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2017年1月19日 (木)

今日の一冊(66)『このまま死んでる場合じゃない!』

なんともすごい女医さんがいるものだ!

エビデンス至上主義では、再発・転移したがんは治せない。抗がん剤でがんを治せないのは、治せるように使っていないだけだ。エビデンス至上主義の考え方ゆえに、標準治療こそが、エビデンスに基づいた最善の治療と思っている医師も大勢います。

と堂々と言うのだが、この女医さん、岡田直美医師は、重粒子線治療を行っている放射線医学総合研究所(放医研)病院の医長です。国の機関である病院の医師がここまで言って大丈夫か?と心配になるくらいです。

このまま死んでる場合じゃない!

しかし、多くの再発・転移したがん患者を、標準治療で使われる抗がん剤や重粒子線を含む放射線治療、ラジオ波焼却、動注塞栓治療などさまざまな治療法を駆使して”治して”いる。

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がんが再発したり、転移していると、多くのお医者さんがあきらめてしまいます。これが現代医学の常識です。でも本当は、現在の医学なら十分治すことができるのです。

がんの治療には、がんができた臓器とその進行度ごとに治療が決められている「標準治療」というものがあります。今は、この標準治療でがん治療をすることが常識で、それ以上のことをやろうとすると、とたんに異端児扱いされてしまいます。

岡田医師の治療で、子宮頸がんの多発転移が治った善本考香さんの治療歴がすさまじい。

①子宮頸がんと診断され手術、②傍大動脈リンパ節に再発。抗がん剤と放射線治療で、傍大動脈のがんはなくなったけど、今度は、③両側の縦隔と肺門と左鎖骨上窩に再々発。東京に出て、岡田先生と出会う。調べてみたら、肺転移も見つかる。そこで、全身抗がん剤治療をおこない、肺のがんが消えました。次に、動注塞栓で左鎖骨上窩のがんが消えて、両側の縦隔・肺門リンパ節の手術。そして、その後の精密検査の結果、④左の縦隔、左鎖骨上窩に再びがんが現れ、肝臓、腸骨リンパ節に新たながんが見つかる。

再々々々発?

手術後に残った4ヵ所のがんは、肝臓、腸骨リンパ節、左鎖骨上窩リンパ節、左縦隔リンパ節。⑤肝臓と腸骨リンパ節は動注塞栓で消え、⑥左鎖骨上窩と左縦隔のリンパ節は重粒子線で退治できた。がんとの闘いは7ヵ月で、がんの残存はゼロ。最終の治療となった重粒子線治療から約3年経っていますが、残存ゼロのままです。

どうしてこのような治療にチャレンジできるのか? そのカラクリは「オリゴメタ(少数転移)説」にあると言う。正確には「オリゴメタスタシス(oligometastasis)」。

標準治療によるがん治療では、「転移が1ヵ所でもあったら全身に無数に転移している」という〝全身転移説〟をとっています。だから膵臓がんで遠隔転移、肝臓や肺に一ヶ所でも転移があれば手術はできない、後は抗がん剤治療で延命を図るだけ。しかし抗がん剤はやがて耐性ができて使えなくなる。すべての抗がん剤に耐性ができたら、「あとは緩和」治療を勧められる。

今のがん治療は、あきらめが早すぎるように思います。だって転移が1ヵ所でも10ヵ所でもⅣ期の診断ということで「もう手の施しようがありません。延命治療です」となってしまいます。
1ヵ所だったら、先ほどの「オリゴメタ(少数転移)」の病態である可能性も高く、あきらめてしまうのはもったいないです。

「オリゴメタ説」は、HellmanとWeichselbaumが提唱したもので、「腫瘍が全身に広がっている」場合とは異なり、「限局した部位でかつ数が少ない」病態が存在するというものです。つまり、一ヶ所でも転移があると全身に転移 しているという「全身転移説」も、少数転移しているだけという「オリゴメタ説」も、どちらも仮説なのです。しかし、現在の標準治療では「全身転移説」を前提としている。だから治せるのに、治すように抗がん剤を使えないのです。

