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2010年2月25日 (木)

『代替医療のトリック』サイモン・シン

代替医療のトリック 代替医療のトリック
サイモン シン エツァート エルンスト Simon Singh

新潮社  2010-01
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ビッグバン宇宙論 (上) 』『フェルマーの最終定理―ピュタゴラスに始まり、ワイルズが証明するまで 』『暗号解読―ロゼッタストーンから量子暗号まで 』のサイモン・シンが代替医療を科学する、これだけで迷わず買った本です。

本書と扉を開くととすぐに「チャールズ皇太子に捧ぐ」という献辞がが飛び込んできた。チャールズ皇太子は統合医療財団を設立し、「代替医療にもっと研究資金を-代替医療は研究に値する」と題する論文をタイムズ紙に寄稿している。この献辞は著者らの皇太子に対する辛らつな皮肉です。

この本のもうひとりの著者であるエツァート・エルンストは永年代替医療に関わってた代替医療の専門家であり、代替医療分野での世界初の大学教授となった人物です。このふたりが「代替医療は、病気の治療として効果があるのだろうか」という疑問に、何の先入観も持たずに科学的に追求し、"真実を探る"ことを目的として書いています。(というふれこみです)

第一章は『科学的根拠にもとづく医療(EBM)』の考え方、その歴史の説明に当てている。なぜなら著者らは代替医療をEBMに沿って検証しようとしているからであり、そのためにはEBMの考えのなかった時代の医療がどのようなものだったかを明らかにする必要があると考えているからです。例として瀉血を取り上げています。瀉血が広まりだしたのは古代ギリシャのころであり、19世紀の初頭まで中心的な医療行為でした。アメリカの初代大統領ジョージ・ワシントンが「13日の金曜日に引いたちょっとした風邪」をこじらせて、4回の瀉血による失血死をしたことはあまりにも有名です。水夫の壊血病がビタミンCの欠乏によるものだということを歴史上初めての「対象比較試験」で明らかにしたジェイムズ・リンドの業績は忘れられていたのですが、1809年にアレクサンダー・ハミルトンが瀉血が効果のある治療法なのかどうかという患者をランダムに振り分けた対象比較試験を行ないます。その結果は明白でした。瀉血を受けた患者の死亡率は瀉血を受けなかった患者のそれの十倍にのぼったのです。

これらの先駆的な試験により明らかになったのは、「科学的根拠に基づく医療」が生まれる前の医療は、病気から回復した患者は、治療のおかげで回復したのではなく、治療を受けたにもかかわらず回復したのである。また、ナイチンゲールは社会統計学の知識を使って、病院の衛生状態、環境の改善が医療における重要事項であることを証明した。こうして今日「科学的根拠に基づく医療(EBM)」によりたくさんの人命が救われているのだということが最初に強調されています。

著者らはEBMの考えに従って、主立った代替医療について考察します。

鍼、ホメオパシー、カイロプラクティック、ハーブ療法については詳細に検討し、それ以外の代替医療に関しては要約と結果を示すだけにしています。

鍼療法については、擬似鍼が発明されたことにより二重盲検法による比較試験が可能になったことを示し、気・経路が解剖医学的に何の根拠もないと断言するのです。1972年のニクソン訪中に先立つキッシンジャーの訪中に同行したニューヨークタイムズ記者レストンが自身の体験を書いた「北京での手術体験」はアメリカにおいて鍼に対する関心を呼び起こしたが、著者らは「中国における外科手術デモンストレーションは、局所麻酔や大量の鎮静剤などが使われており、まやかしだった可能性が極めて高い」と指摘する。2003年にWHOが鍼治療に好意的な報告書を出したことを「虚偽誇張があり、政治的判断が加味されている」と、手厳しい。

コクラン共同計画のレビュー、いわゆる「コクラン・レビュー」によれば、鍼治療の効果について、

  1. 鍼の有効性は臨床試験から得られた科学的根拠によっては指示されない。
  2. 臨床試験がずさんであるため、鍼の有効性について確かなことは何も言えない。
  3. 研究方法がずさんで件数も少ないため、系統的レビューを行なうことさえできない。

