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2012年9月 9日 (日)

植松稔『抗がん剤治療のうそ』(2)

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抗がん剤治療のうそ ~乳がんをケーススタディとして~ (ワニブックスPLUS新書) ITT(Intention To Treat)解析のルールに縛られないで、クロスオーバーした人たちを別に扱った試験もあります。植松稔先生の新著『抗がん剤治療のうそ ~乳がんをケーススタディとして~ (ワニブックスPLUS新書)』では、乳がんの分子標的薬ハーセプチンの例を取り上げています。2005年のクリニカル・オンコロジー誌に載った論文です。

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「グラフ1」とは、同じハーセプチンの試験で、2001年のNew England Journal of Medicine誌に載った論文のことです。これらもクロスオーバー試験でした。上の図のように、生存率でわずかに差があります。ところが、後からハーセプチンを投与した患者と最後までハーセプチンを使わなかった患者を分けてみると、

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生存率はかなり低くなります。このように、ITTルールに縛られないで分析することも可能なのです。

植松先生はこの著作で、臨床試験の「クロスオーバー試験」という性質を巧みに利用して、抗がん剤は急いで使う必要もないし、ほとんどの患者には効果がない、ことをわかりやすく説明しています。重要な結論だけを書けば、

  • 抗がん剤による真の再発・転移予防効果は5%ほどである。
  • 抗がん剤による真の延命効果は10%程度である。
  • ハーセプチンは転移が進行してから使っても効果は同じ
  • 術後の再発予防で抗がん剤を使う必要はない
  • 最近はIPCWメソッドという詐欺のようなルールが出てきた

など。比較的抗がん剤の効きやすい乳がんでこの程度ですから、他のがんではもっと効果は小さいだろうと予測できます。この著作は、乳がんの患者会「イデアフォー」の会報に連載したものに加筆して出版とのことですが、新書ながら非常にわかりやすく、要領よくまとめられた良書です。

また、セレクティブ・クロスオーバーとIPCWメソッドを使った詐欺的な論文が現れだしたと警鐘を鳴らしています。

  1. 「専門家が言っているから正しい」は、しばしばいとも簡単にひっくり返る。(3.11後はこれはもう国民的常識になっているが・・・)
  2. 統計学のルールを鵜呑みにしない。(統計とは、わずかの違いしかないときに、相手を論破するためのツールです。誰が見ても明らかなら統計学など必要ありません)
  3. 専用のコンピュータソフトにデータを入れれば、誰でも簡単に高度な統計分析ができる時代です。大事なのはデータが現実を反映しているかどうか、人間が判断することです。
  4. メタアナリシスが重要視され、いかにも最高の統計分析とされているが、所詮は多数決の原理。真理は多数決では決まらない。(メタアナリシスを過大評価するな)
  5. 遺伝子構造は一人一人違う。がん細胞もひとりの人の腫瘍内でも異なっている。たまたま同じ器官に生じた腫瘍というだけで同じ病名がついているが、(遺伝子が違うのだから)全く同じがんということはありえない。
  6. したがって、遺伝子の違う別人のデータで作ったガイドラインに縛られることはない。(標準治療は平均治療。平均的に死んでいくことだけは保証されている)

抗がん剤には患者が期待するほどの効果はない。しかし、一部の患者には非常に効果があり、延命に寄与している。延命効果は乳がんの新しい薬で20%程度、その他のがんではもっと低いだろう。ごく希に腫瘍が消失するような例もあるが、それは数千人に一人程度で、抗がん剤のおかげかどうかも明確ではない。逆に抗がん剤で命を縮める患者もたくさんいるはずですね。

陽子線治療はエックス線に比較してほとんど優れた点はないことを強調しています。北海道がんセンターの西尾院長も同じことをいっていましたね。箱物を作っても、技量の低い放射線技師しかいなければ、役にたたないと。

最後は「医療の不確実性」に行き着きます。”自分”に効果があるかは、やってみないとわからない。

必読文献に違いありません。


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