再発しても、あちらこちらに転移しても、治る可能性は十分にあります。私はこれまで「治らない」と言われてしまった、さまざまな種類のがん患者さんを治してきました。その中には、肺に18ヵ所も転移していた大腸がんや、腹膜播種、つまりお腹の腹膜にまで転移してしまった胃がん・大腸がん、同様に胸膜播種の肺がん、進行した膵臓がんなど、重度の患者さんも多く含まれます。

と言う岡田医師は、抗がん剤の使い方も標準にはこだわらない。低用量抗がん剤治療的な使い方もする。

抗がん剤などの薬剤は、濃度依存性と時間依存性という効き方があります。濃度依存性というのは、薬剤が濃ければ濃いほどよく効くということ。時間依存性というのは長い時間、その薬剤が病巣に接触していればいるほどよく効くということです。

シスプラチンは濃度依存性かつ時間依存性の薬剤です。シスプラチンは一度に入れても何回かに分割しても大差なく、分割したほうが効果があるという論文もある。それなら少量ずつ入れたほうが、副作用をコントロールしやすい分、いいですからね。

エビデンス至上主義にも批判的です。動注療法を例に、

動注が静脈投与と違いがないと言う論文も怪しいものです。なぜ怪しいかというと、動注をやったこともない医師が論文を集めて書いていることも多く、動注療法を行う医師のレベルがどれくらいかについては担保されていないのです。根拠となった論文は欧米の結果を反映していますが、この手の細かい技術が必要な治療法は日本人のほうが上手です。動注は手術と同じように、上手な医師と下手な医師では結果が大きく変わってきます。

標準治療という治療マニュアルのような治療法に傾倒している医師は、二言目にはエビデンスと言います。動注なら動注の論文をたくさん集めて、統計解析した論文。これをメタアナリシスと言いますが、これが、もっともエビデンスレベルが高い、信頼度が高いものとされています。論文の筆者が動注をしたことがあろうとなかろうと関係ないのです。一見客観性はあるように見えますが、机上の空論というか、何か腑に落ちないのです。

と言っています。先の癌治療学会での「低用量抗がん剤治療排斥」事件でもそうでしたが、いくらすばらしい治療症例を紹介しても「それは単なるケースレポートでしょう」「エビデンスというにしては弱い」と一蹴されてしまいます。治った患者さんのすべてについて分析し結果を論文にしても、それは後向き試験(過去のデータをまとめたもの)で、客観性に乏しいと、高く評価されることはありません。ランダム化比較試験でなければエビデンスでないと頑なに考えているのです。

〝個人〟がどんなにたくさんの患者さんを治したとしても、治療をしたことがない「論文屋さん」に勝つことは不可能なのです。

力のある企業が開発した薬や医療機器は、お金の力で大規模な臨床試験をおこなえるので、膨大なエビデンスを集めることができ、保険適用され、さらには標準治療へと格上げされます。一方、小さな製薬会社からすばらしい薬が開発されても、大規模な臨床試験をおこなうお金も時間もないため、なかなか広まってくれません。エビデンス=証拠を集めて、客観的に評価を集める、と、いかにも平等に聞こえますが、証拠を集める時点で、経済格差が生じていて、不平等であることがじつに多いのです。

だから、私にはエビデンス至上主義=EBM原理主義者は、グローバル製薬企業の世界戦略に取りこまれ、その片棒を担いでいる側面が顕著になってきた、と思えるのです。

しかし、エビデンスに囚われなければ、治せる患者はたくさんいる。一ヶ所でも再発・転移があれば、治療法は抗がん剤しかない。エビデンスやガイドラインは、「緩和ケアと死への道」へと掃き清められているのです。負けることが分かった治療法です。

エビデンスレベルが高い治療というのは、囲碁や将棋でいうところの定石、つまり最善手というだけのものです。しかし、その最善手で負けることがわかっていたら、定石にこだわるでしょうか。

再発・転移して「あとは緩和ですね」と言われた患者としてはどうすべきか? 善本さんが自分の体験から、具体的な提案をしています。それは本書をじっくりと読んでいただくということで・・・。

