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2011年9月

2011年9月29日 (木)

大阪府立成人病センターがEMCC2011で発表

大阪府立成人病センターが欧州癌学会で発表した内容が「癌エキスパート」に掲載されています。膵臓がんではすばらしい治療成績を残している病院であり、以前から術前放射線療法でも知られていました。今回はGEM+TS-1+放射線で、局所進行切除不能膵腺癌をダウンステージングさせて手術を適用するという治験の発表です。1年生存率76%という成績です。

局所進行切除不能膵腺癌へのゲムシタビン、S-1、放射線療法併用で高い抗腫瘍効果の可能性

局所進行切除不能膵腺癌に、ゲムシタビン、S-1、放射線療法(CRT)を行うことで高い抗腫瘍効果が得られる可能性が明らかとなった。フェーズ1/2試験の結果、示されたもの。1年生存率は76%になり、生存期間中央値は未到達だ。成果は9月23日から27日までスウェーデンストックホルムで開催されたThe European Multidisciplinary Cancer Congress(EMCC2011)で、大阪府立成人病センターの井岡達也氏によって発表された。

現在、局所進行膵腺癌を対象に、CRTと同時にゲムシタビン、S-1を投与する群と、ゲムシタビン、S-1を投与する110人規模のフェーズ2試験を既に開始しているという。評価ポイントは2年生存率。

井岡氏らは、局所進行切除不能膵腺癌を対象にゲムシタビン、S-1、放射線療法(CRT)という最強と考えられる治療を行いダウンステージングさせ、切除可能にして生存期間を延長させることを目指して、今回の試験を行った。

試験の結果、奏効率は52%、腫瘍制御率は81%、1年生存率は76%、生存期間中央値は未到達という極めて良い結果が得られた。血液学的、非血液学的副作用はほとんど忍容できるものだった。

難治がんと闘う―大阪府立成人病センターの五十年 (新潮新書) 大阪府立成人病センターのことは昨年の9月にこちらで紹介しました。また、大阪日日新聞の記事もまだ閲覧可能です。

切除不能が手術に持ち込めるのは、膵臓がん患者にとっては大きな希望なのですね。重粒子線・陽子線治療を選ぶか、手術が可能になる可能性にかけるか、迷うところではないでしょうか。

 

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2011年9月28日 (水)

腫瘍マーカーの試薬取り違え

国立がん研究センター東病院で、4年間にわたって、腫瘍マーカーに使う試薬をよく似た名前のものと取り違えていたと、産経新聞が報道。

 国立がん研究センター東病院(千葉県柏市)の臨床検査部で、平成21年までの4年間にわたり、がんの発生を確認する「腫瘍マーカー検査」に使う「試薬」に、本来使うべきものとは異なるものを使用、少なくとも627件の検査が行われていたことが27日、関係者への取材や内部資料から分かった。誤った検査結果は、そのまま医師に伝えられており、その後の患者に不必要な検査などを強いた可能性がある。厚生労働省は同病院から事情を聴き始めた。病院が立地し、調査権限を持つ柏市も立ち入り検査を検討している。
 関係者によると、臨床検査部内では試薬の誤使用を19年の時点で把握していたにもかかわらず、事態を公表することなく、さらに2年間同じ試薬を使用し続けていた。他にも、検査結果が正常か異常かを判断するための「基準値」が、複数にわたり誤って設定されて運用されていたことも判明。がん治療の拠点病院がずさんな検査をしていたことで、原因究明などが求められそうだ。

これでは臨床検査技士としての基本的能力が疑われます。それ以上に事実を患者にも隠していたことは、命を預かる医療機関としての自覚が全くない。検査には誤差はつきもの、人のミスもゼロにはできません。これまでにも別の患者と検体の取り違えは幾度も報道されていますが、氷山の一角なのでしょう。このようなこともあるから、腫瘍マーカーの値や検査結果に「一喜一憂しない」で、じっくりと考える必要があります。

話題が少し違いますが、次のような問題を考えてみてください。

40歳から50歳までの自覚症状のない女性が乳がんにかかっている確率は0.8%である。また乳がん患者が、マンモグラフィー検査で陽性になる確率は90%である。乳がんではなかったとして、それでも検査結果が陽性になる確率は7%である。さて、検査結果が陽性と出た女性が、実際に乳がんである確率は何%か?

分からない? でも心配は要りません。ドイツの平均して14年の臨床経験のある医師24人に同じ質問をしたところ、正解できた医師は2人だけだったのです。一番多い答えは90%です。確率で説明されると混乱しますが、次のように頻度で考えれば迷うことなく計算できます。

  • 10000人のうち、80人が乳がんにかかっている
  • この80人のうち72人は検査で陽性となる
  • 乳がんではない9920人のうち、695人は、やはり陽性になる

したがって、陽性と出た女性が乳がんである確率は、72÷(72+695)=9.4%となる。本当に乳がんなのは、10人に1人の割合です。

90%と9%、ずいぶん大きな勘違いですね。90%と考えるのは、「乳がんであったときに陽性となる確率」と「陽性だったときに乳がんである確率」を取り違えているわけです。ドイツだけではなく、日本の医師でもこのように勘違いしている先生が多いのではないでしょうか。

これはベイズの条件付き確率といわれるものです。陽性という検査結果の起きる確率は、病気の起きる確率に影響されるのです。この例では図で示した「感度」と「陽性的中度」を取り違えているとも言えます。通常病院では「感度」のことしか言いません。しかも、「陽性と出たら90%は癌だよ」と、誤った伝え方をします。それはそうですよ。医師24人に2人しか正解はいないのですから。

東病院の例のように、悪質な検査ミスがあればさらに検査の信頼度は落ちますね。

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マンモグラフィー検査を受けることにより、9920人のうち4人が新たに乳がんになると考えられています。これは検査時の年齢が低くなればなるほど急激に多くなります。さらに精密検査でCTだPETだとなれば、9920人の方の被曝線量はますます増えます。

癌の早期発見、早期治療が必ずしも正しいとは限らない理由です。山田邦子は「毎年定期的に乳がん検診を受けましょう」とアピールしているようですが、これは異常です。乳がんではない人に乳がんになる確率を増加させることになります。メリットとデメリットを、リスク(確率)をしっかり判断して検査を受けるか受けないか判断すべきでしょう。

以上の論評は、自覚症状のない集団検診の場合です。何らかの自覚症状がある場合にはあてはまりませんが、条件付き確率の考え方については同じです。

【参考図書】

数字に弱いあなたの驚くほど危険な生活―病院や裁判で統計にだまされないために たまたま―日常に潜む「偶然」を科学する

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2011年9月27日 (火)

「逆システム学」から癌を考えてみると・・・

児玉龍彦氏が、7月27日の衆議院厚生労働委員会において参考人として意見陳述した内容はすでに紹介したし、ネットでもマスコミでも話題になっている。国会で発言したチェルノブイリ膀胱炎や甲状腺がんのエビデンスに関する内容が、「逆システム学の窓」と題したエッセイで閲覧できる。

Vol.28「チェルノブイリ原発事故から甲状腺癌の発症を学ぶ」
Vol.41“チェルノブイリ膀胱炎”―長期のセシウム137低線量被曝の危険性

特集のタイトルとされた「逆システム学」は聞き慣れないが、岩波新書に『逆システム学―市場と生命のしくみを解き明かす (岩波新書)』との書名で、金子勝氏と児玉龍彦氏の共著がある。そこには、「近代科学における要素還元論と全体論という不幸な分裂を乗り越えてゆくために、逆システム学という方法を提唱することにたどりついた」とし、

まず筆者たちは、従来の要素還元論と全体論の分裂に対し、個と全体を結ぶ中間領域にある制度、調節制御のしくみに注目した。そしてそのしくみは<制度の束>と<多重フィードバック>によってできていると規定した。

実際、多重フィードバックが壊れてしまうと市場経済も生命体も維持することはできないからだ。

ところが、要素還元論は、この市場経済や生命体の本質である、制度の束と多重フィードバックを解析する方法を持っていない。

その点では、もう一方の全体論の系譜にある構造論や複雑系論も同じだ。筆者たちは、無前提的に本質を定義し、システムを構成する全体論も批判する。それでは要素還元論と同様に、市場経済や生命体の本質にせまることはできないからだ。

と、「逆システム学」を提唱した理由を挙げる。いわゆる三体問題、太陽・地球・月が相互作用する場合、ニュートンの運動方程式を厳密に解析的には解けないのであるが、それでも宇宙飛行士は月に着陸することができる。それは微細な誤差は無視してもかまわないと、経験的に知っているからであり、誤差が大きくなれば修正しながら飛べば良いからである。

シグナルとノイズの問題、すなわち、経験的に無視していい誤差なのか、重要なシステムの差異なのか、が重要な課題となる。この答えは、実験や治療、経済活動や経済政策における人間のシステムへの介入、働きかけへの結果が鍵となる。システム全体は不可知の領域を含みつつも、働きかけへの反応の予測ができれば、正しい政策、治療法の基礎となっていく。
システム全体をモデル化するような「複雑系」のような議論ではなく、システム全体はわからない段階でも、部分的に理解できている制度や制御のしくみをもとに、ある政策や治療の含みうる問題点を予測しようとする試みが逆システム学なのである。

児玉氏の国会での意見は、このような逆システム学の考えから行なわれたものだ。チェルノブイリ膀胱炎といわれる、膀胱への低線量長期被曝により、前癌状態が観察されたという福島博士らの研究では、チェルノブイリ住民の尿中セシウム濃度は6Bq/リットルであった。いま福島の女性の母乳からは2~13Bq/kgというほぼ同じ濃度の放射性セシウムが検出されている。疫学的にはまだ証明されていなくても、この事実がシグナルであり、システム全体を予想して将来起こり得ることを推測できるのである。9月14日の東京新聞「こちら特報部」には、その福島博士が登場して、今から対策を立てれば「福島膀胱炎が起きないようにすることは十分できるはずだ」と述べていた。山下俊一氏らのように「甲状腺がん以外の癌が増加したというデータはない」というエビデンス至上主義=要素還元論ではなく、典型的なデータからシステム全体を類推すること、言い換えれば、「早すぎる警告」をとらえて「予防原則」に立った対策が必要だということである。

