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2016年8月29日 (月)

今日の一冊(55)帚木蓬生『受難 』

実験の計画やデータ整理があり多忙なのに、ついつい読みふけってしまいました。

帚木蓬生は『三度の海峡』以来、ほとんどの作品を読んでいます。今回の『受難』もまた、朝鮮を舞台にした作品です。

母と二人で滝壺に転落して水死した高校生の姜春花(カンチュンファ=はるか)は、津村リカルド民男が拓いた博多細胞工学研究所で最先端のiPS細胞による再生医療によって、レプリカとして再生する。

その方法というのが、万能細胞を3Dプリンタを使ってインクジェット方式で噴射しながら、もとのからだと同じものを作り上げていくという方法。なるほど、インクジェットのインク粒子と細胞の大きさはほぼ同じだから、できなくはないのだろう。

そして、多数の高校生が犠牲になったフェリー「世越号」沈没事故、北朝鮮の最高指導者暗殺計画が絡んでくる。

祖父と暮らすことになったはるかは、救出された高校生らと連絡を取りながら、沈没事故の真相に迫ろうとするのだが、レプリカであるはるかの身体には、数ヶ月で皮膚に亀裂が生じ、顔も老婆のようになる。何度も3Dプリンタによる修復を繰り返さざるをえない。

冬の京都の描写もいいね。特に桂離宮の簡素な佇まいが目に浮かぶようです。(行ったことはないけど)

最後はあっと驚くどんでん返しで、姜春花のレプリカであるはるかは半年の命を終えるのですが、それを予期していたかのように、はるかは、多くの人と出会い、たくさんの旅をし、日本と韓国の食事を堪能し、それらの全てをスケッチとして書き残します。半年を、20年も30年分も生きたと。

細胞が劣化して皮膚に深いしわができる。修復すれば数ヶ月は元通りの生活ができるが、紫外線や激しい運動はダメ。そしていずれは内臓細胞にまで劣化が及んだら・・・。これって抗がん剤治療に似ています。抗がん剤が効けば生きられる。耐性が付けば新しい抗がん剤を。しかし、いずれは・・・。

そうしたときに、はるかのように十分にいのちを生き切ることができるだろうか、などと考えてしまいます。

〈インタビュー〉帚木蓬生『受難』


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