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コメント

ひでこさん。

>善本さんが受けた動注塞栓て、関空近くのIGTですよね。私は見られませんでしたが、BSのがん特集で肝臓がん患者の山下弘子さんが受けたのもIGTです。

名指しはしていませんが、たぶんそうでしょうね。
医者の世界もいろいろとあるのでしょう。

善本さんが受けた動注塞栓て、関空近くのIGTですよね。私は見られませんでしたが、BSのがん特集で肝臓がん患者の山下弘子さんが受けたのもIGTです。

ニャンコ先生がIGTや横浜をブログでボロッボロに言ってるのですが、これってどうなんでしょうね?IGTはニャンコ先生が言うほど悪くないと思います。保険診療だし入院設備もあるし。
おまけに、ニャンコ先生はそこで6年間働いて1から 技術を学んだのです。堀先生が良い塞栓剤を開発してなければ、ニャンコ先生も今のような仕事はできないわけですし、医者の世界はわかりませんが、なんか不思議です。
動注塞栓学会みたいのを立ち上げ、お互いにレベルを高め合う方向にはいかないんですかね?

三好先生の昨日のブログでも紹介されていましたね。

がーこちゃん。2月はパスですか。残念です。4月にもありますからどうぞ。
膵臓がんのKRAS、P16/CDKN2A、TP53、SMAD4の遺伝子検査については私もよくは知りません。難しい検査なのか、遺伝子検査キットでできるようなものではなさそうです。

分かったらブログに書きますけど。あまり期待しないでください。

岡田先生の御本読んでみるつもりです。林さんは1回目にカフェに来られていたのですね。お話できませんでしたが資料を見て様子を知りました。遺伝子検査はどこの医療機関でもできるのでしょうか。まだ10ヶ月めなのですが もしもの時の情報を知って置かないとと思っています。ネットの操作が苦手でやっとメールしているような状態です。
先だっての会 遅れてしまい体験談聞きそびててしまいまいたが とても勇気付けられるように思います。
2月はいけないので残念です。体験談いろいろきいてみたいです。
木下様 ハマリョウ様 いい出会いを頂き 感謝です。。また参加された皆様との出会いにも感謝です。
再発の不安を抱えて気持ちは日々揺れ動きますが ブログにも励まされ 前向きに行こうとしています。
また 木下様はじめ 皆様とお会い出来るのを楽しみにしています。 今の私にはカフェが 何より力になっています. 広島からでも自分の為にでかけます。

​林さん。こちらこそご無沙汰です。
岡田先生の本で触れられている「進行した膵臓がん」の例は林さんのことなのかもしれませんね。
2年経過して、どんどん再発の確率は低くなりますね。

ところで、『すい臓がんカフェ』は​78名の参加でしたが、​前回から数名の方に自己紹介・体験談をお願いしており、好評でした。
林さんのオリゴ転移型と思われる症例で重粒子線治療した体験談をぜひお話ししていただけないでしょうか。
治らないと言われる膵臓がんの患者さんに、諦めないで可能性を追求すれば道は開けることもあると、大きな希望を与えてくれることになろうかと思います。
5分、​10分程度、長くなれば30分でも結構です。前回は5名の方それぞれが15分以上話されました。
ご無理は申し上げられませんが、ぜひご検討いただけたら幸いです。

キノシタ様
ご無沙汰しております。岡田先生とは私が最後のすい臓へ重粒子線治療を受けていた時に放医研でお会いしています。パンキャンのサイトにもありましたが、オリゴ転移型、中範囲転移型、広範囲転移型の分類でオリゴ転移型に分類されるのかなと思っています。最後の治療から2年が経過し再発も転移も再発もありません。まだ安心できる状況ではありませんが
慎重に治療を継続していこうと考えております。
今回の記事参考になりました。