とし、鍼治療に関しては「プラセボ効果」以上の治療効果はない、という結論になっている。

ホメオパシーについては更に手厳しい。ハーネマン自身は有能で誠実な医者であったことは認めている。ハーネマンは当時医療の主流だった瀉血を施すことはしなかったし、瀉血を「人殺し」だと激しく批判したのである。しかし、彼の人格と、その確立したホメオパシーとは別の問題である。科学的に検討されなければならない。ホメオパシーについては、このブログでも何度か取り上げているので、これ以上は触れないが、有効性を示す科学的根拠は一つもなく、逆に効果がないことを示す科学的根拠は多数ある、ということです。

  • カイロプラクティック
  • ハーブ療法
  • 代替医療の食餌療法-ゲルソン療法(本ではゲーソン療法としている)
  • アーユルベーダ
  • アレクサンダー法(楽器演奏者の間で静かなズームのようです)
  • アロマセラピー
  • オステオパシー
  • 催眠療法
  • サプリメント-唯一「魚油」が優れたサプリだと。「がんと炎症との関係」参照
  • 指圧
  • シュタイナー医療(人智学医療)-ミヒャエル・エンデが推奨している
  • 瞑想(メディテーション)
    「ガンなどの重い病気に、瞑想が直接的影響を及ぼすかのように言うものもいるが、そうした主張を裏付ける科学的根拠はない」

等が取り上げられています。

最期にアンドルー・ワイルに関する記述を紹介します。

チョプラや、彼と同業の医療グルたちが、代替医療の複音を広めるようになって十年以上になる。医療グルは大きくメディアに取り上げられ、人気のテレビショーに出演し、膨大な人数の聴衆に向かって講演を行なってきた。否定仕様のないそのカリスマ性に、実業家としてのプロ意識が加わって、絶大な影響力を持って大衆に代替医療を普及させてきた。こういう医療グルたちは概して、それでなくても誇張された誤った主張に説得力を与えている。
たとえば、アメリカで最も成功している代替医療の推進者、アンドルー・ワイル医師は、・・・・・彼のアドバイスのなかには、運動をしましょうとか、タバコは控えましょうといった有益なものもある。しかしそれ以外の多くのアドバイスには意味がない。意味のあるアドバイスとそうではないアドバイスとの区別がつかないことだ。たとえばワイルは、2004年に出版された『ナチュラル・ヘルス、ナチュラル・メディシン』という著作のなかで、関節リウマチに処方薬を使うのはやめるようにさかんに説いた--薬のなかには、明らかに病気の経過を変え、身体が不自由になるような変形を防止してくれるものがあるというのに。
ワイルは、効果のある通常医療をしばしば中傷する一方で、ホメオパシーをはじめ効果のない代替医療を奨励する。そして病気をもつ人たちに向かって、さまざまな代替医療を試してみて、自分に合うものを見つけようなどとアドバイスする。
ワイル博士の、「実地に試してみる」という哲学は、代替医療の分野で本を出している著者の多くに共通する立場だ。

代替医療に懐疑的な患者、もしかすると効果があるものだって存在するのではと思っている患者、一読の価値のある著作だと思います。少なくとも、代替医療について何かを言おうとしたとき、無視してはいけない著作の一つには違いないでしょう。

私もワイル博士の主張には共感する部分もたくさんありますが(実際彼の推奨するマルチビタミンを摂っている)、オステオパシーを何の疑問もなく、彼の実体験からの結論として書いていることには首をかしげてしまいます。

ただ、サイモン・シンがEBMを万能のように取り上げている点には疑問も残ります。遺伝子解析による「がんの個別治療」や「テーラーメイド医療」が提唱されている現在、統計的な比較試験がどこまで適用できるのだろうかという問題があるからです。

