統合医療:講演文字起こし②

私が膵臓がんとの戦いの中で一番に大切だと思ったことは、「心の平安」です。自分のブログを見直してみると、すでに手術後からそのように考えていたことがうかがえます。『癌で死ぬことはそんなに悪いものしゃない』と入院前の6月19日に書いています。

所詮は「自殺」以外は、何で死ぬかを選択することはできないのですが、少なくとも癌を何か特別なことのように考えないで、人の死因のひとつに過ぎないと考えて、癌だとわかったら最善を尽くすこと、これもひとつの生き方でしょう。

また、『拾った命だから、のんびり生きる』と強がってもいる。手術日の前日には『生きるということ』と題して、

哲学の根本問題
とは少し大げさだが、生きるとはなんだろうか、との問なら今の私には身近で切実だ。
古代ローマのストア派哲学者エピクテートスは、自分の権能下にないものを頼るなとして、自分の力のうちにあって自由になるものと、自分の力のうちになくて自由にならないものを峻別せよ、これがもっとも大事なことだと言った。 自由になるものは、自分の考え・行動・意欲・拒否。自由にならないものは、自分の身体・所有物・評判・社会での地位、妻・子供・友人などなど。
自分の自由になることにおいて最善を尽くす。これこそが人が自由になる唯一の方法だ。良寛は次のように言う。

    欲なければ一切足り 欲ありて万事窮す  良寛

世の中の哲学・宗教において共通しているのは、自分が影響を与えることのできることがらに専念すること。これが第一の教えだった。
フランクリン・コビューの「七つの習慣」にも、「自分の関心のある領域のみで生きることは止め、影響を与えられる領域で生きよ」と言っているのは、東西共通の賢人が到達した知恵であるからだ。
癌になった自分の体をあれこれ悔やんでみても、いまさらどうなるものでもない。治療に専念するだけのことだ。自由にならない己の身体のことに思い悩むのはやめにして、己の自由になる「心(マインド)」の翼を広げて大いなるものと交信することだ。
『神』、『自然』、『仏性』、『タオ』などとそれぞれ言い方は違うけれども、要するに『永遠の命』につながる自分を信じて、その一点につながる生き方をすることだ。いかに死ぬかということは、とりもなおさず、いかに生きるかということなのだから。

と書いている。明確に意識していたわけではないが、こうして心の平安を保とうとしていたようだ。

27

がんに効く生活―克服した医師の自分でできる「統合医療」 精神神経免疫学(PNI)という学問分野は、私たちの精神的な要因と免疫システムの関係を明らかにした。人生が思い通りにならないと感じたり、人生には苦しみの方が多いと感じたりしたとき、脳はストレスホルモンであるノルアドレナリンやコルチゾールを放出する。神経系を活性化させて野獣の攻撃から身を守るための”闘争か逃走反応”の準備を整える。これらのホルモンはNK細胞の機能を封じ込める。さらに、白血球の表面にある受容体はストレスホルモンのレベルの変化に反応して炎症性のサイトカインやケモカインを放出して、その結果がん細胞との戦いが押さえられてしまう。

一方で、免疫細胞も常に脳に化学的な信号を伝達している。このようにして脳と免疫システムは常に情報交換をしているのである。

免疫システムの白血球は、無力感や、生きたいという願望の喪失に強く影響されるようだ。自分の置かれた状況を諦め、生きるに値しないと感じるようになると、免疫システムもまた機能しなくなり、がん細胞との戦いを諦めてしまうのです。

28

精神生物学(サイコバイオロジー)―心身のコミュニケーションと治癒の新理論 こちらのスライドは、心と免疫系の関係をより詳細に紹介している図です。心は遺伝子レベルでもつながっています。神経伝達物質が細胞の核内の遺伝子の発現を詳説していますが、早ければ5分、数時間で遺伝子の発現に影響が出てくるのです。

心と遺伝子はつながっているのです。白血球の表面にあるレセプターは伝達物質を通じて脳とつながっている。

プラシーボ効果が存在するということは、治癒の根底には心と身体のコミュニケーションが大きな役割を果たしていることになるのです。

「精神的」ストレスのもとでは、脳の大脳辺縁ー視床下部系は、心からの神経信号をからだの神経ホルモンである「伝達物質」に変換する。この伝達物質が内分泌系に指令を出して、ステロイドホルモンを放出させる。ステロイドホルモンはからだの各種細胞の核内に達し、遺伝子の発現を調節する。そしてこの遺伝子が細胞に命じて、代謝、成長、活動レベル、性衝動を調整し、また病気のときも健康なときも免疫反応を調整する、種々の分子をつくらせるのである。心と遺伝子のつながりは本当に存在するのだ! 心は最終的には、生命をつかさどる分子の創出や発現に作用を及ぼしているのである!