新興衰退国ニッポン』の「おわりに」には次のように書かれている。

リスク社会においては、近代実証科学はかえって有害な役割を果たす場合があることに注意を喚起した。そして、むしろ統計上の5%のはずれにこそ意味があると述べた。このはずれの5%に当たる「異常事態」が頻発する時こそが重要なのである。
自然現象であれ社会現象であれ、今や大きく非線形的に変化する、複雑な変化に直面している。一見すると、大きな変化は、複雑で多数の要因が重なり合っているように見える。だからといって、それが分析できないわけではない。異常な事態を病理の予兆と考えれば、異常な事態によって本質的なメカニズムが引き出されてくるのが垣間見えてくるからである。

癌の生存率曲線において、必ず右端に長く延びた曲線となる。いわゆる”恐竜の尾:ロングテール”である。この統計上のはずれである5%になることが、我々がん患者の願いである。5%の中には自然治癒などといわれる症例もあるはずだ。逆システム学でいう典型的なシグナルは、自然治癒、驚異的回復、自然緩解であろう。このような症例は、体内のまだ不可知の”生体内システム”の結果として偶然現われたものではないか。あるいは、『がんに効く生活』に紹介されたデータにもそうしたシグナルがあるはずではないのかと考えられる。

分子標的薬であっても、癌細胞の関係するたくさんの情報経路、全システムのほんの一部に対しての薬である。人間の遺伝子の98%は調整系の遺伝子であり、そのごく一部に作用してみても、システムの全体がどのような反応をするかの予想が難しい。副作用の少ないはずの分子標的薬に思わぬ副作用が現われる道理である。

「がんは複雑系」だから、たくさんの要因が複雑に重なり合っている。その全システムを知るまで癌患者は待ってはいられない。臨床的に得られた、まだエビデンスとは言えないようなデータを使って、宇宙飛行士が月に着陸するように、癌患者も軌道修正しながら癌に対峙するしかないのだろう。

疫学的調査を待っていたら手遅れになるという児玉氏の指摘は重要であるが、しかし、水俣病などの過去の公害事件では、それ以上に政府の立場に立った医学者の役割が大きかったことを忘れてはならない。ある程度のエビデンスが揃った後でも「科学的に実証されていない。メカニズムが明らかではない」として水俣病が有機水銀によるものだと認めるのに数十年かかった。この問題を津田敏秀氏が『医学者は公害事件で何をしてきたのか』で論じている。ここには、水俣病裁判において、情報バイアスを「マスコミによる情報操作」と勘違いしている国の代理人、医学者が疫学の専門家として出てくる。放射線について、にわか勉強した「放射線の専門家」が登場する現在の状況と酷似しているのに驚いてしまう。

逆システム学―市場と生命のしくみを解き明かす (岩波新書) 新興衰退国ニッポン (現代プレミアブック) 内部被曝の真実 (幻冬舎新書) 医学者は公害事件で何をしてきたのか

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2011年9月24日 (土)

吉村昭の闘病記『紅梅』

吉村昭の作品で印象に残っているのは『長英逃亡』です。高野長英は開国を唱えて幕府の政策を批判し、蛮社の獄で入牢するが、火事に乗じて逃亡。顔を硫酸で焼いて人相を変えて逃亡を続ける。夫人の津村節子による『紅梅』には、吉村昭が『長英逃亡』を執筆しているときには、長英になりきって夜中にうなされていたと、その様子も書かれています。

紅梅紅梅』は、小説の形をかりてはいるが、膵臓がんで2006年7月に亡くなった吉村昭と家族の壮絶な闘病記になっています。舌がんの治療中のPET検診で膵臓がんが見つかった。腫瘍は膵体部にあり、幸い早期の発見だからということで手術をするが、開けてみたら膵臓の全体に小豆のような腫瘍が散らばっており、結局は膵臓全体と十二指腸、胃の半分を取る膵頭十二指腸切除術となったのでした。幸い他の臓器やリンパ節への転移はないから予後はよいだろうとの予測にもかかわらず、4ヶ月後に腹膜あたりのリンパ節に転移が見つかります。

主治医の勧めで、瀬田クリニックの免疫細胞療法を受けるのですが、すでに末期がんとなった状態ではほとんど効果はなかったようです。吉村昭はある作品で延命処置について

幕末の蘭方医佐藤泰然(順天堂塾創設者)は、自らの死期が近いことを知って高額な医薬品の服用を拒み、食物をも断って死を迎えた。いたずらに命ながらえて周囲の者ひいては社会に負担をかけぬようにと配慮したのだ。その死を理想と思いはするが、医学の門外漢である私は、死が近づいているのか否か判断のしようがなく、それは不可能である。泰然の死は、医学者ゆえに許される一種の自殺と言えるが、賢明な自然死であることに変わりはない。

と紹介しています。遺書も書いて死の準備を終えた吉村昭は、日記にもやはり泰然のことを記して、

幕末の蘭方医師佐藤泰然 死期を悟り、高価な薬品滋養のある食物を断ち、死す。理想的な死。

昨日死のことを考える。死はこんなにあっさりと訪れてくるものなのか。急速に死が近づいてくるのが分かる。ありがたいことだ。但し書斎に残してきた短篇に加筆できないのが気がかり。

と、死期が確実に判断できるのだと言っています。

そして手術から半年過ぎたある日、突然点滴の管のつなぎ目を外し、中心静脈に入れたカテーテルと胸に埋め込んであるカテーテルポートをむしり取る行動に出る。看護師や家族の静止に、末期がんの病人とは思えないような激しい力で抵抗する。延命治療を望んでいなかった夫の強い意志に、夫人も娘も「もういいです。」と涙声で看護師に告げるのです。そして数時間後に他界します。佐藤泰然のような死を選んだのです。

私の場合も手術前に言われました。開腹して万が一のときは膵頭十二指腸切除術になる場合もあります、その場合の対処に関してはお任せください、と。1センチ以下の腫瘍はCTでも分からないのですから、そうした可能性はだれにでもあるのでしょう。少し解せないのは、2006年当時、術後補助化学療法でゲムシタビンを使わなかったのでしょうか。転移が見つかってから抗がん剤治療をしています。

死期はだいたい分かるもののようです。中島梓の『転移』でもそのように書かれているし、茶長さんのブログでも本人はほぼ予測していたようでした。『がんの最後は痛くない』に詳しく書かれているように、現在の緩和医療、疼痛管理は進歩しています。それに、最期には本人は意識も朦朧としているから、死への恐怖も感じないのでしょう。死ぬ瞬間は、死が怖くない。死が怖いと思うのは、古今の思想家を悩ます不思議な現象です。

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2011年9月19日 (月)

さようなら原発5万人集会

国立競技場駅を出たら、もう人がいっぱいでなかなか前に進めない。「会場はすでにいっぱいです」との主催者のアナウンス。「立錐の余地もない」とはこのことか。無理矢理正面の舞台へ向かおうとするが、結局迂回して舞台横にたどり着くのがやっとだった。主催者発表では6万人以上だという。確かに隣の神宮球場でナイターが終わったときよりも、デモの人数の方が多かった。会場には入れない参加者が歩道や周辺の小公園にもはみ出していた。明治公園周辺は騒然としていた。これだけの規模の集会は何十年ぶりではなかろうか。歴史に記憶されるべき出来事に参加できたことに感激しています。

ヘリの写真を毎日新聞より。俯瞰写真がないと規模が伝わらない。

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医療関係者の方々。「しか」の奈良から来たが会場には入れない。隣の小公園で。
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車いすで・・・_dsc2455_dsc2463_dsc2468
呼びかけ人の大江健三郎さん_dsc2476
内橋克人さん_dsc2482
落合恵子さん_dsc2486
この人たち、サンバ?のリズムにのっていた_dsc2498
海外のメディアも多い。ドイツ語フランス語が飛び交っていた。_dsc2505 _dsc2521
着物姿、いいね!前からも撮ったが、美人でした。_dsc2551
背中に簑をしょった外人。きまってるね。_dsc2554 _dsc2555
福島の子どもたち_dsc2559
先頭を歩く、呼びかけ人の方々_dsc2583
延々と続いて、終わらない。遙か向こうの交差点も参加者でいっぱい_dsc2589 _dsc2602
原宿のショーウインドウに映る福島の幟_dsc2613
お疲れ様_dsc2635 _dsc2643

2011年9月18日 (日)

秋なのに

3連休なのに何かと忙しい。昨日は4時半に起きて、10日間もイタリアに遊びに行くという娘を羽田まで車で送っていった。マイルの制限で、関空から国際便に乗るのだという。娘のいない間、ヨークシャーテリアの竜馬に輸液を注射するのが私の役割になる。

菅直人前総理がインタビューで「最悪の場合は首都圏3000万人の避難も」と語っている。そうならなかったのは、幸運がいくつも重なっただけなのだ。しかし3000万人の避難は不可能だろう。水と食糧の確保もままならないし、橋を通過する箇所では大渋滞になる。ならば、日本消滅のリスクを放置することがきちがい沙汰だということ。原発の廃止しかない。

昨日の「鳥越俊太郎 医療の現場」は~がんを正しく知る~の第2弾。『虎の巻 低線量放射線と健康影響 ─先生、放射線を浴びても大丈夫? と聞かれたら』の編集責任者である放医研の島田義也氏が登場。『虎の巻』に本人も書いたはずの低線量被ばくに関する近年の研究、バイスタンダー効果などの話は全くなし。鳥越俊太郎もこの本を読んで準備くらいはしておくべきだろう。鳥越はアフラックのCMに自分のがん手術の現場を撮らせてから、つまらない男になってしまった。近著『がん患者』では自分の裸を表紙にしている。何度もの手術跡をそんなに見せたいのか。

