0.4g

『がんに効く生活』でシュレベールは、次の場合にがんという武装集団を解体することが可能になるという。

  1. 免疫システムががん細胞に対して行動を起こすとき
  2. がん細胞が成長し、新しい領域を侵略するのに必要な炎症をつくりだすことを体が拒否したとき
  3. 血管が、がんの増殖に必要不可欠な栄養を供給することを拒否したとき

続きを読む "がんと炎症の関係" »

2010年2月 8日 (月)

ゴリラを買いました。

ゴリラを飼いました。いや、買いました。実はゴフリラー(モデル)のチェロMymy_2000img244を買いました。

念願のアンティークチェロを入手。このチェロはカザルスが愛用していたことで有名で、カザルスは、「私にはストラディバリウスはもったいない。ゴフリラーで十分」だと言ったとか。

購入するのをずっとためらっていました。再発・転移すれば余命はせいぜい半年です。「次の検査で異常がなければ・・・」ということを何度も繰り返して、2年半が経ちました。まだ「再発したらこのチェロは無駄になるなぁ」という思いがありますが、そんなことを言ってたらいつまで経っても買えないということに気づいたのですね。たとえ5年経ったとしても転移の可能性はゼロではないのですから。「今やりたいことを、今できるなら、やってしまう」これががんに勝つ極意かもしれません。

チェロ製作の歴史では、主流のクレモナのストラディバリウスなどに対抗して、1690年代にベニスでの制作が始まります。そのなかの最も優れ_mg_2306た制作者がマッテオ・ゴフリラーとドメニコ・モンタニャーナです。ゴフリラーのチェロは現在世界で21台残っていると言われており、日本にも数台あるようです。オートバックスセブンの代表取締役住野公一氏も1台所有していて、「びっくりするほど高かったと・・・)。長谷川陽子さんも愛用している。(長谷川さんは「ゴリラちゃん」と呼んでいるようで、まだ半分は銀行のもの、と仰っています。ローンが残っているのですね。)

どれくらいするのか分からないが、億の付くあるいはそれに近い金額だろうなぁ。もちろん私のはコピーモデル。某楽器商が所有しているゴフリラーを厳密に採寸して2009年に制作したものです。

私が買った業者は、半額現金、残りは払える月に1万円でよい。ローン金利は不要です。払えないときは連絡をください。という良心的というか太っ腹な方です。ローンなんていう”近代的装いの高利貸し”などなかった昔の商売は皆こんな感じでしたよね。いわゆる掛け売りです。気に入らなかったら返品も可能。それに消費税分を負けてくれて、さらにチェロケースまで付けてくれました。いい買い物(かどうかは、しばらく弾いてみなければ分かりませんが・・・)をしました。

ストラディバリウス型のチェロと2台を弾き比べました。ストラディバリウス型は明るくつややかな音、メリハリも効いて輪郭がはっきりしている。一方のゴフリラーは、ずんと来る低音、中音域までの音に愛着があり、郷愁感がある。全体のバランスも良い。見た目もオールドかと思うような落ち着いた色合いです。ひと言で言えば「チェロらし_mg_2307い音」。その場でこちらに決めました。

サイレントチェロとは違う楽器かと思うほど音に差があります。何よりも体に響く低音の振動が違う。軽々と鳴ってくれる。弦の動きに対する反応が素早い感じがする。気に入ってます。(顔を切り取ったのは故意ではない。傾きを修正したらカットされてしまった。ま、いっか。)

続きを読む "ゴリラを買いました。" »

2010年2月 4日 (木)

「がんペプチドワクチン療法」は夢の治療法か?(5)

【情報を追加】最下段にペプチドワクチンに関する情報を追加しました。

一週間ぶりの更新です。年末にも書いたとおり、3月中旬まではめっぽう忙しく、ブログの更新は後回しの処遇を受けています。しかし、先週東京大宅医科学研究所の中村祐輔先生の講演はぜひ書いておかなければと、筆(キーボード?)を執りました。

ガンペプチドワクチンとは何か、どのようにして効果が期待できるのかなどの点は、『ガンペプチドワクチン療法』中村祐輔著に書かれていることであり、このブログの11月22日などで詳しく紹介しているのでそちらになる。
著書では生存率曲線が紹介されているのは県立和歌山医大の膵臓がんのデータだけであったが、今回の講演では大腸がんの生存率曲線も紹介された。順に内容を紹介する。
*****************************************
●癌ペプチドワクチンの作用機序
作用機序として3点がある。それらが科学的に証明されることによってこのワクチンが世間に受け入れられるかどうかが決定される。巷の「免疫療法」はこうした科学的証明が不十分なまま「自由診療」という形で実施されているが、そのような非科学的な態度を取るつもりはない。

1. 樹状細胞の提示されたペプチド抗原によるCTLの刺激
   ペプチドワクチン療法を受けた患者血液中におけるペプチド特異的CTLの増加があるか?