29 有名なマウスによる実験が、がんとストレス=心と身体の関係を示しています。

マウスを3つのグループに分け、第一群は電気刺激を与えられているが、ディスクを押すことによってスイッチを切ることができる。第二群は同じように電気刺激を与えられているが、ディスクを押してもそれはスイッチにつながっていないグループ。第三群は電気刺激の与えられていないグループです。

すると、電気刺激をコントロールできたマウスでは63%が腫瘍が縮小していたのです。二つの図では左右が逆になっていますが、下の図では第一群が右のグラフになります。電気刺激のないマウスよりも、それをコントロールできたマウスの方が、腫瘍縮小効果が高かったという実験結果です。

30

ヒトの場合では、乳がんの患者の例があります。①医学情報を得て、前向きに対応した。②診断を否定したり、軽視した。③告知を深刻にとらえて禁欲的に受容した。④告知を聞いて絶望した。と4つのグループを13年間追跡した結果では、図のように生存率に大きな違いがあります。もっとも追跡調査の結果ではそれほどのさがなかったという報告もありましたが、少なくとも何らかの違いが生じている。特に絶望したり深刻に受け取った患者の生存率が悪かったのです。

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がんには自然治癒あるいは奇跡的治癒といわれる現象があります。これにも心の有り様が大きく関与していると思われます。

自然治癒例がどれくらいあるのか、誰も統計を取っていないので分かりませんが、SF作家のカール・セーガンは最後の著作『科学と悪霊を語る』の中で、「ガン全体でおおざっぱに言えば1万から10万人に1人は自然治癒する」と書いています。(こちら

癌が消えた―驚くべき自己治癒力 (新潮文庫) また、『癌が消えた―驚くべき自己治癒力』には多くの自然治癒例が紹介されていますが、その中でエバーソンとコールあらが『がんの自然治癒』という著作で176例の自然治癒例を分析したと書かれています。

いまでは心療内科は普通の町の医院にも看板が掲げられていますが、この心身医療を日本で最初に研究された池見酉次郎博士がいます。私などは博士の自律訓練法のおかげで不整脈が軽減したのでした。その池見酉次郎博士と弟子の中川俊二博士はまた、世界に先駆けてがんの自然治癒例を研究された方でした。

池見酉次郎博士は、がんの自然治癒(自然退縮、奇跡的治癒)は500から1000例に1例はあると考えられているのだそうです。

中川俊二博士は『ガンを生き抜く』という著作で、74人のがんの自然退縮がみられた患者のうちで、精神生活や生活環境を詳しく分析できた31人をまとめています。31人中23人(74パーセント)に人生観や生き方の大きな変化「実存的転換」があったとされています。

「実存的転換」の意味は中川俊二さんの言葉を借りると、『今までの生活を心機一転し、新しい対象を発見し、満足感を見出し、生活を是正するとともに残された生涯の一日一日を前向きに行動しようとするあり方』です。より詳しくは私のブログの記事『がんの奇跡的治癒』『銀河系と治癒系』に紹介していますので、ご覧ください。

この文字だしをまとめるにあたって関連する記事を見直してみたのですが、昔の私は結構面白い記事を書いているのですね。本人はほとんど忘れかけているけど。(*^▽^*)

奇跡的治癒は起きるのは、サプリメントではなく心の平安、実存的転換と言われる状態になり得たときに起きるようなのです。

「分かった! 私もこれから心の平安を保って奇跡的治癒を起こそう」と考えたあなた! それは取り違えています。奇跡的治癒を目的とした時点で、それは実存的転換の状態になり得ていないのです。治癒は成り行きとしてやってくるのであって、努力して獲得するものでないのです。

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心の平安を得るためには、ひとつには「死」というものについて、自分なりの考えを整理しておくことです。膵臓がんは手術できなければもちろん、できたとしても98%の患者は治りません。いずれ再発そして死が待っています。しかし、明日の命の保証のないことは、人間すべて同じです。欲を捨てることです。もっと生きたいというのも、欲であり煩悩です。自分の思い通りにならないことにこだわるから煩悩なのです。さらにその状態ではストレスになり、免疫力も低下します。