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空を見上げれば秋の雲なのに、地上はまるで真夏だ。今日も32℃。少し早めの墓参りと、台東区千束まで。合間を見ては少しでも歩いている。この夏も酷暑にもめげずに着替えをバックパックに入れて、会社まで歩いた。歩くのが一番。「一日に15分の運動でも死亡リスクが14%低下」との研究もある。ウォーキングでもよいのだから、30分を往復で1時間、これが週に3日程度だから十分だろう。食後の腸閉塞予防のために、少しでも時間でも歩いている。

お茶ミルで挽いた深蒸し茶は、毎日欠かさず5、6杯は飲んでいる。これはもう習慣になったし、なによりもおいしい。

10月末のチェロの発表会に向けて、練習も熱が入ってきた。曲はミシェル・コレットのソナタハ長調。こんな曲。
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仕事に使っているパソコンが急に調子がおかしくなり、OSの再インストールさえもできなくなった。こんなことは初めてだ。幸いデータは毎日外部ハードディスクにバックアップしているから慌てる必要はない。結局新しくWindows7のcore i7にした。ついでにOfficeも2010に。リボンが使いづらいが、すぐに慣れるだろう。

遊んでいるPCでLinuxを動かすつもりでいるが、インストールに手間取りそうなので、十分な時間ができるまでは手が付けられない。しばらくはLinuxディストリビューションであるKnoppixで慣れることにする。Knoppixには数学関係のソフトが梱包されたKnoppix/Mathがある。数式処理システムMaximaを以前に使っていたから、思い出しながら触っている。

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2011年9月17日 (土)

放医研の『虎の巻』

9月10日のBS朝日-「鳥越俊太郎 医療の現場」では~放射能を正しく知る!~とのテーマで放射線医学総合研究所の明石真言理事が出演して「正しく怖がることが大切」と言っていた。もちろん、「正しく怖がる」ことに依存があるはずがない。問題は、何が正しいことなのかが、専門家の間でも意見が一致していないことだ。明石氏の説明では、放医研、ICRPの主張が正しいことだという前提での説明であった。

放医研、放射線医学総合研究所は、がん患者にとっては重粒子線の治験を実施している重粒子医科学センター病院を持つ組織としてありがたい存在である。特に私のような膵臓がん患者には、膵臓がんの重粒子線治療では頼りにしているところである。

日本における緊急被ばく医療の責任も負っており、それゆえに今回の福島第一原発事故による放射線被ばくの影響について、放医研の医学者がマスコミで解説をすることが多い。ICRP勧告を翻訳しているのも放医研の先生方であり、放射線生物学の権威でもある。当然、マスコミでの解説は「ICRP勧告こそが正しく放射線の影響を説明している」との立場である。明石理事も同じ趣旨の説明だった。

虎の巻 低線量放射線と健康影響 ─先生、放射線を浴びても大丈夫? と聞かれたら しかし、放医研が2007年に出版している『虎の巻 低線量放射線と健康影響 ─先生、放射線を浴びても大丈夫? と聞かれたら』は、少し趣が違う本だ。最初の一般向けの解説では「100mSv以下は安全である」との主張だが、後半の専門的な部分では、驚いたことに、ECRR(欧州放射線に委員会)が報告書で取り上げている低線量で効果が急激に増加する「逆線量率効果」についても、海外の論文を引用して説明している。また、15ヶ国の原子力施設労働者を対象とした研究では10mSvでもリスクが有意に検出されたと書かれている。前半の一般向け解説と、後半の専門的な内容において矛盾がある。

後半部では低線量放射線の影響について、現時点での内外の主要な研究を網羅的に取り上げている。『虎の巻』は放射線の専門家や医師向けに書かれたものであるが、福島原発事故が起きた現在、低線量被ばく、内部被ばくに関心のある一般市民が読むべき本であろう。(アマゾンの「なか見!検索」やGoogleブックで内容の一部を閲覧できる)

内容についていくつか紹介する。

ECRRのクリス・バズビー氏がチェルノブイリにおける子どもたちの心臓疾患について警鐘を鳴らしている。また、ベラルーシにおいて子どもたちのがん以外の疾患が「激増」しているとの報告があるが、『虎の巻』には次のように書かれている。

また近年は、原爆の被ばく線量再評価、心臓血管系疾患など非がん病変と放射線被ばくの間に有意な線量-反応関係が示唆されたり、免疫系への影響と被ばく線量に関係が示唆されるなど、新たな放射線影響に関するトピックが見出されつつある。

低線量放射線の影響について、がん死亡率の増加だけが取り上げられる傾向にあるが、循環器系疾患、甲状腺機能障害などの非がん疾患に関しては、福島の今後を考えるとき重要である。

近藤誠氏も『放射線被ばく CT検査でがんになる』で取り上げていた15ヶ国の原子力施設従事者を対象としたプール解析については、

しきい線量のない直線線量-反応関係に基づいた放射線リスクが、10mSvの被ばくにおいても有意に検出されたと結論した[Cardis 2005]。この2005年のCardisらの論文は、WHOの国際がん研究機関(IARC)のプロジェクトとして実施されたものであり、2005年6月に発表された米国科学アカデミーBEIR委員会の第7次報告書[NRC 2006]の附属書にて議論され、「LNT仮説は、低線量域において、実際の疫学的なリスク評価値として根拠のある値が存在する」と引用されている。

広島・長崎の原爆被爆者の健康影響調査の近年の研究に関して、

従来、0~2Svまたは0~4Svの線量域から線形の線量-反応関係を仮定して低線量域のリスクを推定した値は、安全側のリスク推定(リスクを過大評価)であるとされてきた。しかしながら、PierceとPrestonは、500mSv以下の被ばく例に限定して全がん(白血病を除く)発生率のリスクを推定したところ、50~100mSvの線量域において、高線量からの直線外挿による推定値が、必ずしも過大評価ではないことが見出されたとしている。また、0~100mSvの線量域の被ばく例について解析した場合には、統計的に有意なリスクの上昇が観察されたとしている。

中川恵一氏も『虎の巻』のこの部分を読んでいれば、広島・長崎の被爆者の調査によれば「100ミリシーベルト以下では発がん率が上昇するという証拠がない、ことが分かっている」などと、断定的なことは書かなかったのではなかろうか。

放射線による影響は、標的の細胞核のDNAに直接損傷を引き起こすことによって、細胞ががん化すると説明されてきた。しかし『虎の巻』では、別の機序として、活性酸素などにより二次的に変異が引き起こされる「非標的効果」があるという。

もうひとつの機構は、①DNA損傷によりゲノム不安定性が誘発され、これが二次的に突然変異を引き起こす、②放射線照射を受けた細胞が炎症反応を起こし、炎症によって生じるさまざまなサイトカイン、活性酸素などによって突然変異が誘発される、といった機構であり、・・・「非標的効果」と呼ばれている。

バイスタンダー効果、ゲノム不安定性、これらを含めたペトカウ効果についても、一節を設けて取り上げている。また、次のようなICRPの保守性を批判したかのような記述も見える。

高LET放射線、特に核分裂中性子線の被ばくでは、低線量率被ばくの方が高線量率被ばくよりも影響が大きい例が知られており、これは逆線量率効果と呼ばれている。ICRPは、このような議論には敏感に反応するが、それは、逆線量率効果が、従来のリスクの考え方が低線量域においてリスクを過小評価しているという議論につながるからである。

また、低線量放射線によるDNA損傷ではクラスター損傷が無視できないとして、

放射線による細胞レベルの傷害は、ガンマ線のようなLETの低い放射線であっても、その二次電子の飛程終端付近で急激にエネルギーが失われ、DNAにクラスター損傷が生じるとしている。クラスター損傷は、複数の種類の損傷が同時に生じており、全ての損傷を完全に修復することは困難であると考えられている。単一の傷害でも修復されずに残れば、発がんを誘発する可能性があるという考え方を維持している。

これは、臓器の全体が受けたエネルギーをその重量で割って平均するというICRPモデルの不合理性、「石炭ストーブの前で暖をとっている人に伝わる平均エネルギーと、その赤く焼けた石炭を食べる人に伝わるそれとを分別しない」を指摘しているのである。また、クラスター損傷は、細胞はDNAを修復する機能があるから低線量の放射線の影響は無視できるという考えを戒めている。

私たちは、がんについても放射線の生物への影響についても、まだほとんど知らないと言って良い。『虎の巻』ではICRPの知見も近年の分子生物学的研究の成果、被爆者集団の追跡評価によって、放射線規制の考え方は発展されるべきであると書いている。広島・長崎、チェルノブイリの影響については、これからも新しい事実が解明されるはずである。「ICRP勧告に照らせば、影響はない」という考えでなく、被ばくの「現場」から学ばなければならない。

科学が明らかにできることには限界があり、ここから先は、科学的な判断ではなく、科学的な根拠の不確実性を十分に考慮した上で、政策的な判断が行なわれ、意志決定が為される必要がある。

リスクに関するとらえ方を書いた次の文章は、福島の住民に対する対応の仕方を考えるとき、示唆的である。

リスクコミュニケーションは双方向の情報伝達である。住民に対しリスクについて教えたり、リスクが小さいことを説得することではない。コミュニケーションの過程では、客観的事実だけでなく政策も対象となる。住民が漠然と感じている不安や不信感も重要なテーマとなる。

附属書としてフランス科学・医学アカデミーの報告と、BEIR委員会Ⅶの概要が収録されているが、これに加えてECRR2010勧告を読めば、現時点での低線量放射線の影響に関しては専門家になることができるだろう。

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2011年9月16日 (金)

がん患者だからこそ、生き甲斐を持っていますか?