マイコさん。
私の小難しく書いた記事を「分かりやすく」と褒めていただいたのは初めてです。ありがとうございます。

ジャンヌダルク先生(岡田先生)は自分のことを「ファースト・ペンギン」だとも仰っています。誰もやらないことを最初に勇気を持ってやってみる。
化学放射線治療で遠隔転移が消えた! すばらしいですね。
やはりそうした例がたくさんあるのですから、再発・転移があっても諦めないで、標準治療にこだわらない先生を探すことで、命を諦めない。
患者の「知識力」と「判断力」と「コミュニケーション力」で道が開けると善本さんは述べています。
エビデンス至上主義の呪縛にかかっていると生き残れません。

ひでこさん。密度の濃いコメントありがとうございます。
大腸がんは肝転移があっても手術などが推奨されていますね。これはオリゴメタ説が有効であることを実証していると思います。鳥越俊太郎さんがよい例ですね。目の前に治った患者がいるのなら、常識やエビデンスに囚われないことが大事かと思います。

初めまして
こちらのブログ、難しいことを私たち素人にもとても分かりやすく書いていただいていて
しかも、思わず頷いてしまう内容ばかりで
いつも勉強させていただいています(^^)

私も術後多発リンパ節転移(4箇所のリンパ節。うち1箇所は遠隔転移)の癌患者です。
標準治療しか行わない(行えない)病院では、私のような症例は抗がん剤で延命治療するのが通常とのことでしたが
主治医の決断で同時化学放射線治療を受けることができて、画面上に映るものがなくなって1年半になります。経過も順調なので、こうして命をいただいていることに本当に感謝しています。

ジャンヌダルク先生(岡田先生)のことは、他の闘病されている方のブログで知りました。
早速著者を取り寄せたので、しっかり読んでみようと思います(^^)

情報ありがとうございます。
善本さんのブログは少し読んだ事があるので、本の内容には関心がありました。
動注塞栓は奏功したんですよね。ちなみにIGTクリニックの堀先生は、去年のがん撲滅サミットで登壇が叶わなかったお一人の先生です。(ニャンコ先生が以前いたクリニックで技術を教わった人ですが、ニャンコ先生は今は批判してます)

オリゴメタ説、とても興味深いです。乳がんの例で恐縮ですが、思い当たる例がいくつもあるからです。
トリプルネガティブという、ホルモン治療も、HER2分子標的薬も効かなく、進行が速いタイプの乳がんがあります。再発転移すると予後が極めて悪いとされています。その中で、肺転移を放射線で治療したり、脳転移をガンマナイフで治療した後、何年も画像上がんが見えてこない人たちがいます。
抗がん剤も大事に使いたいため、再燃予防の抗がん剤もしていなく、経過観察です。
全身に散らばってる説なら説明できませんが、オリゴメタ説なら説明可能です。

局所治療なんて、ただのモグラ叩きだから無駄、と言わず、こういう局所治療が上手くいった例に目を向けた方がいいと思います。
局所治療を上手く取り入れる事によって、抗がん剤を先延ばし、減量する事が可能になる場合もあるのです。抗がん剤を使い果たさないよう、大事に使いたいすい臓がんの患者さん方の為にも、こういう研究がもっと進んで欲しいですね。
がん種や転移状況は限定されますが、4年前からサイバーナイフが肺転移、肝転移に保険適用になりました。肝転移治療としてはラジオ波もあります。大腸がん患者ではポピュラーな治療ですが(肝転移治療で治る可能性もある為)、乳がんでは少ないです(全身回って肝臓に行く為)でも、ラジオ波治療で、3年間がんが出てきてない人も知っています。

ステージ4の場合、原発巣手術しても意味ないとする考え結構ありますね。消化器がんの通過障害を防ぐような手術は別として。
ただ、最近は遠隔転移があっても、原発巣手術した方が予後がいいのでは?という考えが少しずつ出てきています。乳がんでは比較試験も始まっています。
原発巣と転移巣では性質が変わっている事ありますね。例えば抗がん剤をした時に、原発巣には効いているが転移巣には効いていない、或いはその逆とか。
そういう観点からも局所治療を取り入れる事は意義があるのです。

他の種類のがんの治療が、ヒントになる事あると思います。私はナノナイフが、転移巣治療に応用できないか期待しています。
これからもキノシタさんの密度の濃いブログ、楽しみにしています。

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