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2017年3月 2日 (木)

善意の謀略

出張で小倉です。新幹線にするか飛行機にするか、小倉は微妙な距離ですね。今回は新幹線にしてゆっくりと本を読み音楽を聞きながらにしました。

寡黙なる巨人

多田富雄さんの『寡黙なる巨人』を読んでいて、おもしろい話に出くわした。

サプレッサーT細胞の発見で世界的に知られる免疫学者 多田富雄さんは、詩人でもあり、能の作者でもある。その多田さんが2001年に脳梗塞に倒れ、右半身不随となった。嚥下障害もあり話すこともできない。多 田さんはそんな悪条件に果敢に挑戦して、出版や原爆をテーマとした新作能「原爆忌」を創作するなどの活動を続けていた。その闘病の姿をNHKが取材してドキュメンタリー「脳梗塞からの再生」を放映したのだが、それを見た視聴者から励ましや激励の電話やメールが殺到したという。健康食品や民間療法を紹介した善意のものや、「免疫を高めるために・・・」と称して世界的な免疫学者に、万病に効くという商品の紹介まであったという。

電話が一段落すると、今度は直接訪問が始まった。突然訪問してきて居間に上がり込み、「この食品は免疫を高める効用がある、その作用は・・・・」という講義を延々と始める。

私は曲がりなりにも免疫学の専門家だ。素人の講義が間違っていることなど分かる。相手が善意でやっているだけに、追い出すわけにもいかず、しゃべれないから苦情を言い立てることも出来ない。ナンセンスな話を延々と聞かされることになる。

私は民間療法を馬鹿にしているわけではない。それを医療に取り入れるために、「補完代替医療学会」という学術団体も組織されている。私も去年、その学会長を務めた。
民間療法を含め、代替医療の治療効果は、個別性が高い。一人に効いたからといって、誰にも応用できるわけではない。ましてや万病に効くなどと信じるわけにはいかない。薬の効果には科学的検証がなされなくてはならない。そうした配慮のない善意の押し売りを、「善意の謀略」というそうだ。(「寡黙なる巨人」-善意の謀略から)

補完代替医療に対する私のスタンスは、患者に対しては「効果が感じられるのなら続ければ」である。しかし、それを提供する側に対しては「エビデンスを示しなさい」だ。

がん患者に対して善意から「○○が効くそうよ」とか「あのひとが○○で治ったらしい。あなたも試してみたら」とか知人から勧められる。そんな話をよく聞く。幸いにして私にはそうした"善意の贈り物"はなかったが、中には入院中のがん患者のベッドに○○の現物を持って来て「試しに飲んでみたら? ダメ元で・・・」などと、不謹慎なことを言う見舞客もあるそうだ。

多くの代替療法は高額である。中には1ヶ月に数十万円もかかるものもある。「高価なものだから効果があるに違いない」と錯覚する。善意の知人は1ヶ月分を自分の小遣いで買って持参してくれるかもしれない。

患者の立場を考えて欲しい。せっかく持って来てくれたのだからと、勧められた○○を飲んだとしよう。そして幸いなことに彼のがんが進行しなかった、 あるいは体調が良くなったとしよう。彼は、自分のがんが良くなったのは病院での治療が効いたのか、あるいは勧められた○○が効いたのか分からなくなる。 ○○を中止することは怖くてできない。死ぬまで○○を飲み続けなければならなくなる。

だから、善意でがん患者に○○の食品、がんに効くという○○を勧めるのであれば、当座飲むだけの量ではなく、一生涯飲み続けることができる量なり、お金を持参するべきである。そうできないのなら、これも「善意の謀略」と言うことができよう。

ある膵臓がん患者の例だが、ブログで紹介した治療法に対して相談を受けたので、善意でいろいろと情報を提供して、積極的に勧めたそうだ。しかし効果がなく、末期状態に。相手から「あなたが勧めた治療法で命を縮めた」と厳しい苦情の電話が来たそうである。

がん患者は「標準医療+α」を探している。特に予後の悪い膵臓がんでは+αを探すことに真剣である。しかし、医療は不確実性に充ちている。万人が納得する唯一の正しい選択肢などない。ましてや同じ膵臓がんでもAさんとBさんでは遺伝子変異の下図も箇所も違う。抗がん剤の副作用も人それぞれなのだから、誰にでも効く代替医療なんぞあるわけがない。

『すい臓がんカフェ』でもそのことは重々留意するように言っているのだが、厳しい現実に対して、ついつい患者の集まりは+α探しの「代替医療相談」の様相を呈する。そこから先には「善意の謀略」が待っているのかもしれない。


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