素敵な記事が神戸新聞に掲載されています。すぐに消えてしまうでしょうから、全文を転記します。心と免疫系の関係はよく知られています。このブログでも心の有り様が、がんとの闘いには決定的に大切だと何度も書いています。

生きがい療法ユニオンが設立され、8月には設立総会、講演会もありました。千葉ポートメディカルクリニック院長の今村貴樹先生も講演しているようです。

がん患者の「組合」生きがい療法ユニオン

B_04472260  手を尽くしたがん治療が受けられるよう“患者組合”として団結し、医療機関に説明を求めるなどの活動を目指す全国組織「生きがい療法ユニオン」(岡山県倉敷市、米野久男代表)が発足した。副代表には45歳で卵巣がんの手術を受け、その約3年後、欧州アルプスの最高峰モンブラン(4811メートル)に登頂した神戸市北区の番匠(ばんじょう)和美さん(73)が就任。「患者は不安が尽きず、立場も弱い。同じがん経験者としてお手伝いできることがあれば」と話す。

 同ユニオンは、生きがいや笑いを活力にがんを克服しようという「生きがい療法」の提唱者で、倉敷市の「すばるクリニック」の伊丹仁朗院長(心療内科)が呼び掛け、発足した。患者自身ががんについて学び、前向きに治療に取り組もうとしても、標準治療で改善が見込めず緩和ケアの対象になると、積極的な治療が受けられなくなる事例を相次いで知ったことがきっかけ。任意団体で、伊丹院長やがん患者、家族ら約50人でつくる。

 番匠さんは1986年、伊丹院長ががん経験者とモンブランに登る計画を立てていることを新聞で知り、院長が当時、非常勤で働いていた神戸市内の診療所を訪問。「山登りの経験は全くないけれど、参加したい。モンブランの麓まででいい」と訴えると、伊丹院長はメンバーに加えてくれた。卵巣がんの手術を受けた病院の医師も、「ぜひ行ってらっしゃい」と太鼓判を押した。

 「世間ではがんは死に直結した病で、手術した人が山に登るなんて考えられない時代。でも、目標ができた途端、気持ちが奮い立った」と番匠さん。伊丹院長や他のメンバーと六甲山や六甲山系摩耶山、雪が残る富士山などに登り、本番に備えた。

 モンブランに挑戦したがん経験者は東京から広島までの7人。87年8月、全員が頂上に一番近いバロー小屋(4360メートル)まで到達し、番匠さんを含む3人は頂上を極めた。「吹雪で何も見えなかったけれど、すごく達成感があった」

 番匠さんは伊丹院長と出会うまで、ひどいうつ状態に陥っていた。絶対の自信があった健康を失い、絶望から一時は水も飲めなくなった。手術が成功した後は再発の恐怖におびえた。当時勤めていた会社に復職しても皆が自分を避けているように思え、孤独だった。

 「がんになってもできることはたくさんある。伊丹院長が『生きがいを持って励め』と言い続ける理由がよく分かった」

 帰国後は、日本百名山を全て登り切ろうと決意。2007年8月に100カ所目となる越後駒ケ岳(新潟県)を踏破した。今は、2年前から始めたクラシックギターも楽しんでいる。

 仲間の存在の大切さを身をもって経験した番匠さんは、同ユニオンについて「治療をめぐって病院と議論するのは難しいだろう。でも、困っている患者の話し相手にはなれる。できることから始めたい」とする。

 同ユニオンは今年8月に岡山市で設立総会を開催、今後は学習会や他のがん患者団体との交流会も開く。問い合わせは事務局ファクス086・525・8655(電話兼用、月・火・金曜の午前10時~午後3時)

(坂口紘美)

(2011/09/16 11:50)

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2011年9月11日 (日)

「百万回の永訣」を見て

ビデオを何度も中断して、やっと見終わった。
やはり何か違うな、との思いで、見続けるのが苦痛だった。いったい、このドキュメンタリーは何を伝えたいのだろうか。そこがよく分からなかった。番組だけを見ていると、余命半年、長ければ2年と告げられた一人の女性がん患者が、全国の著名ながん専門医を探して、自分に合った医療を求め続けた結果、2年以上生存した。探求心と、運命に立ち向かう勇気をたたえた番組のように見える。

京都の南禅寺を舞台にしたハイビジョンの映像は美しい。治療法に悩みながらも、大樹に頬を寄せて自然とコンタクトをとる彼女の姿は崇高である。しかし、現代医療に批判的だった『がん患者学』が脳裏にあるためか、「再発したがんには治癒はありえない」と理解しているはずの彼女が、手術、抗がん剤に一直線に突き進んでいく姿に、哀れみすら感じた。著名な医師たちに相談できるという特権を持った彼女の闘病記は、私には役にたたないと思った。

「友人として願う。医師たちのいうなりにはならないで欲しい」と忠告する近藤誠氏の、放射線治療の提案を拒否して手術に掛ける彼女は、

安らかに死にたい
あわよくば治りたい

とかつて書いた「あわよくば治りたい」の方に必死で掛けている。その手術が失敗だった知ると、強く手術を勧めた姉を非難しようとする。こうしたことは番組では明らかにされない。

しかし、ビデオを見終わって時間が経つにつれて、私の考えが変わってきた。やはり彼女も普通の人間であり、治りたいがん患者である。今日決心したことが明日には変わっても当然だと思うようになった。

わたしは常に、治る、治るため、という言葉を使うことを注意深く避けてきた。治れば勝ち、死ねば負け、という狭い価値観にがん患者として生きるわたしを閉じこめたくはない、と語ってきた。
がんを知り、生き、死ぬことはもっと深く、広く、豊かなはず、と書いてきた。
治るためにあらゆる療法を組み合わせているわたしはどこかおかしいのではないか!志を逸脱した、誤った道を走りだしているのではないか?
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がんにおいて正しい治療法はない、標準治療はあっても、わたしにとって正しい治療とは限らない、と経験的に知っているからだ。
だが、患者仲間にそれを語っても、理解してはもらえない。彼らは多くの医師を知るわたしの特権を羨み、特効薬について知りたいと訴える。わたしは何も知らない自分に忠実に、愚かなほどにただ歩いただけだ。

ここには彼女の深い苦悩が表現されている。がん患者なんだから、ドクターショッピングができる立場を利用して、悩んでうろうろしてもあたりまえだ。

公式ホームページ「南禅寺だより」がまだ健在である。それによると、2008年3月2日に永眠した柳原和子さんの最後は、

「あぁ。木に出会いたい。海に出会いたい。光を浴びたい。自然を取り戻したい。贅沢な希望」  2月初めのこれが最後の文章。日曜の朝、家族や仲間が目を離したわずかな間に、自分でその時を選んだかのように静かに逝った。笑顔だった。
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旅立ちの朝は、病室の窓辺に置いた鳥かごで文鳥が歌を添えた。東京都内の緩和ケア病棟。姉と2人の友人にみとられて、安らかな最期だった。

・・・そうだ。かつて入院を拒否された聖路加病院のホスピス病棟での最期だった。亡くなる前年の秋には「安寧に暮らしたい」とすべての治療をやめたそうである。最後は『がん患者学』の柳原和子であった。

彼女は恋多き女性であり、いつも誰かに恋して、惚れていた。作品にもその一端が赤裸々に書かれているが、追悼文集には妻子ある男性にも恋して、分かれてなどが紹介されている。彼女はこうも書いている。

そして、あるとき・・・了解する。
これは恋、愛の営みに似ている、と。
治療法を探る、という行為を通じて浮遊する魂のよりどころ、おさまりどころを、探しているのだ、と。
当然のことだが、その恋は成就しない。
永遠に、片思いである。
恋や人生に処方箋がないのと似て、がんにも処方箋はない。

このビデオにも、彼女の作品の中にも、がん患者の悩みを解決してくれる確かな処方箋はない。柳原和子は、彼女自身が抱える問題を、彼女なりに追求し、追いかける。しかし、いつも答えはするりと手からすり抜けていく。愚かさも、悩みも、身勝手も、迷いも含めて、自分に忠実に生きたのである。番組で伝えたかったのは、この一事かもしれない。

がんの治療法に正解はない。がんも、がんを宿している人間も、それぞれ違う特性を持っている。だから、同じ原因からでも、まったく違った結果が生じる。せいぜい統計的・確率的な予測にならざるを得ない。そのゆえに、がんとの戦い方にも正解はあり得ない。彼女のとった処方箋が正解だったのかは、だれにも分からない。言えるのは、柳原和子は”完全燃焼した”ということだけだ。

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2011年9月 8日 (木)

「生きることについて」

40年ほどの昔、よく口ずさんでいた歌があった。確か高校生の頃、社会科の先生から教えてもらった歌だった気がする。「死んだ女の子」である。トルコの詩人ナジム・ヒクメットの名前が、今でもすらすらと出てくる。
坂本龍一と元ちとせのコラボにより、再び蘇り、2005年8月5日、第60回「広島市原爆死没者慰霊式並びに平和祈念式」の前夜、原爆ドーム前で披露されましたそうだ。ただ、元ちとせの歌は、歌詞が私が記憶しているものとは違う。記憶の中にある歌詞の方が好きだ。

作詞:ナジム・ヒクメット、作曲:木下航二
日本語詞:飯塚 広

1 とびらをたたくのはあたし
  あなたの胸にひびくでしょう
  小さな声が聞こえるでしょう
  あたしの姿は見えないの
2 十年前の夏の朝
  あたしはヒロシマで死んだ
  そのまま六つの女の子
  いつまでたっても六つなの
3 あたしの髪に火がついて
  目と手がやけてしまったの
  あたしは冷い灰になり
  風で遠くへとびちった
       (間奏)
4 あたしは何にもいらないの
  誰にも抱いてもらえないの
  紙切れのように燃えた子は
5   おいしいお菓子も食べられない
     とびらをたたくのはあたし
  みんなが笑って暮らせるよう
  おいしいお菓子を食べられるよう
  署名をどうぞして下さい

映画「チェルノブイリ・ハート」の冒頭に、彼の「生きることについて」という詩が流れている。映画の監督であるマリオン・デレオさんが「日本のみなさまへ」と題したメッセージである。映画を見ていない人のために(私もYouTubeでしかみていないが)、英語版だがYouTubeで見られるサイトを紹介したwebをリンクしておく。この映画を見てもなお「チェルノブイリでは小児の甲状腺がん以外の健康へ影響は見られない」と言えるだろうか。