『21世紀の医療を担うのは日本ホメオパシー医学会だ!という気概をもって、エネルギー場の時代を邁進して いく所存です。』と述べている日本ホメオパシー医学会理事長の帯津良一先生には、ぜひ読んで欲しい本です。せめて帯津三敬病院においてホメオパシーを対象 として「ランダム化比較対象試験」の結果を発表してください。多くの著書のある帯津先生ですから、こんなことはたやすいことに違いないと思うのです が・・・。


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コメント

はじめまして


私の個人的実感では
西洋医学も代替医療もどっこいどっこい
現代医療が信頼に足るものとは
とても思えませんがね

だって現代医療って
所詮対症療法ですよ

キノシタさま

アドバイス、ありがとうございました。
 前回、GEMを継続するかでもアドバイスを頂きましたが、結局2月から5月まで(つまり術後一ヵ年間は)
化学療法を続けることにいたしました。私の場合は、白血球と血小板の値が下がることを除けば副作用らしい
ものがでないこと、あとは家族の希望もあって、またキノシタさんのお考えなども参考にさせて頂き、そのような
結論に至りました。
 昨日、術後ほぼ10ヶ月後のダイナミックCT検査の結果がでましたが、画像上は異常が見つからず
一安心しました。GEMの投与もしてきました。この病気と診断されてまだ11ヶ月。もうじき術後丸3年になろうと
するキノシタさんでもいまだに最大限の療養を心がけておられるのを見て、なんとか後に続きたいものだと思って
おります。

ところで、Placebo Effect(偽薬効果)ですが、このブログに立ち至るまで聞いたことのない言葉でした。
調べてみますとPlaceboはラテン語訳聖書で初めて使われた言葉で、ラテン語読みだと「プラセボ」、
英語読みだと「プラシーボ」。英語に訳せばI shall please(私が喜ばせてあげます)という意味で、
この場合、Iというのは(患者ではなく)治療者のことを指すようです。
>プラシーボは相手の医師を信頼していなければ効果が出ないでしょうが。
キノシタさんから上記のコメントをいただきましたが、相手の医師というのがO先生です(笑)。
人格はとてもいい方ですが、もう第一線を退かれた食道がんの専門医だったこともあり、私(たち?)の病気に
ついてはどこまでお詳しいかは分かりません。仰るとおり、まさに「気は心」で残っているレメディを舐めて」みることに
します。

それにつけてもこの病気の医師選びは難しいです。時間をかけて名医を探せる病気ならともかく、診断だけで頭が
真っ白になっている上に、時間的猶予のなければ、住まいしている場所の制約もあり、周りに尋ね回ることもできかねます。
手術が出来る場合に限って言えば、とりあえず以下のような段取りになるかと思っています。
1.手術例の多い、所謂High Volume Centerでできればサードオピニオンまで聞く・・・・
  ただし、大きすぎて全く小回りが利かない例(悪く言えば患者がモノ扱い)も耳にします。
2.そうした大病院の場合、医者の数も多いわけですから、そのなかで手術の腕のいい医者を執刀医(術者)に見つけること
  が次に重要
3.術後は、執刀外科医が腫瘍内科医に変わるわけで、そこで求めらるものは手術の場合とは異なる

私の場合、同じ病院でしたが、手術前、手術者、手術後で主治医が代わりました。不可避的な理由もあったのですが
病院側の配慮でそうなった場合もありました。
・よく患者の希望を聞き入れや質問にもちゃんと答えてくれる
・ところどころで励ましや勇気づける言葉をくれる
・何よりも専門知識が豊富
・手術の腕がいい
・代替療法などについても上から目線ではなく、忌憚のない見解を述べてくれる
・一緒に病気に立向かってくれる姿勢がある
・セカンド、サード・オピニオンへの紹介状も嫌がらず書いてくれる
思いつくまま挙げてみましたが、その全てを満たす医者は(まず)いないと思います。
私自身は、病期(病期診断期、入院期(手術期)、通院期)によって結果的に
医師を変えたかたちになりましたし、手術を受けた病院以外でも3つのクリニックで
ときおり診察を受けています。
本当に、(間違いないとと思える、悔いはないと納得できる)医者選びは大変だ、というのが実感です。

