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2011年4月24日 (日)

緑茶はがんに効くか?(2)

これまで分かっているデータから、がん患者は緑茶についてどのように対応すれば良いのでしょうか。緑茶に限らず、補完代替医療のすべてに対しても、私たちは時には正反対の意見や実験結果に遭遇します。今回の福島第一原発の放射線の影響についても同じように、専門家の間でも相反するようないろいろな意見があり、しかも少ない情報を元にして、私たちは判断をしなければなりません。

緑茶の効果と放射線の確率的影響(晩発障害)に共通しているのは、相手が「がん」だということです。一方はがんが治るかどうかであり、他方はがんになるかどうかという違いがありますが、対象は同じです。だから、緑茶の効果も放射線の影響も統計的にしか説明できません。そして緑茶に明らかな腫瘍縮小効果があるのなら、とっくに現代医療に取り入れられているはずですから、仮に効果があったとしてもわずかな効果だろうと思われます。また、放射線についても大線量では明確に影響があることが分かっていますが、問題になっているのは低線量の被ばくを継続して受けたときの影響です。がん細胞の成長にはさまざまな要因が関与しているのですから、あったとしても小さい効果を与える要因は、他の要因の中に埋もれてしまうことになるでしょう。つまり、信号があっても雑音の中に埋もれてしまうようなものです。

ここで、ICRP(国際放射線防護委員会)の放射線防護の基本原則(4月1日のブログに書いています)と、私の代替療法に対する基本方針を並べてみます。

  1. 行為の正当化
    放射線被ばくを伴ういかなる行為も、その導入が正味でプラスの便益を生むのでなければ採用してはならない
  2. 防護の最適化(ALARAの原則)
    社会的・経済的要因を考慮にいれながら合理的に達成できる限り低く(As Low As Reasonably Achievable;ALARA)」被ばく線量を制限すること。
  3. 個人の線量限度を超えてはならない
    職業人:100mSv/5年、ただし50mSv/年を超えないこと
                                 (年間死亡リスク=1/10,000)
    公衆:   1mSv/年      (年間死亡リスク=1/1,000)

私の代替療法を採用するときの基本的な考え方は、

  1. 重篤な副作用がないこと
  2. 理由もなく高価ではないこと
  3. ある程度のエビデンスがあること

です。重篤な副作用があれば、「行為の正当化」はできません。あたりまえですが、効果と副作用の損得を考えましょうということです。20mSv以上になる地域は逃げろ!と言われても、仕事はどうするのか?子供の学校は?介護老人を抱えている。家畜やペットがいる。つまり社会的・経済的要因を考える必要が生じます。これが防護の最適化です。代替療法も、効くかもしれないからといっても、長く続けるのですから、家計が破綻するような金額をつぎ込めません。高価なものは継続できません。経済的要因抜きに採用はできません。(代替療法の最適化)ついでに言えば、理由もなく高価なものは、ほぼ例外なくインチキだと思ってまちがいありません。また、異論はあるかもしれないが、一応の世界的に認められた線量限度があります。主として広島と長崎の被爆者の方々の疫学調査に基づいて線量限度が決められています。疫学調査による限度ですからエビデンスです。これが「ある程度のエビデンスがあること」に対応します。

原発事故による放射線被ばくでは、住民にはプラスになることはないのですから「正当化」はできません。CTの被ばくに比べて少ないとか言っている医療関係者はこの点をまったく理解していません。防護の最適化については、避難地域に指定されたが、生活を考えたら躊躇する、これはあたりまえのことです。この点も政府の姿勢は矛盾だらけです。緑茶の場合は、副作用もなく高価でもないのですから、1も2もクリアできます。

さて、一回目の記事で上げたように、緑茶に関するエビデンスはあの程度のものしかありません。がんの予防と肥満などにはある程度のエビデンスがありそうです。できてしまったがんについては『がんに効く生活』で紹介されているような内容がありますが、これも決定的なものとは言えません。(代替療法だから当然ですが)