さて、ヒクメットの「生きることについて」は、私たちがん患者に向けたメッセージかのようにも感じられる。

「生きることについて」      ナジム・ヒクメット

生きることは笑いごとではない
あなたは大真面目に生きなくてはならない
たとえば
生きること以外に何も求めないリスのように
生きることを自分の職業にしなくてはいけない

生きることは笑いごとではない
あなたはそれを大真面目にとらえなくてはならない

大真面目とは
生きることがいちばんリアルで美しいと分かっているくせに
他人のために死ねるくらいの
顔を見たことのない人のためにさえ死ねるくらいの
深い真面目さのことだ

真面目に生きるということはこういうことだ

たとえば人は七十歳になってもオリーブの苗を植える
しかもそれは子供たちのためでもない

つまりは死を恐れようが信じまいが
生きることの方が重大だからだ

この地球はやがて冷たくなる
星のひとつでしかも最も小さい星 地球
青いビロードの上に光輝く一粒の塵
それがつまり
われらの偉大なる星 地球だ

この地球はいつの日か冷たくなる
氷塊のようにではなく
ましてや死んだ雲のようにでもなく
クルミの殻のようにコロコロと転がるだろう
漆黒の宇宙空間へ

そのことをいま 嘆かなくてはならない
その悲しみをいま 感じなくてはいけない
あなたが「自分は生きた」と言うつもりなら
このくらい世界は愛されなくてはいけない

よりよく生きるためには、他人のためにさえ死ぬことができるほど、まじめでなければならない。よりよく生きるために、死を選ぶこともある。そして、その前にしておくことがある。この宇宙と地球とすべての生き物を愛することだ。

2011年9月 7日 (水)

ついに解明 ストレスがDNAを損傷するメカニズム

デューク大の研究者らが、慢性的ストレスがDNAを損傷するメカニズムを突き止めたそうです。こちら。マウス実験の結果、慢性的ストレスがp53値を長期的に低下させることが、DNA異常の原因だとの仮説を提唱しています。

p53遺伝子は、細胞の恒常性の維持やアポトーシス誘導といった重要な役割を持つことからゲノムの守護者(The Guardian of the genome)とも表現されます。慢性的ストレスにより分泌されるアドレナリンが、p53遺伝子に作用して、DNA損傷を誘発し、この状態が長期的に続くことで腫瘍形成が促進されるという仮説です。

「慢性的ストレスに顕著な特徴であるアドレナリンの上昇が、検出可能なDNA損傷を最終的に引き起こすことになる特定のメカニズムを初めて提示したのがこの論文であるとわれわれは考えています」

この研究では、βアドレナリン受容体と呼ばれる受容体に作用するアドレナリン様化合物をマウスに投与した。研究者らはこの慢性ストレスモデルがある生物学的経路を誘発し、最終的にDNA損傷を蓄積させることを見出した。

「この研究から慢性ストレスがp53値の低下を長期化させることがわかりました」と、述べた。「これこそが、この慢性ストレスを与えたマウスで認められた染色体異常の理由であると、われわれは仮説を立てました」。

現在の研究では、アドレナリン様化合物がGタンパク質とβアレスチン経路双方を通じてDNA損傷を引き起こすように作用するという分子メカニズムが明らかになった。

この論文は8月21日付のNature誌電子版に発表された。
Nature誌に掲載された論文では、マウスにアドレナリン様化合物を4週間投与するとp53の変性が起こり、その後p53は徐々に低値となる。

また、この研究では、βアレスチン1が欠損したマウスではDNA損傷が予防されることも示された。βアレスチン1欠損により、胸腺及び精巣における細胞内のp53値が安定化する。胸腺は急性もしくは慢性のストレスに強く反応する臓器である。精巣では、父親にかかったストレスが子のゲノムに影響を与える可能性がある。

1 これまでもストレスとがんとの関係を示す多くの研究がありました。医師たちは経験的に、ストレスが多い患者は長生きできないと感じていたし、妻を先に亡くした男性は寿命が短くなるという研究もありました。(女性にはそういう傾向はなさそうです!)マウス実験では、ストレスをコントロールできない状態が一番腫瘍が増大するという研究もありました。乳がん患者で、術後のサポートを受けた患者の方が、生存率が高いという研究もありました。

今回はマウス実験の段階ではありますが、ストレスが遺伝子損傷を引き起こす、分子レベルでのメカニズムを発見したという点で大きな成果です。

アドレナリンは、ストレス反応において中心的役割を果たす副腎髄質ホルモンですが、同時に神経系・脳神経系における神経伝達物質です。当然、免疫系とも密接に関係しています。したがって、精神作用=心の有り様と、免疫系、遺伝子、がんが、すべて繋がった複雑に相互作用をするシステムだということが改めて分かったわけです。がんとの闘いにおいては「心の有り様」が一番重要だと書いてきましたが、一層その思いを強くします。

瞑想、サイモントン療法、ヨガなど、自分の好みで心を平静にする習慣を付けたいものです。人間関係がストレスになっているのなら、解決しておきましょう。解決できないのなら、自分の心の中で「こんな相手からは影響を受けないぞ」と決めましょう。ユーモアと笑いも重要です。いつも笑っていれば相手もストレスを感じませんから。私はこれまで通りです。今もほとんどストレスも悩みをありません。毎日健康に楽しく充実して過ごしています。明日のことはだれにも予測できないから、余計な心配はしていません。再発してもそれはそれ、再発・転移は「関心領域」に属します。もちろん関心はありますが、大事なことは自分でコントロールできる範囲、「影響領域」で生きることです。

「死」については古今の先達の考えを学び、自分なりの納得できる死生観を持っておくことも大切です。

がんとの闘いは情報戦です
インターネットで検索し、本で治療法や同病の患者の闘病記を学ぶ。そのような意味で「情報戦」とよくいわれますが、ここでの情報戦とは、私たちの身体の中での闘いも情報戦だという意味です。ホルモン・サイトカインなどの情報伝達物質が、私たちの脳(こころ)と神経系、免疫系を駆け巡っています。がん細胞と遭遇した白血球などの免疫細胞は、その情報を情報伝達物質を使って脳にまで伝えることも分かってきました。がん細胞とNK細胞なども情報のやりとりをしているのです。

情報戦においては、強いものが勝つのではなく、「正しいものが勝つ」のです。物量ではありません。必要なところに「正しい情報」を伝えることで、がん細胞でさえもアポトーシスに導くことが可能になります。

末期がんが消えてしまった!などの自然緩解・驚異的回復、いろいろなことばで表現されますが、こうした症例が確かに存在する。それも万に一つではなく、もっと頻繁にあるらしい。アドレナリンがp53遺伝子に作用して、腫瘍の発言を増大させるのなら、まだ未知のメカニズムによって、がんが自然消滅することがあって当然でしょう。

そのスイッチがどこにあるのか、確実な方法を私たちはまだ知ることができません。しかし、例えば『がんに効く生活』の著者シュレベールが、治癒がほとんど望めない脳腫瘍に罹りながらも20年間も生存し、立派な活動と大きな成果を残しました。彼のがんとの闘いは体内における「情報戦」であり、「勝ち戦」だったと言えるでしょう。

このp53遺伝子、児玉龍彦氏の国会における参考人証言でも出てきました。チェルノブイリ事故による「高濃度汚染地区、尿中に6ベクレル/リットルという微量ですが、その地域ではp53の変異が非常に増えてい」たとの証言でしたね。

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2011年9月 6日 (火)

朝日がん大賞?山下氏受賞に福島県民ら抗議

日本対がん協会(垣添忠生会長)が9月1日、今年度の朝日がん大賞には長崎大学大学院教授で、7月に福島県立医科大学副学長に就任した山下俊一氏(59)を選んだと発表したことに対し、「子どもたちを放射能から守るネットワーク」は4日、撤回を求めて朝日新聞宛に抗議文を提出した。

<抗議文>
                   2011年9月3日
「朝日がん大賞に山下俊一氏を選んだ朝日新聞社に抗議します」

  子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク
             代表世話人 中手聖一
             世話人一同  

貴社の9月1日付けの新聞を見て、わたし達「子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク」の一同、また、一緒になって、福島の子どもたちを守る市民運動に参加している関係者は愕然とし、同時に怒りを抑えることができませんでした。

なぜ、山下俊一氏の行っている行為がこのような形で評価されるのか、理解に苦しみます。氏の発言が、子どもたちを守ろうとしている福島の親たちをどれだけ苦しめてきたのか、またこれからも福島医大の副学長として福島県民を苦しめるつもりなのか、貴社の選考の基準には入っていなかったのでしょうか。

山下俊一氏は、3月の下旬から福島県に入り、「年間100ミリシーベルトでも問題ない。妊婦でも子どもでも危険はない」という発言をくりかえしてきました。当時の同氏のこの発言は、福島市政だよりにも掲載され(別添1)、福島県内で「安全神話」を築き上げてきました。
同氏は医学系の雑誌には、低線量被ばくのリスクを指摘する記事を書きながらも、福島では逆に低線量被ばくのリスクをまったく否定する言動をとったのです。

ご存知のように、低線量放射線の影響は「閾値なしの線形モデル」を採用し、線量に応じた影響が生じるというのが、国際的な常識となっており、保守的なICRPもそれを認めています。

実際には、福島では、多くの地域では、本来であれば、一般人の出入りが禁じられる放射線管理区域以上の高い汚染が広がり、チェルノブイリ事故と比較しても安心・安全とはいえないレベルの状況が続いています。同氏の発言は、多くの方の避難を躊躇させ、また、福島に住み続けることについて安心感を得させ、家族不和まで生んでいるのです。さらに、「危険かもしれない」という市民が憂慮の声をあげられない空気をつくりだしました。

この世に家族ほど大切なものがあるでしょうか。子どもほど大切な存在があるでしょうか。それなのに、同氏がつくりだした「安全神話」により、家族を守れずに、私たちがどれほど苦しんだか、言葉には言い尽くせないほどです。わたし達福島県民は、それでもなんとか明るく前向きに生きようと日々戦っているのです。

