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2010年10月30日 (土)

雨の休日

休日の雨は何となく落ち着いて、私は嫌いではない。晴れた日にはガラス窓を境にして、外と部屋の中が隔絶されて、天気がよいのに引き籠もりをしているような引け目を感じるが、雨の日には水滴のついたガラス窓さえも二つの世界を分けることができないかのような錯覚に陥る。往来の車の音も、雨の日にはあまり届かない。こんな日には遠慮なく読書と音楽に浸ることができる。

一週間 そんな雨の一日に、井上ひさしの『一週間』と浅田次郎の『終わらざる夏』を読み終えた。読み終えたが、ここにその感想を書くには私の腕は非力すぎる。ムリに書けば、逆に今の感動が薄れて嘘っぱちになりそうな気がする。井上ひさしは『吉里吉里人』の初版が出て依頼ずっと読み続けてきた作家であり、『東京セブンローズ』も戦争を扱った井上ひさしらしい作品であった。浅田次郎は『天切り松』シリーズや『きんぴか』シリーズで「小説は面白くなくちゃ」と得心させられ、『月島慕情』に納められた『シューシャインボーイ』では戦争孤児を描くことで現在の日本はこれでよいのかと問いかけていた。

終わらざる夏 上 『一週間』の舞台は抑留中のシベリア、『終わらざる夏』も最後の舞台はシベリア抑留であることは偶然とは思えない。小松修吉や翻訳者の片岡、医学生の菊池、歴戦の英雄・富永、浅井先生に静子、譲。戦争の犠牲者を数字ではなく、一人ひとりの生活、親も子もいる人間として書くことで、風化しそうな戦争を再び考え直させてくれる。彼らに対して胸を張って見せることができる日本になっただろうか。それとも60年経ったらもう彼らのことは忘れてよいのだろうか。

浅田次郎はこう述べている。

 占守島の戦いのことを知ったのは18歳、三島由紀夫が自決した直後に、なぜ三島は死を選んだのかを知りたくて入った自衛隊でのことだったという。そして本作の執筆には、「三島さんへの抵抗という意味もある」。
 「文学者としての三島さんは尊敬する」。だが、三島はペンを捨て、武器を取った。「文学者がそこまでの『表現』をしてよかったのか。僕は『戦争とはこういうものだった』と次の世代、未来に伝えることが小説家の使命だと思うんだ」

井上さんには『コメの話』「どうしてもコメの話』という、20年前のコメの輸入自由化に反対した著作がある。日本の水田は高度な「機械装置」であり、今コメを作っている水田には、同じ場所で弥生時代から連綿と続いた水田だってあるはずだという指摘には目を開かされた思いがしたものだ。工業製品を輸出する身代わりに日本の農業を壊滅させるかもしれない「TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)」なる言葉がいきなり登場し、マスコミは生産性の低い農業は犠牲になって当然という論調だ。これは「お国のために」との合い言葉で国民に犠牲を強いた、かつての歴史と同じではないか。井上さんが『コメの話』に書かれた20年前の指摘は、今でも色あせていないから驚く。

井上ひさしさん、浅田次郎さん。よくぞ書いてくれました。ありがとうございました。


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