    

登録症例888名のうち、

  • 43%でがんが憎悪(効果なし)
  • 42% がんの進行が(2~35ヶ月)抑制された
  • 15% がんの縮小が見られた

によって、CTL(細胞障害性T細胞)が誘導されていると推測できる

2. 増加したCTLのがん組織へのホーミング
   ペプチドワクチン療法を受けた患者の癌組織内におけるCD8陽性T細胞の増加が認められるか?

国立がんセンター東病院の症例により、患者の肝臓内腫瘍の周りにCD8陽性T細胞の浸潤が顕微鏡で確認できた。

3. CTLの増加の細胞障害性物質(パ-フォリン・グランザイム)によるがん細胞への攻撃
   ペプチドワクチン療法を受けた患者血液から分離・増殖させたペプチド特異的リンパ球によるHLA拘束性・抗原分子特異的な細胞障害活性の検出ができるか?

患者から採取した血液中のリンパ球が、試験管内で食道がんの細胞を攻撃し、がん細胞が破裂することが確認できた。

以上のように、間接的ではあるが(というのは、実際の患者のがん細胞を攻撃しているCTLを確認することは、人体実験でもしない限りは難しい)ペプチドワクチンによってCTLが誘導されて、がん細胞を攻撃しているのが確認できたとしている。

●生存率曲線
下は大腸がんの生存率曲線である。説明の必要もなく、ワクチンの効果は絶大である。パニツマブ、BSCのMST(生存期間中央値)は6ヶ月ほどであるのに、ワクチンのそれは14.7ヶ月と延びている。
1

県立和歌山医大の膵臓がんの最終的なデータが示された。『がんペプチドワクチン療法』では途中のデータであったが、今回は全員の死亡後のデータとなっている。

2_3

ただし、症例数がn=15となっている。著作ではn=18であった。この3人は前治療がある患者であり、それを除いたデータである。11月22日のブログのデータには赤(実線)と青(点線)の両方のグラフがあり、青の曲線を今回は採用している。
対照群となるGEM投与群のデータは和歌山医大における63例であろう。しかしこれは対照群としては適当だろうか? GEMのMSTが5.65ヶ月とは悪すぎるのではないか? 今回も日本膵臓学会「膵癌登録報告2007」のデータ(下)と合成してみた。

3_3
4_2
書籍では「ジェムザール単独によるMSTは6ヶ月前後であり」とあるが、対照群が違えばMSTだって違ってくるだろうから、悪いデータを好んで持ってきたということではないだろう(と思う)。しかし、合成したグラフを見ると差が歴然としている。私のデータ選択ミスなのか?

しかし、この合成したグラフを見ても、がんペプチドワクチン療法はいずれの点でも上側にある。ということは、最悪でも「悪くなるはずはない」ということだ。

●中村先生が強調していた点をふたつ。
抗がん剤で免疫力が落ちている患者ではワクチンの効果は小さい。できれば再発予防に使うのが効果的だと思うが、臨床試験の設計ではジェムザールとの併用でしか認めていただけない。

下の図は患者のリンパ球がワクチンに陽性かどうかで分けたものである。リンパ球がワクチンに反応する(免疫力が弱っていない)患者の成績は非常によいことがよく分かる。抗がん剤を投与して「もう打つ手がない患者」が今回の対象である。従って免疫力が残っていない患者も多いわけである。このワクチンは手術直後などのがんの初期に使えば、より効果的であるはずだ。
5_2

もうひとつは政治の問題。日本のがん研究費は少なすぎる。国民の命を保証する予算になっていない。「ものからヒトへ」と公約したが、実際は公約にはほど遠い現実だ。

膵臓がん患者、他のがん患者のためにも、このワクチンの実用化を期待したい。

(おわり)

続きを読む "「がんペプチドワクチン療法」は夢の治療法か?(5)" »

« 2010年1月 | トップページ | 2010年3月 »

サイト内検索
ココログ最強検索 by 暴想

膵臓がんランキング

  • あなたは独りではない。闘っているたくさんの仲間がいます。

膵臓がん お勧めサイト

アマゾン:商品検索

がんの本「わたしの一押し」

スポンサーリンク

がんの本-リンク

  • がん患者が選んだがんの本

サイト内検索

ブログ村・ランキング