私たちは、このように山下俊一氏が、県の放射線リスク・アドバイザー、県民健康管理調査委員会の座長にあることに強い危機感を覚え、同氏の罷免を求める署名運動を行い、6607筆の署名を得ました(別添2)。また、全国の署名運動では、1ミリシーベルト順守と避難・疎開と併せて同氏の罷免を求める要請項目を加えましたが、4万筆以上の署名が集まりました。

このような市民運動は一切報道せず、山下俊一氏のようない人を「がん大賞」を授与するとは、御社の新聞社としての良識が疑われます。

わたし達は山下氏への「がん大賞」授与の撤回を求めるとともに、貴社紙面において謝罪を掲載することを求めますあわせて、このような批判があったことを、きちんと報道していただくことを求めます。

2011年9月 5日 (月)

中川恵一 × 近藤誠 (3)

内部被ばくについては、中川氏も近藤氏も考え方は大同小異で、ほとんど違いがない。二人とも内部被ばくの影響を過小評価している。
中川氏は、

  • 放射線汚染(内部被ばく)を恐れるあまり、政府や自治体が出荷制限・摂取制限をしていない野菜・魚・水までをも警戒し、摂取しないと、かえって健康被害が生じかねません

近藤氏は、「内部被ばく量は測定できますか?」とのQ&Aで、

  • 全身カウンターを用いると測ることができる。計測器の中に人を入れて、体内から出てくる放射線量を量ります。

と書いている。しかし、全身カウンタオー(ホールボディカウンター)では体内から出てくるガンマ線を測ることはできるが、アルファ線・ベータ線をとらえることはできない。従って正確な被ばく線量を測定することは難しい。そして、

  • (6月3日)現在の計測値をみると、福島原発から離れた地(千葉、東京、埼玉、神奈川など多くの地域)では、問題とするレベルではないと思われます。
  • 現在の日本は、チェルノブイリ原発事故後の出来事を教訓にしているので、水や食物を介した内部被ばくが問題になる事態はまず生じないであろうと考えています。

と言う。「チェルノブイリ事故を教訓にしている」などとは、福島住民の避難勧告をみてもとうてい言えるはずのないことばだが、それについては後ほど触れることにする。

内部被ばくの影響については、専門家の間でも意見が分かれていることは事実である。これについては何度か書いているので、繰り返しはしないが、ICRPの内部被ばく評価には次のような問題がある。中川氏も近藤氏も1mSvと計算された被ばく量なら、内部被ばくであれ外部被ばくであれ人体には同じ効果を与えると考えている。アルファ線を放出するプルトニウムを吸い込んで肺に沈着した場合、アルファ線が止まるまで放出した運動エネルギーの合計を肺に質量で割ったものが臓器等価線量となる。これにアルファ線の線質係数である20を掛けたものが、組織線量当量となる。これがICRPの内部被ばく線量評価方法である。

しかし、アルファ線は線源のごく近傍の細胞だけに放射線を照射するのであって、肺全体に照射するのではない。アルファ線・ベータ線は少数の細胞に集中的に放射線を照射するのであるが、そのエネルギーを肺全体の重さで割ることで、影響を小さく見積もることに成功している。40℃のシャワーを10リットル体に掛けるのと、80℃の熱湯を5リットル掛けるのは、熱量は同じだが、80℃の熱湯を誤って掛けたのなら、急いで救急車を呼んだほうが良い。

チェルノブイリでは子どもの甲状腺がん以外は、有意に増加していないとも言うが、多くのがんの潜伏期間は20~30年である。そんなことは素人に言われずとも、二人ともがんの専門医だから分かっているはずだ。チェルノブイリの成人に対する影響はこれから現われてくるかもしれないのである。

放射線医学総合研究所が出している『虎の巻 低線量放射線と健康影響 ─先生、放射線を浴びても大丈夫? と聞かれたら』では、低線量の疫学調査の難しさを次のように説明している。

低線量放射線への被ばくによって、がんなどの健康影響があることを疫学研究で示す、すなわち、統計学的に有意に検出することは、対象者数などの点で難しい。線量とリスクの間にLNT(しきい値なし直線仮説)を仮定した場合、被ばくによって増加するがんリスクを統計学的に有意に検出するために必要な対象者数は、おおまかに被ばく線量の2乗の逆数に比例し、被ばく線量が半分になると約4倍になる。

ICRPのPublication 99ではこの統計学的検出力の問題について議論を行なっている。仮に被ばくがない場合のがんの死亡リスクが10%で、被ばくによる過剰死亡リスクが1Gy当たり10%である時、被ばく群と非被ばく群における死亡リスクの差を検出力80%、有意水準5%の片側検定で検出するために必要な調査対象者数は、100mGyの被ばくで約6400人、10mGyの被ばくで約62万人、1mGyの被ばくで約6180万人と試算されている。予想される線量当たりのリスク増加が上記の半分である場合、リスク増加を検出するために必要となる対象者数は上記の約4倍となる。

20mSvの被ばくによってがんが5%増加したかどうかを疫学的に判断するためには、おおざっぱに推計して120万人の調査対象者が必要となろう。これは福島県民の約半数になる。100人に5人が過剰にがんになったとしても、統計的に証明することは困難である。

お二人ともチェルノブイリ事故による発がん影響を根拠にして、内部被ばくは起こらない、無視できると主張している。しかし、チェルノブイリ後の被ばく影響については、広河隆一氏は6万人のカルテが盗まれており、追跡調査の結果は、住民に被害はなかったというIAEAの公式発表を覆すものだった。

「事故後、住民の被害が拡大したのは、専門家の安全宣言だった」との指摘は今日の日本でも有効だ。

また、首相官邸のHPに「チェルノブイリ事故との比較」と題する長瀧重信 長崎大学名誉教授と佐々木康人(社)日本アイソトープ協会 常務理事の声明について、4月17日4月18日のブログで反論を紹介したが、医学博士・松崎道幸氏が詳細に反論しているので、官邸の声明と対比して紹介する。黒字が「官邸資料・声明」、赤字が松崎氏の論文要旨他です。(反論文の詳細はこちら)

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チェルノブイリ事故の健康に対する影響は、20年目にWHO, IAEAなど8つの国際機関と被害を受けた3共和国が合同で発表し、25年目の今年は国連科学委員会がまとめを発表した。これらの国際機関の発表と東電福島原発事故を比較する。

2011年4月15日付首相官邸HP「チェルノブイリ事故との比較」の内容はすべて医学的に誤っている。

1.原発内で被ばくした方

  • チェルノブイリでは、134名の急性放射線障害が確認され、3週間以内に28名が亡くなっている。その後現在までに19名が亡くなっているが、放射線被ばくとの関係は認められない。
  • 福島では、原発作業者に急性放射線障害はゼロ。

19名のチェルノブイリ原発内被ばく後死亡者の死因が被ばくと関係なしと述べているが、急性白血病など悪性疾患で5名が亡くなっているのが事実。

2.事故後、清掃作業に従事した方

  • チェルノブイリでは、24万人の被ばく線量は平均100ミリシーベルトで、健康に影響はなかった。
  • 福島では、この部分はまだ該当者なし。

24万人の除染作業員と数百万人の周辺住民では6千人の甲状腺ガン以外に健康影響はないと断定しているが、WHOなどのごく控えめな見積もりでも、ガンによる超過死亡は今後4千人から9千人と考えられている事実を隠している。

3.周辺住民

  • チェルノブイリでは、高線量汚染地の27万人は50ミリシーベルト以上、低線量汚染地の500万人は10~20ミリシーベルトの被ばく線量と計算されているが、健康には影響は認められない。例外は小児の甲状腺がんで、汚染された牛乳を無制限に飲用した子供の中で6000人が手術を受け、現在までに15名が亡くなっている。福島の牛乳に関しては、暫定基準300(乳児は100)ベクレル/キログラムを守って、100ベクレル/キログラムを超える牛乳は流通していないので、問題ない。
  • 福島の周辺住民の現在の被ばく線量は、20ミリシーベルト以下になっているので、放射線の影響は起こらない。

放射線被ばくによって増える病気はガンだけではない。原爆被爆者において、ガン、心臓病、脳卒中など様々な病気のリスクが有意に増えることが分かるまでに40年から50年以上の追跡調査が必要だったのに、事故後わずか20年に満たない時点でチェルノブイリ事故の被ばく者の健康に影響がないと述べることは、原爆被ばくを受けた国の被ばく問題専門家の資格が問われる見過ごすことのできない誤りである。

今後チェルノブイリ被爆者の追跡調査が継続されるにつれて、ガン、非ガン性疾患による超過死亡が数万人の単位で発生することが医学的に十分予測される。

一般論としてIAEAは、「レベル7の放射能漏出があると、広範囲で確率的影響(発がん)のリスクが高まり、確定的影響(身体的障害)も起こり得る」としているが、各論を具体的に検証してみると、上記の通りで福島とチェルノブイリの差異は明らかである。

官邸資料が言う「20年目のWHO、IAEAなど8つの国際機関と被害を 受け た3共和国の合同発表」とは、「チェルノブイリフォーラム」 のことです。対象集団が60万人しかなく、過小評価と批判されるこの報告でさえ、「放射線被ばくにともなう死者の数は、将来ガンで亡くなる人を含めて 4000人である」と言っているのです。この報告に準拠していることになっているこの官邸の資料はそれに触れていません。そしてこの「フォーラム」報告自体が、それが準拠しているWHOの報告の内容と矛盾していると指摘されています。

2006年のWHO報告では死者は9千件(対象集団は740万人)、IARC(国際ガン研究機関)論文では1万6千件(対象集団はヨーロッパ全域5.7億人)と報告されています。(参照:京大・今中哲二論文「
チェルノブイリ事故による死者の数」) 他にも多数公的・民間機関の研究結果はありますが、ここでは、数ある研究の中でも被害を低く見積もっているといわれる公的機関の研究結果の重要部分でさ え、官邸資料は無視しているということを強調しておきます。