今回も長々と失礼しました。

陶さんもレメディーをやってましたか。でも月4000円なら、それでプラシーボ効果が引き出せるとしたら、安いかもしれません。もっともプラシーボは相手の医師を信頼していなければ効果が出ないでしょうが。
ハローウィンのもじりとは知りませんでした。勉強になります。
「代替医療は他の治療法がないときに試してみるもの」という言葉もありましたね。私の場合は、再発・転移をさせないためということを考えると、ある意味「他の治療法がない」状態です。術後補助化学療法でGEMをやってるので、主治医も「やるべきことはやったよ」と言われます。しかし、患者としては「自分も治療に参加したい」という思いは誰にも共通のはず。
研究者・医師の代替医療に対する考えと、患者の対処法は違っても良いのだと思うのです。統計的には効果が少なくても、患者個人に効果がないとは必ずしも言えない。このあたりが難しい判断ですね。すべては「たまたま」ということ。正解はいつも霧のなかでしょうか。

ここに紹介されてましたSimon Sighn &Edzart ErnstのTrick or Treatment? (この書名は
ハロウィーンのときの子供が菓子をねだって回るときの言葉、Trick or Treat?のもじり)、
ホメオパシーのところを中心に読んでみました。ついでにシンの他の本も3冊流し読み
しました(笑)。

結論として述べられているのは
ホメオパシーに効果があるとすれば「プラセボ効果」にすぎず、ホメオパシー・レメディは
「ただの砂糖の粒」。

私もレメディーを舐め続けたことがありますが(一ヶ月で費用は4000円程度)、3ヶ月で辞めました。
O先生は齢70を超えられて、今は名誉院長職にあって、第一線の臨床医ではないと考えたほうが
いいと思います。
本(著書)や雑誌の執筆、講演、そして著名人との対談・・・こういったものにエネルギーを割くことに
生き甲斐を感じておられるようにお見受けいたします。
記事にあった、ハーネマンと同様、「O医師自身は有能で誠実な医者であった。ただし、彼の人格と、
推奨しているホメオパシーとは別の問題である。」ということになりましょうか。

1.外科切除手術
2.化学療法(抗がん剤治療)
3.放射線治療 (+重粒子・陽子線治療)
4.各種免疫細胞療法 (自己免疫療法含む?)
5.代替医療(漢方、温熱、ホメオパシー、びわ葉温圧、鍼灸、気功 etc.)
6.種々の代替療法(所謂健康食品の類)

1や2はBodyに特化 → 4くらいからMind にかかわり →5、6になるとBody、Mindを包摂したSpirit(気?)を重視。
Evidence-based Medicineが今4のところに到達しかけていますが、画期的な2の妙薬の誕生がすい臓がんでは
待ち望まれます。

日経のこの記事はどうなんでしょうか?
http://health.nikkei.co.jp/hsn/hl.cfm?i=20100304hk000hk

死亡率が高く有効な治療法もない膵癌(がん)の新しい治療標的として有望な癌遺伝子が特定された。
さらに、研究を率いた米メイヨークリニック・ジャクソンビル支部(フロリダ州)のNicole Murray氏によると、
この癌遺伝子を標的とする薬剤はすでに関節リウマチ治療薬として認可されており、結腸癌および肺癌に
ついても試験が進行中であるという。
 医学誌「Cancer Research(癌研究)」3月1日号に掲載された今回の研究では、癌遺伝子PKC-iota(PKCi)の
膵癌における役割を検討した。

読売新聞のメールマガジンで紹介されてから、興味深く読ませて頂いています。大変失礼ながら、勉強熱心で感心しております。
貴殿のお目にかなうかどうかは不安ですが、遺伝子治療に関して新しいサイトが立ちあがっています。
お時間の都合がつくならば、ぜひ、ご覧になってください。
すい臓がんに対しては、内視鏡を用いた投与法を採用しています。

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