          欲なければ一切足り 欲ありて万事窮す  良寛

がんとは闘っても、死とは闘わないことです。なぜなら、人類の歴史上、死と闘って勝利を収めた人は誰もいないからです。必ず負けると分かっている相手と闘うのは愚かであり、欲がなせる技でしょう。

希望を持ってがんと闘いましょう。しかし、欲張らないように。希望+欲=執着となります。希望はえてして執着になりやすいものです。臨終した患者の腕から伸びた管の先には、抗がん剤の点滴がぽたりぽたりと落ちていた・・・などというのは、執着の最たるものですね。

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心の平安を保つために、私が実行してきたのは、最初はサイモントン療法でした。これはイメージ療法の一種で、カール・サイモントン博士が考案したものですね。一番取っつきやすいのは、川畑伸子氏の『サイモントン療法――治癒に導くがんのイメージ療法』に付属しているCDを聞いて始めてみることでしょう。

瞑想・座禅・ヨーガも良いと思います。それぞれ自分に合ったものを選べば良い。ジョン・カバットジンの『マインドフルネスストレス低減法』はがんに対する代替療法だけではなく、多くのストレスを受けている現代人の問題を解決するためのすばらしい方法です。サイモントン療法があるていど身についたと思ったなら、是非ともマインドフルネス瞑想法にも挑戦してください。

ただし、カバットジンは次のように注意しています。

「自分のストレスをコントロールし、病気と闘うために免疫システムを向上させたい」という期待をもって、多くの癌やエイズの患者たちが瞑想を始めようとしています。
しかし、私たちは、「瞑想で自分の免疫システムを強化できる」という強い期待をもつことは、実際には自分のもっている癒やしの力を十分に引き出すうえでの障害になる、と考えています。なぜならば瞑想は、ゴールをめざすものではないからです。あまりにも期待感や目的意識が強すぎると、瞑想の精神が損なわれ、効果どころか逆に障害になってしまうのです。瞑想の本質は”何もしない”ということです。何もしないで、あるがままに受け入れ、解き放つことによって、”全体性”を体験するのです。そして、これが治癒力の基礎となるわけです。

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私たちの心は、一時も休むことなくさまざまなことを考え続けています。その多くは過去の失敗した経験だったり、未来の心配事で占められています。「あのときに精密検査をしていれば・・・」とか「いつ転移するのだろう」「あと何年生きられるのだろう」というようなことでいっぱいなのです。

この世界のできごとは、原因と結果が一対一になっているものはほとんどありません。天候を例に取ってみれば、気温、気圧、海水温、地形など実にたくさんの要因が絡み合って、明日の天気を決めているのです。気温と気圧の関係程度なら、決定論的に微分方程式を説いて予測することはできるでしょう。しかし、たくさんの要因が複雑に絡み合っている現実の世界では、未来を予測することは不可能なのです。明日の天気はまあまああたっても、長期予報はほとんどあたりません。

気象だけでなく、この宇宙全体も複雑系であり、私たちの身体も複雑系、がん細胞も複雑系です。だから治るかどうかも統計的にしか分からないのです。

原理的に予測できないものを予測しようとするから悩みが生じるのです。瞑想は「何もしない」という状態によって、こうした悩みから解き放たれることができます。

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一方で、複雑系のもう一つの特徴として、カオス理論では、初期値のわずかな違いが時間とともに拡大していって、まったく違った結果が生じる、という点があります。バタフライ効果という言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、気象学者のローレンツが「ブラジルでの蝶の羽ばたきが、テキサスでトルネードを引き起こす」と例えています。(いくつかの違うパターンがあるが。北京で蝶が・・とか)

例えば、実存的転換と言われる心の状態になったという、初期値のわずかな違いが、奇跡的治癒という結果を生じる、私は多くの奇跡的治癒例にこうした現象が関与しているのではないだろうかと推測しています。

奇跡的治癒は、それを目的としても得ることのできるものではないけれども、誰にでもその可能性はある。例え末期の膵臓がんであっても、消失した患者がいるのですから。

心の平安こそが、治癒への道を開いてくれるのです。(おわり)

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