長瀧 重信 長崎大学名誉教授
     (元(財)放射線影響研究所理事長、国際被ばく医療協会名誉会長)
佐々木 康人 (社)日本アイソトープ協会 常務理事
                   (前(独) 放射線医学総合研究所 理事長)

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疫学データで何かを主張するときは、その基礎となった対照群のデータの信頼性をまず確認することが学者としての基本だろうと思う。その意味でチェルノブイリ事故に関するIAEAなどの公式発表は信頼性に乏しいと言えよう。

最後にあのミスター100ミリシーベルト・山下俊一氏でさえ、平成12年には「チェルノブイリ原発事故後の健康問題」と題してのように言っていた。

チェルノブイリ周辺住民の事故による直接外部被ばく線量は低く、白血病などの血液障害は発生していないが、放射線降下物の影響により、放射性ヨードなどによる急性内部被ばくや、半減期の長いセシウム137などによる慢性持続性低線量被ばくの問題が危惧される。現在、特に小児甲状腺がんが注目されているが、今後、青年から成人の甲状腺がんの増加や、他の乳がんや肺がんの発生頻度増加が懸念されている。長期にわたる国際協調の下での、協力、支援活動が必要であり、今後とも唯一の原子爆弾被ばく国の責務として、現地への貢献が望まれている。
最後にチェルノブイリの教訓を過去のものとすることなく、「転ばぬ先の杖」としての守りの科学の重要性を普段から認識する必要がある。

中川恵一・近藤誠の両氏は、「専門家の安全宣言が被害を拡大する」というチェルノブイリの教訓を、肝に銘じておくべきではなかろうか。

                      <終わり>

2011年9月 3日 (土)

Days フォトジャーナリズム祭 in 横浜

赤レンガ倉庫で開催されている「Days フォトジャーナリズム祭 in 横浜」に行ってきました。明日が最終日とのことで、なんとか滑り込みです。

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Days Japanの主催で、お目当ては広河隆一氏の東日本大震災の写真。津波で消えた街をワイドで切り取り、モノクロで表現した作品群はすばらしいものでした。中央部を明るく、周囲を落としての現像が中央部に目を惹きつけます。カラーなら色に視線が行きそうな場面も、モノクロゆえに押さえた怒りと、被災者に向けた共感の感情がひたひたと伝わってきます。
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福島第一原発の爆発の直後、私はマスコミよりも素早く現地に入ったフォトジャーナリストの森住卓広河隆一の発信するブログから刻々と入る、現地のすさまじい放射線量を知ることができました。彼らは完全防護のマスクで取材している。振り切れたサーベイメータのその脇を、普段着の住民がバイクで通りかかる風景に衝撃を受けました。チェルノブイリを経験している彼らだからこそ、放射線・放射能の脅威を体で感じていたのです。こちらに3月の一連のブログがあります。彼らの報道する放射線量を、一般の国民は遅れて知ることになるのです。飯舘村の膨大な環境放射線量もすでに掴んでいました。

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Fukushima_031
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残りの写真はこちらです。ぜひご覧ください。

一枚の写真の力は、国家も世界も動かすことがあるのです。

  • DAYS JAPAN「地球の上に生きる2011」
    第7回DAYS国際フォトジャーナリズム大賞受賞作品のかずかずも・・

S1 瓦礫の中から花の写真を見つけてきた15歳のファビエンヌ。警察の警告団が頭に当たり即死した。

2011年9月 2日 (金)

放火犯人を消火活動に貢献と表彰する行為だ

一瞬、これは悪い冗談かと思った。日本対がん協会が、今年の朝日がん大賞に、あのミスター100ミリシーベルトの福島県立医科大学副学長の山下俊一氏を選んだと朝日新聞の報道である。朝日がん大賞は、朝日新聞社が提案して賞金も負担している。

日本対がん協会(垣添忠生会長)は、今年度の朝日がん大賞と対がん協会賞の受賞者を1日付で発表した。大賞には長崎大学大学院教授で、7月に福島県立医科大学副学長に就任した山下俊一さん(59)が選ばれた。チェルノブイリ原発事故後の子どもの甲状腺がんの診断、治療や福島第一原発事故による福島県民の健康調査や被曝(ひばく)医療への取り組みが評価された。2日に鹿児島市である「がん征圧全国大会」で表彰する。

山下氏は飯舘村の人たちにも「避難する必要はない。子どもだって住み続けて大丈夫」「放射線は笑っている人にはきません」と言って、住民の被ばくを許した人物である。100mSv以下はまったくがんの心配はないと言っていたはずだ。山下氏の主張が正しくて、放射線による影響がないのなら、取り組むべき被ばく医療などないはずである。被ばく医療が必要だというのなら、不必要な被ばくを許した張本人の一人である山下氏が大賞に該当するはずがない。どちらにころんでも、日本対がん協会が山下氏に大賞を与える理由が見つからない。

被ばくの影響は早く現われる白血病でも5年程度先のことだ。今必要なのは「被ばく医療」ではなく、子どもたちの被ばく量をはかり、汚染地区から避難させ、除染をすることではないのか。これでは放火犯人を消火活動に尽力した(する予定?)として表彰するようなものだ。

いったいだれがどのような基準で選んでいるのかと、調べてみた。日本対がん協会そのものが、朝日新聞社も所有権を持つ有楽町マリオンの中にある。役員名簿によれば、理事長が箱島信一氏で、2005年に武富士広告費問題の責任を取って朝日新聞社社長を辞任した人物。日本新聞協会会長になったが、新党日本に関するねつ造事件の責任を取って、これまた辞任して、今は朝日新聞社の顧問の肩書きを持っている。理事の一人である秋山耿太郎氏は、現朝日新聞社社長である。監事には、朝日新聞社取締役財務担当の小畑和敏氏、評議員の中にも朝日新聞社経営企画室長・ 阿部圭介氏がいる。ようするに朝日新聞社の外郭団体といっても良いほどに朝日新聞どっぷりの団体だった。これは朝日新聞経営陣の意志だということだ。

朝日新聞は「脱原発」へ舵を切ったといっている。「提言 原発ゼロ社会、社説特集」も企画した。しかし、その内容は「推進から抑制へ」であり、

ゼロにできるのはいつか。
技術の発展や世界の経済情勢に左右され見通すのは難しいが、20~30年後がめどになろう。

というのだから、マスコミお得意の「現実的に選択して」当面は現状維持と言うことだ。そこに今回の山下の大賞受賞である。朝日の体質は骨まで変わっていない。

万病に効く霊芝、恋愛運を呼び込むというピンクのパワーストーンを自分のサイトで販売して、薬事法違反で摘発されたアグネス・チャンがいまだに「ほほえみ大使」として対がん協会に紹介されている。盛大にリレー・フォー・ライフやピンクリボン活動をやってはいるが、一面では胡散臭い協会ではないのかと疑問に思う。

役員には2人のがん患者、『がん六回 人生全快』の関原健夫氏と岸本葉子さんがいる。評議員の岸本さんなんぞは、実際の運営には関わってはいないと思うが、山下氏の受賞を知っているのだろうか。それにしても岸本葉子さんは、今回の福島原発事故に関して一言も発言していない。がん患者として山下俊一氏の受賞をどう思っているのか聞いてみたいものだ。「岸本葉子ブログ」には「福島原発」の語句がひとつもないのだ。その一方で(財)日本原子力文化振興財団の月刊誌「原子力文化」には九月号までに連続して21回も連載を続けている。(財)日本原子力文化振興財団は文化人・学者を対象に、原子力の安全神話の役割を担うように活動してきた団体だということは、たぶんご存じのはずだと思うが。

物書きでも福島原発事故に対して積極的に活動し発言している人もいる。田口ランディ氏は『ヒロシマ、ナガサキ、フクシマ: 原子力を受け入れた日本』をまもなく出版する予定だし、福島の子どもたちの疎開、北海道や長野での林間学校に関わっている。岸本さんと対談して『いのちの往復書簡』を著わした玄侑宗久氏も福島の住民のことを深刻に考えてブログで発信している。おしどりマコ・ケンは出演企画をキャンセルされても原発について書き続けている。いや官邸の記者会見にまで参加している。

がん患者として、日本対がん協会の評議員として、「原子力文化」に寄稿しているエッセイストとして、あなたは福島の子どもたちの将来をどのように描いているのでしょうか。どうか眼を覚まして欲しいのです。

2011年9月 1日 (木)

中川恵一 × 近藤誠 (2)

放射線被ばく CT検査でがんになる 放射線のひみつ 中川恵一氏は『放射線のひみつ』の冒頭に、この本で言いたいことのまとめとして次の点を挙げている。

  • 今回の原発事故による放射線被ばくで、少なくとも一般公衆において、がんは増えないと予想できます。
  • 放射線汚染(内部被ばく)を恐れるあまり、政府や自治体が出荷制限・摂取制限をしていない野菜・魚・水までをも警戒し、摂取しないと、かえって健康被害が生じかねません
  • 今回の事故に影響を受け、放射線被ばく(外部被ばく)を恐れ、X線やCT等による検診を受けないと、がんを早期に発見できず、進行がん、末期がんにいたる可能性があります。
  • 放射線に多する正しい理解を欠いたままでは、恐怖・懸念・ストレスが大きくなる可能性があります。

これに対して、近藤氏の中川氏に対する”同情的”な評価がこの本の最後に載っている。

彼の名誉のためにいうと、原発関連企業から研究費をもらっていたとは思わない。原発事故が生じるまで、中立的な意見だったのでしょう。しかし、被ばくリスクに関して初歩的なミスを犯しているところからみて、普段からリスクについて調べていたとは思われない。テレビ出演依頼を受けた後、にわか勉強をしたところ、それまで(原発企業寄りの)専門家たちがあちこちに張り巡らしておいた「100ミリシーベルト以下は安全だ」という言説の網に引っかかってしまったのだろうとみています。