カナダの分子医学研究所所長を務めるリシャール・ベリヴォー博士は、永年抗がん剤の作用するメカニズムを研究してきた人です。研究所が小児科病棟に移転したのを機に、小児がんの子供たちの姿を見て何とかしたいと思うようになります。そしてネイチャーに発表されたスウェーデンのカロリンスカ研究所の2人の研究者の論文に興味を持つようになります。その論文には、緑茶が既存の薬と同じ作用で血管新生を抑制する働きがあることを実証したと書かれています。しかも、一日に2、3杯の緑茶で十分だといいます。その直後、ベリヴォー博士は、膵臓がんに苦しんでいる友人レニーの妻から「ほんの少しで良いから、夫と二人過ごす時間が欲しい」という電話を受け取ります。博士は抗がん効果のある食物のリストを考案します。もちろんその中には緑茶も入っています。キャベツ・ブロッコリー・ニンニク・大豆・ターメリック・ラズベリー・ブルーベリー・ブラックチョコレートなどでした。レニーはそれから4年半生きたのでした。

緑茶に多く含まれるカテキン(ポリフェノールを多く含んでいる)、その中でもEGCG(没食子酸エピガロカテキン)には、各細胞の表面にある、がん細胞が組織内へ侵入していくのを許可するスイッチ=受容体をふさいでしまう働きがあります。新たな血管を形成する受容体もふさぐことができる。こうしてがん細胞が炎症性因子を使って送ってくる命令に答えることができなくなります。ベリヴォーらはこうしたEGCGの働きをさまざまながん細胞で試験をし、明らかにしてきました。

緑茶の抗がん作用は、このような機序で起きると思われますが、現状ではそれが十分なエビデンスとして認められるには至っていません。しかし、これまでに何度か書いたように、がんも生命も「複雑系」です。EGCGの機序が分かったとしても、その他のたくさんの因子が相互に作用しているのががん細胞です。EGCGが血管新生を抑えるから、がん細胞が縮小すると、単純な要素還元的な説明通りにならないのがあたりまえです。

しかし、「がんと自己組織化臨界現象」で書いたように、緑茶によってほんの少し条件が変化すれば、複雑系においてはそれが大きな変化に繋がることがある。初期値の少しの違いで、その後のふるまいはまったく違ったものになることもある。砂山モデルの比喩で言えば、緑茶が砂山の形状を変えることもあり得るのです。

つまり、複雑系思考でいうなら、”緑茶でがんが治るか?”という問題の立て方がそもそもまちがっています。緑茶は複雑系にどのような影響を与えるのか? それに加えてターメリックとブラックチョコレートを同時に摂ったらどうなるのか?多くの因子がどのように関連し合っているのか?これが知りたいことです。しかし、残念ながらまだ私たちの知識はその答えをえるまでには至っていません。しかたがないから、せいぜい統計的処理をして、ごくわずかな違いを検出しようとしているのです。ごくわずかの違いが検出されたら、それを試してみれば良いのです。試すためには重篤な副作用があったら困ります。高価でも継続できません。

がんが治るというエビデンスのある代替療法は一つもありません。せいぜい試験管レベル・マウス実験、あるいは小規模でのお互いに矛盾する臨床試験結果があるだけです。しかし、がん患者はエビデンスが揃うまで待ってはいられません。時間がないのです。完全なエビデンスは、いつまで経っても確立できないと思います。

複雑系思考に立てば、いまあるエビデンスでも代替療法として十分に活用することができると考えます。「効く可能性があるのだから、(複雑系が良い方向に動けば)私のがんにも効果があるはず」と考えてお茶を楽しむ、そんな付き合い方が良いのではないでしょうか。私は、三つの代替療法の基本的考え方に合格したものからいくつか選んで、平行して続けています。それらの相互作用による効果を期待しているからです。

   緑茶は、砂山の形状を変えるにちがいない

追記:今の福島原発からのセシウム137などの放射能が降り続けば、お茶に含まれる放射能による発がん作用が、EGCGのがん抑制効果を上回ることもありそうです。緑茶をたくさん飲んでがんを退治するつもりが、逆にがんを育てるということにもなりかねない。抗がん作用のある食物は限られていますが、放射能はありとあらゆる食物に平等に降り積もります。原発事故が起きれば、がん患者が代替療法に期待した効果なんかは、簡単に帳消しにしてしまうのだと、今頃になって分かりました。


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