中川氏も養老孟司氏との週刊誌での対談で、「御用学者といわれていますが、私は電力企業からびた一文ももらったことはない。」と釈明しているから、「御用学者」といわれるのを相当気にしているのだろう。

中川氏は「一般公衆において、がんは増えないと予想できる」根拠として、「100~150ミリシーベルト(積算)がリスク判断の基準です」としたうえで、広島・長崎の被爆者を永年調査した結果から、「100ミリシーベルト以下では発がん率が上昇するという証拠がない」という。(47ページ)

しかし、事故初期のテレビ・新聞に登場したときには、例えば毎日新聞3月20日付の「Dr.中川のがんから死生を見つめる/99」では、「原爆の被害を受けた広島・長崎のデータなどから、100ミリシーベルト以下では、人体への影響がないことは分かっています。」と断定していた。それが「証拠がない」「データがない」とトーンダウンしている。team nakagawaのブログでもこの部分はすべて書き直されている。

「100ミリシーベルト以下は人体への影響がない」という「しきい値なし仮説」に対して近藤氏は次のように反論する。

  1. ICRP(国際放射線防護委員会)が20年も前に直線・しきい値なし仮説を採用すると宣言している。
  2. 原爆被爆者のデータから、10~50mSv領域でも直線比例関係があることが示唆されている。
  3. 15カ国40万人の原発作業従事者の平均被ばく線量が20mSvでしかないのに、発がん死亡の増加が認められた。

1に関しては、ICRPの1990年勧告は次のように、しきい値なし仮説を棄却している。(20,21ページ)

(64)<広島・長崎の>調査対象集団は大きい(約8万人)が,95%レベルで統計学的に有意ながんの過剰は約0.2Sv以上の線量でのみみられる。もっと低い有意レベルならば,0.05Svぐらいの線量で過剰がみられる。
                                          (68)多分そうであろうと考えられるのであるが,もしある種のがんが,1個の細胞に生じた損傷から発生することができるならば,防御機構が小線量において完全に有効である場合にのみ,この種のがんの線量反応関係に真のしきい値が存在しうることになる。細胞における損傷と修復のバランスおよびそれに続く防御機構の存在は,線量反応関係の形に影響を及ぼすことはできるが,それらが真のしきい値を生じさせていると考えることはできない。

(69)バックグラウンドに少し線量が加わっただけでは,がんが誘発される確率は確かに小さく,被ばくグループの線量増加分の寄与によるがんの期待数は,大グループの場合でも1よりはるかに小さいであろう。したがって,がんの増加がみられないことはほとんど確かであるが,だからといってそれは真のしきい値の存在の証拠にはならない。

統計的に有意とはいえないが、5mSvでもがんの過剰があり、DNAの修復機能があってもしきい値を生じさせるほどではなく、自然放射線程度ではがんが誘発される確率は疫学的には検出できないかもしれないが、それがしきい値の存在を証明するわけではない、と述べているのである。

同じように近藤氏は、「実験で、1mSvと言う微量の被ばくでも(DNAの)二本鎖切断が生じることが分かっています。このようにごく低線量でも発がんする契機になり得るので、発がんにはしきい値がないわけです」と書いて反論している。

ICRP勧告は、主として広島・長崎の被爆者のデータをもとにして解析されているが、今も継続している被爆者の寿命調査(LSS)の最新報告は、「固形がん及びがん以外の疾患による死亡率:1950~1977年」と題した第13報である。(財)放射線影響研究所にそれが載っている。その要約は次のようにいう。

約440例(5%)の固形がんによる死亡と 250例(0.8%)のがん以外の疾患による死亡が、放射線被曝に関連していると考えられる。固形がんの過剰リスクは、0-150mSvの線量範囲においても線量に関して線形であるようだ。

がん以外の疾患による死亡率に対する放射線の影響については、過去30年間の追跡調査期間中、1Sv当たり 約14%の割合でリスクが増加しており、依然として確かな証拠が示された。

「100mSv以下では人体への影響はないことが分かって」いるのでなく、影響が確かに「あることが分かっている」のである。中川氏は何を根拠に書いているのだろうか。さらに言えば、御用学者もマスコミも、がん死のリスクだけが問題かのように論じているが、がん以外の疾患(心筋梗塞・脳卒中・肺疾患・消化器疾患など)によるリスク増加も「確かな証拠が示され」ているのである。

さて、今中哲二氏が13報のデータを解析した結果が次の表である。Wshot00257_2 これによると、解析対象を低線量域にすればするほど1Sv当たりの過剰相対リスクは増加しているようだ。0~0.125Svまではp値は0.05以下で統計的に有意である。0.1Sv以下でも有意とはいえないが、過剰相対リスクは大きくなる傾向にある。しきい値があるのであれば、0.1Sv以下ではゼロにならねばならない。

ICRP勧告は、がんのリスク評価方法に「相加リスク予測モデル」と「相乗リスク予測モデル」があることを挙げ、(固形)がんには相乗リスク予測モデルが妥当であるとしている。白血病以外の固形がんについては、対象集団のがん死亡率に過剰相対リスクを掛けたものが、将来のがん死亡率になる。上の表1では過剰相対リスクはほぼ0.5とみてよいから、1Svの被ばくではがん死亡率が1.5倍になるわけだ。

ここで「1Svを被ばくした場合、がんによる死亡率が5%増加する」というICRP勧告、中川氏が説明に使っている数字の根拠を考えてみる。実際の5%算出は複雑な計算が必要であり、下の図のように、結果も被ばく時年齢と性別によって相当違うが、被ばく時年齢と男女を平均すると5%になるとしている。

Icrp01

集団のがん死亡率が0.2(20%)としたとき、過剰相対リスクは平均で0.5であるから、がんによる過剰死は、0.2×0.5=0.1(10%)である。ICRPは、これにDDREF(線量・線量率効果係数)を2と仮定して、2で割っている。0.1÷2=0.05となる。これが1Svで5%の大まかな計算根拠である。対象集団のがん死亡率が変われば、計算結果も変わるのである。

DDREFは、ICRPが根拠もなしに「低線量域ではがんになる確率は半分で良いだろう」と持ち出した仮定である。無理矢理値切っているのであり直線仮説を採用するという趣旨に反するが、ここではこれ以上追求しない。

ここで中川氏の説明を取り上げる。近藤氏に「がん診断率に、がん死亡率を足してしまうという初歩的なミス」と指摘された箇所は、この本では修正しているが、次にみるように、それでもまだ間違って理解しているようだ。

100mSvの放射線を受けた場合、放射線によるがんが原因で死亡するリスクは最大に見積もって、0.5%程度と考えられています。(1Svで5%だからその10分の1)

現在、高齢化の影響もあり、日本人の2人に1人は(生涯のどこかで)がんになり、3人に1人はがんで亡くなっています。つまり、がんで死亡する確率は(だれにとっても)33.3%です。放射線を100mSv受けると、これが33.8%になることを意味しています。

上の図をみれば「最大に見積もって、0.5%」とはいえないはずである。女の子では1Svで16%になり、100mSvなら1.6%ほどになる。3倍以上だ。

問題はそのつぎ。日本人の生涯でのがん死亡率が33.3%(3人に1人)なら、1Svでの過剰相対リスクの0.5をかけて、0.333×0.5≒0.17が増加するのだから、1Svで5%ではなく、17%増加するのである。過剰相対リスクという概念を理解していないことによる誤りである。

中川氏 100mSvの被ばくで、33.3%+0.5%=33.8% 0.5%の増加

実際は、1Svで、0.333+0.333×0.5=0.4995≒0.5(50%)   17%の増加
100mSvなら、0.333+0.333×0.05≒0.35(35%)   1.7%の増加
20mSvなら、0.333+0.333×0.01≒0.336(33.6%) 0.3%の増加

となる。(ただし、DDREFは無視した)近藤氏は、国際がん研究機関による15ヶ国の原発作業従事者60万人の調査データ「572F3d01.pdf」をダウンロード からの過剰相対リスク 0.97 を使って次のように計算している。

Wshot200276

  • 1Svでは、0.333+0.333×0.97≒0.66  なんと3人に1人が、3人に2人になる
  • 100mSvでは、0.333+0.333×0.097≒0.36  2.7%の増加
  • 20mSvなら、0.333+0.333×0.02≒0.34

結局のところ、中川氏はかけ算するべきところを足し算をしている。0.5%の増加となるのは、中川氏のいう100mSvではなく、30mSv(DDREFを考慮すれば60mSv)に相当する。

このようにICRP勧告も理解せず、最初の計算からまちがっているのだから、その他の部分を読むにも値しない本だ。このような人物が放射線の専門家としてマスコミに登場し、食品安全委員会の委員として500Bq/kgまでは安全だというお墨付きを与えているのだから、何ともやりきれない。

ICRP勧告は内部被ばくを事実上無視しており、100mSv以下の影響を半分に値切るなど、私としては同意できない部分が多いのであるが、そのICRP勧告に照らしてさえも、中川氏の説明は間違いである。

放射線を恐れてがん検診を受けないと早期発見ができず、進行がん・末期がんになる、等と脅しているが、近藤氏はそれに対してCTによる被ばくがいかに多いかを説明している。造影CTでは1回の検査で50mSv被ばくすることはあたりまえにあるが、半年に1回のCT検査を受けているわれわれがん患者では、年間で100mSvの被ばくはほぼ全員が該当するのではないだろうか。その時の過剰がん死リスクは1.7~2.7%ほどにもなる。100人のがん患者がいたとして、年2回のCTで100mSvを被ばくしていれば、100人のうち3人はCT検査によるがんで死亡する計算になる。これを数年間続けると更に増える。このリスクと、がんの再発・転移を早期発見するメリットを秤に掛けて判断するべきだろう。再発・転移したがんは治癒することはないのだから、早く発見しても余命はほとんど変わらない。

ただし、休眠療法・少用量抗がん剤治療などの副作用を抑えた抗がん剤治療をするのなら、早く発見するメリットの方が大きいと、私は考えている。

近藤氏の本は買っても良いが、中川氏の本は買ってはいけない。

                    <(3)に続きます

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